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精鬼
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*まほろばside*
───まほろば……
「ライ!」
倒れる姿が見えた。
バイトに行っている筈なのに!
濡れた体。
俺の名を呼ぶ辛さを含んだ声。
何があった?!
呼び掛けても、意識を失ったのか応える声がない。
そのまま外へ飛び出した。
雨が激しく降っていて、
濡れるのも構わず屋根を伝った最短距離でコンビニへ着く。
そして店の前からライの気配を追う。
ライの気配と混じる様に“薔薇”の香りが微かに鼻につく。
“薔薇”は“妖気”を発していた。
その“妖気”の元が目の前に現われる。
妖気をまとった洋館。
ここにライが居る。
妖気は“朱色の鬼”のもの。
人で無くなった鬼のそれ。
高い塀に囲まれた洋館。その下に立ち、跳躍する。
塀に沿う様に生えた木に静かに飛び乗ると、洋館を見遣る。
何とも強い妖気。
これでは“人間”であるライは気が持たないだろう。
意識の途切れた理由が解り、彼の気配を洋館内に感じて安堵の溜め息をつく。
「さて……どうしたものか?」
降る雨がうまい具合に俺の気配を隠してくれている。自身で抑えている部分の方が大半ではあるが───
反対に肌にまとわりつく妖気は遠慮を知らない。
「これは、簡単には済まないかもしれないな───」
ただ、息を殺し。
(兎にも角にも、ライを見つけ出すのが優先事項か……)
意を決して、洋館内へ意識を飛ばす。
ライの元へ。
*ライside*
───ライ!───
頭に響くまほろばの声。
近くに感じる。
安心感と共に目覚める。
ここは?
柔らかいベットに寝かされて居た。
起き上がり周りを見遣る。
洋室。
最初に目に入ったのは長く使い込んだ古さを醸し出した椅子。そして続く壁に掛かった少女の絵画。
頬に当たる風に窓を見ると淡い白いレースのカーテンが揺れている。
雨の音が強く響いて聞こえる。
窓が開いている?
「───逃げられないわよ」
声のする方を振り向くと、椅子に少女が座っていた。
白く透き通った肌。
青白く幼い顔つきに、ストレートの長髪。前髪は真っ直ぐに切り揃えられてあり、まるで日本人形の様な印象。
印象とは対照的な純白のドレスを着て、胸に咲いた一輪の赤い薔薇が小さく揺れた。
「誰?」
壁にあった少女の絵にも似て。
「私は───貴方の願望」
妖艶なほほ笑みを浮かべる。
「それとも? 貴方はこちらの方がお好み?」
瞬きした次の瞬間少女はおらず、美しい顔を冷たい笑みで飾った男が深く椅子に座っていた。
白いスーツを着こなした男は長い足を組むと、胸に挿してある赤い一輪の薔薇を左手で抜き取り、顔に寄せる。
つんとした甘い香りが漂って来た。
良く手入れされた黒い短い髪に、深い闇を思わせる黒い瞳。
その瞳が細められ、口端が上がる。
「お前の想い人は、燃える様な情熱を宿した赤い薔薇の似合う男か?」
面白そうに笑みを浮かべた男が立ち上がり、持っていた薔薇をボクに向ける。
甘いニオイが一層強くなり、また目が廻る。
ニオイは強いお酒の様に頭の芯を刺激して、意識を奪い、自由を束縛する。
精一杯のイメージを言葉に乗せて彼の人の名前を呼ぶ「まほろば……」
歪む視界に映るは、長髪の少女? それとも綺麗で冷たい薔薇の男?
*********
赤い薔薇の、
甘い香りが立ち込める温室で女が佇んで居た。
背後から「待たせたね」と、黒い瞳を細めた男が女の手の甲に口付けながら視線を合わせる。
「我が君。やっと一緒になれる……」
うっとりと瞳を潤ませながら女が溜め息を付く。
「あぁ、嬉しいよ」
男が女を抱きすくめる。
強く、強く。
女の柔らかい唇から吐息の様な空気が吐き出され、
さらに強く抱き締めながら男は耳元で囁く。
「君の“精気”は私を惑わす」
彼女にとって至福の言葉、
「───しあ……わせ、です」
白い肌はさらに白さを増し、柔らかだった肌が干からびて行く。
力無く垂れた頭部から黒く艶やかだった髪がごっそりと抜け落ちた。
彼女は“男”と出逢った瞬間から男に夢中になった。
彼が喜ぶなら何でも出来た。それが自らの“命”を差し出す事だとしても……
想いの叶った“女”は笑みを浮かべたまま事切れた。
名を名乗る事なく。
男の足下の薔薇が意思を持っている様にゆっくりと波打ち、彼の体を這い上がる。
女の亡骸にまとわりつき内に内にと包み込み、やがて赤い群集は動きを止め静寂が訪れた。
「虚しい。
……慶子会いたいよ」
男が切なげに顔を歪め我が身を抱き締める。
短い黒髪が波打ち、長く長い黒髪に。
揺れる体は曲線を描き、白いスーツはドレスに変わる。
男は少女に成った。
「寂しいわ、守恵人」
一つの肉体に二つの魂。男は少女を少女は男を欲して名を呼ぶ。
彼らは人を惑わし“精気”をむさぼる“鬼”
───まほろば……
「ライ!」
倒れる姿が見えた。
バイトに行っている筈なのに!
濡れた体。
俺の名を呼ぶ辛さを含んだ声。
何があった?!
呼び掛けても、意識を失ったのか応える声がない。
そのまま外へ飛び出した。
雨が激しく降っていて、
濡れるのも構わず屋根を伝った最短距離でコンビニへ着く。
そして店の前からライの気配を追う。
ライの気配と混じる様に“薔薇”の香りが微かに鼻につく。
“薔薇”は“妖気”を発していた。
その“妖気”の元が目の前に現われる。
妖気をまとった洋館。
ここにライが居る。
妖気は“朱色の鬼”のもの。
人で無くなった鬼のそれ。
高い塀に囲まれた洋館。その下に立ち、跳躍する。
塀に沿う様に生えた木に静かに飛び乗ると、洋館を見遣る。
何とも強い妖気。
これでは“人間”であるライは気が持たないだろう。
意識の途切れた理由が解り、彼の気配を洋館内に感じて安堵の溜め息をつく。
「さて……どうしたものか?」
降る雨がうまい具合に俺の気配を隠してくれている。自身で抑えている部分の方が大半ではあるが───
反対に肌にまとわりつく妖気は遠慮を知らない。
「これは、簡単には済まないかもしれないな───」
ただ、息を殺し。
(兎にも角にも、ライを見つけ出すのが優先事項か……)
意を決して、洋館内へ意識を飛ばす。
ライの元へ。
*ライside*
───ライ!───
頭に響くまほろばの声。
近くに感じる。
安心感と共に目覚める。
ここは?
柔らかいベットに寝かされて居た。
起き上がり周りを見遣る。
洋室。
最初に目に入ったのは長く使い込んだ古さを醸し出した椅子。そして続く壁に掛かった少女の絵画。
頬に当たる風に窓を見ると淡い白いレースのカーテンが揺れている。
雨の音が強く響いて聞こえる。
窓が開いている?
「───逃げられないわよ」
声のする方を振り向くと、椅子に少女が座っていた。
白く透き通った肌。
青白く幼い顔つきに、ストレートの長髪。前髪は真っ直ぐに切り揃えられてあり、まるで日本人形の様な印象。
印象とは対照的な純白のドレスを着て、胸に咲いた一輪の赤い薔薇が小さく揺れた。
「誰?」
壁にあった少女の絵にも似て。
「私は───貴方の願望」
妖艶なほほ笑みを浮かべる。
「それとも? 貴方はこちらの方がお好み?」
瞬きした次の瞬間少女はおらず、美しい顔を冷たい笑みで飾った男が深く椅子に座っていた。
白いスーツを着こなした男は長い足を組むと、胸に挿してある赤い一輪の薔薇を左手で抜き取り、顔に寄せる。
つんとした甘い香りが漂って来た。
良く手入れされた黒い短い髪に、深い闇を思わせる黒い瞳。
その瞳が細められ、口端が上がる。
「お前の想い人は、燃える様な情熱を宿した赤い薔薇の似合う男か?」
面白そうに笑みを浮かべた男が立ち上がり、持っていた薔薇をボクに向ける。
甘いニオイが一層強くなり、また目が廻る。
ニオイは強いお酒の様に頭の芯を刺激して、意識を奪い、自由を束縛する。
精一杯のイメージを言葉に乗せて彼の人の名前を呼ぶ「まほろば……」
歪む視界に映るは、長髪の少女? それとも綺麗で冷たい薔薇の男?
*********
赤い薔薇の、
甘い香りが立ち込める温室で女が佇んで居た。
背後から「待たせたね」と、黒い瞳を細めた男が女の手の甲に口付けながら視線を合わせる。
「我が君。やっと一緒になれる……」
うっとりと瞳を潤ませながら女が溜め息を付く。
「あぁ、嬉しいよ」
男が女を抱きすくめる。
強く、強く。
女の柔らかい唇から吐息の様な空気が吐き出され、
さらに強く抱き締めながら男は耳元で囁く。
「君の“精気”は私を惑わす」
彼女にとって至福の言葉、
「───しあ……わせ、です」
白い肌はさらに白さを増し、柔らかだった肌が干からびて行く。
力無く垂れた頭部から黒く艶やかだった髪がごっそりと抜け落ちた。
彼女は“男”と出逢った瞬間から男に夢中になった。
彼が喜ぶなら何でも出来た。それが自らの“命”を差し出す事だとしても……
想いの叶った“女”は笑みを浮かべたまま事切れた。
名を名乗る事なく。
男の足下の薔薇が意思を持っている様にゆっくりと波打ち、彼の体を這い上がる。
女の亡骸にまとわりつき内に内にと包み込み、やがて赤い群集は動きを止め静寂が訪れた。
「虚しい。
……慶子会いたいよ」
男が切なげに顔を歪め我が身を抱き締める。
短い黒髪が波打ち、長く長い黒髪に。
揺れる体は曲線を描き、白いスーツはドレスに変わる。
男は少女に成った。
「寂しいわ、守恵人」
一つの肉体に二つの魂。男は少女を少女は男を欲して名を呼ぶ。
彼らは人を惑わし“精気”をむさぼる“鬼”
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