48 / 210
炎鬼
5
しおりを挟む「誰だぁ?」
相楽さんがドスのきいた声を出す。
「「頬に傷の相楽さん。市松組の幹部の一人」」
ニヤリと薄ら笑いを浮かべた男が
「「俺の金を返して貰えませんかね? そうしないと……真柴みたいになりますよ」」
「! お前が真柴を」
信じられないと、目を見開いて言う。
今日の火事の被害者の事だろうか?
朱色の鬼を視る。
溶ける人。
死に逝く男の断末魔の叫び。
名前は……
「八城」
名を呼ばれ、俺を見る。
「「お前は誰だ?」」
“俺”の前にまほろばが立つ。
「“鬼”さ」
戦闘モードに入ったまほろばは、封を解いて角を現して居た。
俺の瞳も銀の光りを灯す。
俺達の後ろに居る二人を振り向き、
「逃げて」
「奴が用があるのは俺だ! 男として逃げる訳にはいかん!」
漢気がそれをさせないのか、震える桃井は相楽の腕にくっついていた。
「死ぬよ?」
本当の事だから。
「礼くん、まほろばくん?」
「ごめんなさい。桃井さん」
引き寄せたのは、俺達かもしれない。
熱気が風と一緒にこちらに届く。
青白い炎をまとった朱色の鬼が笑う。
「「ククク……鬼? 面白い」」
不気味な笑い。
「お前は元には戻れない」
まほろばの言葉には重みがある。
これだけの鬼気をまとってしまったものは、人には戻れない。
「「元に? 意味が解らない」」
「お前も鬼。朱色の鬼さ」
まほろばから風が吹く。
熱気を抑える様に、俺達を包む様に。
優しい風。
まほろばの風。
「ライ……下がっていろ」
邪魔にならない様に。
後ろに下がる。
「何が起こってる?」
相楽さんの問いに、
「“鬼退治”」
安心させる為、振り向いてほほ笑む。
「礼くん? 泣いてるの?」
言われて頬を触ると、濡れて居た。
優しい風。
まほろばの風が、あまりにも懐かしくて、
ドンッ!
大きな音と共に風が止む。
見ると、掌を交えて立ちすくむ二人。
まほろばの赤い長髪が風に舞い、落ちる。
次の瞬間、
“朱色の鬼”の躰が一度大きく膨らむ。
「「おぉおおぉお───っ!!」」
燃ゆる鬼気。
青白い炎が大きく上昇し、縮まる。
握られた拳からは白い湯気が立ち上り。
湯気がかかった天井がヘコみ、二人の立つ床が一段下がり ミシミシ と、音を立て建物が揺れる。
また、吹く風。
まほろばと朱色の鬼を中心に渦巻く。
“炎”を封じるまほろばの“水”
思い通りにいかない朱色の鬼が、歯を噛み締め、口端から透明の液体を流す。
垂れた液体がまほろばの腕に落ち、ジュッ と肉を焼く。
「まほろば!」
思わず叫ぶ。
パンッ!
乾いた発射音。
響いた先を見るとピストルを構えた相楽が立っていた。
弾は当たらず、湯気に消えた。
「何なんだ! この化け物は!」
“化け物”この言葉に チクッ と痛むココロ。
「“鬼”ですよ。
昔話に一度は聞いた事あるでしょう?
奴は“朱色の鬼”悪鬼。
俺達は……“鬼”鬼退治をする鬼」
首から垂らした角が服から覗く。
それを握り祈る。
どうか、無事で。
「大輝。あの男、貴方にお金を返せと言っていたのは、何?」
桃井の問いに、歯ぎしり、
「判らん」
相楽が首を横に振る。
「確かに真柴は知って居た。けど、金なんざぁ、知らない」
戸惑う相楽は嘘をついてはいない。
なら、朱色の鬼を視る。彼のココロ。
彼と真柴の会話を……
真柴は詐欺を行い
それを命じたのが相楽だと告白していた。
「真柴が詐欺の首謀者が貴方だと八城に言ったんだ」
「詐欺?? 知らない」
死を免れる為についた嘘。首謀者は、真柴その人だったのだろう。
今更訴えた所でどうにかなるとも思えない。
二人の足元から亀裂が走る。
このままだと、店は崩壊してしまうだろう。
ボクの居場所だった『美麗』
桃井さんを見ると、小さく笑って、
「保険には入ってるからどうって事ないわよ! やっつけちゃって!!」
この人はココロから言っている。何て大きなココロの持ち主。
「まほろば! がんばんなさい!!」
聞こえたのか、小さく口端が上がって、肩の筋肉が盛り上がる。朱色の鬼を押さえ込む形になった。
それに抵抗する様に、朱色の鬼の躰全体が一回り大きく膨らむ。
「「ぉおおぉ!!」」
雄叫びと共に、鬼と呼ばれるに相応しい体型へと変化する。
人であった名残は露と消えた。
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
告白ごっこ
みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。
ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。
更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。
テンプレの罰ゲーム告白ものです。
表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました!
ムーンライトノベルズでも同時公開。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる