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炎鬼
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しおりを挟む後に残るは、歪んで落ちた眼鏡。
あっと言う間にそれは終わった。
名刺に触れた途端に、全身が燃え上がった。
峠田が、声にならない叫び声を上げながら……消えた。
鉄に溶けて混じる。
峠田の残骸。
熱さは躰を包んだままで、たまらず叫ぶ!!
覚えているのは、
溶ける鉄くずの熱さと、崩れ行く木材の欠片。
遠くから聞こえるサイレンの音。
後で知ったのは、
火事になり、その建物は崩壊したとの事。
気付いたら
俺は路上を彷徨っていて
我に返った時、名刺は焼け落ち、名前しか訊いて居なかった事に気付く。
ヤクザの真柴。
さぁ、返して貰おうか。
俺の金を……
そうしたら幸多に会いに行こう。
一年。見つけるのに長く掛かった。
けれど、目覚めた“能力”を使いこなすには十分な時間で、
追い詰めた真柴の答えは、
「俺は知らないっ!
これを始めたのは、組のトップさ!」
罪を押し付け合う。
何と醜き人間達よ。
金庫にごっそりとあった札束をこちらに差し出す。
近くにあったビニール袋に詰めると、
「「そのトップとやらを教えろ」」
これで終わる。
燃える真柴の身体。
今度は加減して、この空間だけを燃やす。
「「ククッククク」」
聴こえるサイレンの音を背に、静かに鉄扉を閉める。
ドスッと、
扉から聞こえる音。
さようなら真柴。
*ライside*
「はい。食べて行って」
目の前に出された肉料理。サイコロステーキなんだけど、緑色のソースがかかっている。
それが、湯気を立ち上ぼらせて良い匂いを周りに振りまいていた。
「これは新作ですか?」
「そうよぉ♪ 礼くんの感想訊きたくて」
桃井さんの笑顔。
「そりゃ遠慮なく頂いちゃいます」
本当に、桃井さんの手料理は美味しいんだぁ
箸で口に運び舌で転がす。
甘くて辛くて旨味がジワァっと広がる。
「美味しいです!」
「でしょお? 名前は“男転がし”って付けたの」
ネーミングがさすが、と言うか謎な桃井さん。
他にも
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スパゲティは“男流し”
何だろう。全てに“男”が付いて居るのにはもう感心するしかなくて
スタッフがお客の相手をしない飲み屋らしくないこの店でも、
“ゲイバー”らしくが、桃井さんのモットーで、
お客様からのメニュー取りも“男”“男”とそこら辺から連呼されていた。
もう、慣れたけど。
店と一緒で何だか癒されるんだよな。桃井さんって。
「やっぱりまほろばくんは食べないの?」
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呼ばれたまほろばは、黙々と店内の掃除をしていた。
「肉無しでどうやってあんな素敵な身体維持してるのかしらねぇ」
溜め息と共にとろんとした眼差しをまほろばに送って居る。
「あ! ごめんなさい。見とれちゃった」
悪びれず言う。
「見ても減りませんから」
返した言葉に、桃井さんと二人して小さく笑った。
「虎之介! 迎えに来たぞ」
スポーツ刈りにコワもてで頬に3cm程の傷がある黒い背広にガッチリとした身体を包んだ大柄の男性が入って来た。
「あらぁ、大輝」
目を輝かせる桃井さん。
「礼くん、まほろばくん、紹介するわね。あたしのダーリン♪ 相楽 大輝」
え゛?!
「よろしく!」
虎之介って、桃井さんの名前なんだ。
て言うか、全然不釣り合いな二人に、絶句。
「初めまして。相楽さん」
いつの間にか隣りに来て居たまほろばが、さりげなくボクの腰に手を回して、差し出されて居た相楽さんの手を握る。
「お?!」
面白そうに目を細めた相楽さんが、明らかに掌に力を込めた。
それに答える様にまほろばも力を込める。
「───たぁっ! 降参! 今時の若いもんにしちゃあ やるじゃないか!」
汗を滲ませた額を桃井さんが笑いながらハンカチで拭いて居る。
幸せそうに視線を合わせて笑う二人は、紛れもなくカップルなんだと感じさせた。
「!!」
燃える鬼気を感じて、店の入口を見る。
まほろばも同じ様に強い視線を投げていた。
現われたのは、色の白いヒョロリとした線の細い男。
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「「───相楽は、お前か?」」
滲んだ声。
朱色の鬼のもの。
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