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吸血鬼
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しおりを挟む賑やかさを残した街中。
満月が隠れる程のネオンを背に、ボクとまほろばは街の中でも高いビルの上に上がり“気配”を探す。
ココロを探す。
───喉が渇くんだ───
高い声。
「まほろば!」
頷いたまほろばは、ボクを抱き上げて、風の様に走り出す。
街外れ。
人の通りが少ない場所。
カップルがしけこむには良さそうな場所が沢山ありそうな静かな所。
「キャ───!!」
女性の悲鳴。
朱色の鬼の気配。
変わる。
“俺”
まほろばの肩から飛び下りると、自ら走り声のした方へ飛び出す。
ビルの間の狭い空間。そこに見えたのは、事切れた男と、隣りで声の消えた女の見開いた恐怖の映る瞳。
そして、包丁を握る両腕を上に挙げた……女?
ミニスカートを履いた、金髪の短い髪の後ろ姿が見えた。
振り下ろされそうな刃物に、足下にあった空き缶を拾い上げ、両手で握り潰し固く丸め、狙いを定め投げる。
カッ
鈍い音を立て落ちる刃の部分。
“朱色の鬼”が、こちらを見る。
折れた包丁を握ったまま。
青白い肌、
朱色に光る瞳、
血の滴る唇。
長い舌を出し、ベロンと、唇を舐め回し、
「「誰?」」
にじんだ声が訊く。
鈍く光る朱色の瞳と、視線が重なる。
「彼女から離れろ」
感情が見えない瞳に寒気を感じる。
「「何で?」」
先のない刃で女性に切り付ける。
「───ひゅ」
空気の漏れる様な声を出し、女性が倒れる。
動くまほろば。
宙高くから、朱色の鬼の後ろに音もなく下り立ち、切れた喉元に手を置く。
刃先がないせいで、深い傷ではなかった様だ。
「「───鬼?」」
見開いた瞳が、まほろばの角をみつけ、冷たい笑みを浮かべる。
「「鬼?」」
朱色の鬼と対峙するまほろばが口を開く。
「お前も“鬼”だろう?」
「「何を言うのっ! こんな可愛コ捕まえて“鬼”だなんて」」
朱色の鬼は、能面の様な動かない顔に、赤い口端を限界まで上げて言う。
うっとりと、眼だけを潤ませて、
「「ほらぁ―…… 貴方も触りたくなるでしょう?
この美しさに」」
自分の胸に右手を置き、
「「“鬼”でも貴方は“オス”でしょう?」」
意味ありげな口振りで、まほろばに近付く。
「生憎と、興味がない。他人から取った“生気”で作られた“紛い物”の美しさなど」
眉を上げて冷たい声で言い放つ。
「「冷たい男」」
素早くまほろばの胸元に手を置き、跳躍し唇を重ねる。
ねっとりと、
何だか
ムカついて来た。
「「イヤっ!」」
朱色の鬼が細い悲鳴を上げ、足下に倒れ落ちる。
まほろばが、細めた金の瞳を朱色の鬼に注いで居た。
伸びた牙を覗かせた口が怒声を発する。
「“朱色の鬼”よ。俺に気安く触るな。
死にたくないなら」
その抑え放たれる“殺気”に、俺さえも震えが走る。
そして思い当たるのは“前世”の事。
“朱色の鬼”は、俺の敵。
「「イヤよ、イヤ……美しさを“男”は求めるじゃないっ!! 私は、鬼じゃない!」」
生気を吸う。
血を啜り……それは紛れもない、
「吸血鬼」
「「訳が解らないっ! 私はただ美しくありたいだけ!」」
自覚がないのか、状況を解って居ないのか?
そのどちらともとれる言葉。
「「───欲しいだけ。
自分を潤してくれるモノを」」
こちらに跳躍し、不意をつかれ押し倒される。
喉元に熱さを感じる、噛み付かれていた。
「ライっ!!」
まほろばの叫び。
手を上げ制す、牙のない歯は表面を傷付けただけ。
「貴女の中の“鬼”を狩るよ」
耳元で呟き、両手で顔を挟み首から剥ぎ上げる。視線を合わせ、
「“朱色の珠”よ、出て来い」
“言霊”を遣い捕らえる。
「「あ───あぁああっっ!!」」
のけ反る女を両腕で抱き締めたまま待つ。
ポタタ──
垂れて来た雫。
血の涙。
瞳から、朱色が溶け出す様に零れ落ち、塊に成る。
珠は、二つ。
珠が出来ると、女は気を失って居た。
まほろばが近付き、女を持ち上げて放る。
ぞんざいな扱いに気の毒になるが、まほろばに抱き上げられ、きつく抱き締められた。
「そいつは、殺人鬼だ……気にする事はない」
確かにね。
抱き上げられ、噛み切られた箇所に舌をはわされ、ぞくりと下腹辺りに違和感を感じた。
いつもの“食事”の時とは違う感覚。
治してくれているのは解る。
それとも違う感覚。
「ライ……居なくならないでくれ───」
願う想いが強くて、
知らぬ内に、唇を重ねて居た。
今日は色んな事が有り過ぎて、考える事も億劫になっていたから、
流されて、
触れた。
安心させたくて、
安心したくて───。
明けて来た空に、朝陽が見えて来ていた。
その暖かさを体中に感じながら……。
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