鬼に成る者

なぁ恋

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泣いた赤鬼

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ボクを呼ぶ声が聞こえる。


切なくて、泣いてしまいそうになる。


熱い雄叫び。
叫ぶ様にボクの名前を呼ぶ。



―――ライ―――



と……


………………………………………………………


「ライ!」


太い枝の上、木漏れ日の中で浅い眠りに着いていた。

のに、毎度の事ながら、まほろばの奴に邪魔される。


「……んだよ」


「だから! お前は“故郷”に帰るのか?」


真剣な まほろばの顔。


「ん?」


「だから……長老が言ってたろ? この世界を後にするって」


そう言えば。

そんな話があった様な?


「“退治”される“仲間”が多くなり、この世界は俺達が暮らすのには、難しくなったって」


「ん――でもなぁ……」


俺はこの空が好き。


空気が好き。


何より、この世界が好き。


「あっちは、岩だらけだし、空は青くもないし……」


そう俺の髪の色の様な、真っ青な綺麗な空じゃない。

どんよりとした、げんなりする様な空。



故郷の名は“地獄”



そこの暮らしに嫌気の指した一部の“鬼”が地上の楽園へと移住した。


始めは良かった。


“人間”とも上々な交友関係を築いていた。

事実、人間との間に子どもをもうけた者も何人か居た。


それが同族の数人が、悪行をし始め、


力の強い“鬼”の悪行は、力の弱い“人間”を震え上がらせた。


その同族達は、この“楽園”を我がモノとしようと、人間を、大量に殺戮し、嫌な話だが、喰っているらしい。


ただでさえ永い寿命を、さらに延ばす効果があるとかないとか、そんな本当かどうか判らない話なのに、実行している奴等。

吐き気がする。


そんな奴等は退治されて当然だ。


皮肉な事に“退治”をしているのは、主に鬼と人間との“混血児”

“鬼”と対峙出来る唯一の“人間”

彼らには“鬼族”同様に未知なる能力が認められていた。


「ライ?」


考え込んでた俺の面に顔を覗かせるまほろば。


陽の光りに、輝く赤い長い髪。

二本角の“赤鬼”の まほろば。

金の瞳を細め、綺麗な顔をしかめている。


それに対して俺は、

青い短い髪一本角“青鬼”の ライ。

良く言えばつぶらな、銀の瞳。デカい目が、女みたいで嫌なんだ。


俺らは生まれ落ちたその時から、

ずっと一緒にいた。


“鬼”の中では、まだ若い、こちらの世界の数えで50歳。

ここに来た頃は20歳そこそこだった。


30年でこんなに変わるとは思わなかった。


「まほろばは、どうしたい?」


「俺は、居たいな。

だってお前が絶対残ると思うから」


にこやかに、金色の瞳を細める。


「何でも俺と一緒が良いんだな……」


優しい まほろば。


いつも俺の後に着いて来て、静かに守ってくれて居る。

そんな まほろばにいつも甘えている俺。

自覚はしているけれど、心地好さに、甘えたままでいた……。


だから まほろばが居れば、強くなった気がして、考えなしの言動をして、

いつも尻拭いはまほろばの仕事。


無鉄砲な俺を、変わりない頼もしさと優しさで見守ってくれて、

それが、どう言う結果を引き起こすのか深く考えもしない俺は、


ココロのままに、

自由に生きていた。


「それにさ。悪さをする同族を野放しにしたまま俺達だけ逃げるって、卑怯だ!」


「ライの言う事も一理あるけど……」

神妙な顔つきで、

「俺達にはどうする事も出来ない」


当たり前の話。

昔から、同族同士はどうこうする。って事なかったし、


「だからって、元から居る住人に後は任せたって、居なくなるなんて……無責任だ」


俺は、この世界も、

俺達よりも弱く儚い生を精一杯生きて居る“人間”が好きなんだ。


「……次の満月の夜には帰郷するって言ってた」


俺の気持ちを知ってか知らずか、まほろば は小さく呟いた。











甘かったかも知れない。

気持ちが萎える。


それだけ、目の前の光景は悲惨で、残酷であった。


民家は焼落とされ、累々と重ねられた死体の山。

一番、鬼が暴れて居る辺りに、どうにか出来ないものかと、見に来たのだ。



目に映るのは、その死体をむさぼり喰う同族の浅ましい姿。


涙が出て来た。

情けなくて、

苦しくて、


同じ血が流れて居るなんて、思いたくもなかった。


体が震える。


ココロが震える……

 



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