鬼に成る者

なぁ恋

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牛鬼

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「まるで“除霊”だ」


あれから警察署まで行き詳しい調書をとられた。
あの場所で行方不明になった者が何人か居て、だから見回っていたと。
そのDNAと比較して見つけ出すと言っていた。
      
そう言う風にんだけど。


「“血珠”が取れるとは限らないんだな」

「そうみたいだね」
ライが優しく笑む。

二人で砂浜を歩きながら話す。
花束を手に持って行く所は優子が眠った場所。
着くと先客が居た。
白い花束を置いて中腰になり手を合わせた男。

後悔と苦悩を旨に秘めた男。


優子の……赤子の父親。

怒りが込み上げる。が、頬を伝う涙をみとめ、拳を握る。

ライが静かに口を開く。
「こんにちは」

ふいに声をかけられ男は立ち上がりながら手の甲で涙を撫でた。

「あ……どなたですか?」
「ここで遺体が見つかった。その発見者です」

ライが丁寧な口調で説明する。

「ありがとうございます」

男は深々と頭を下げる。

「関係者?」
判っているけど訊くと、

「付き合ってました」
即答した。

「付き合ってた?」
昨日の今日でまだ遺体の確認は終わってない筈。

「……小さい骨が近くに在ったと?」
「赤子の骨が」
「そう……ですか」

一呼吸置いて男が呟く。

「パニクっただけなんだ……」
 
 
  
男の思考が流れ来る。


………………………

あの時
赤ちゃんが出来たと言われて気の弱い俺は自分の事で精一杯になった。

どうすれば良い??

散々悩んだ。
悩んで、結局、優子の事が好きだと言う事に行き着いて。
次の日指輪を用意してプロポーズをしようと優子の家へ

そこで初めて昨日から帰ってないと言われ、捜した。

捜して
捜して……一年と半年。

赤ちゃんと一緒に見つかった。

………………………


「たった一日だ……なのにその一日で二人は居なくなった」

誰ともなしに語る男の涙は止まらず、嗚咽になる。

で別れた優子はそのまま“朱色の鬼”の魂に引きずられた。
偶然、この場所は海の形状と波の渦巻きで時々土左衛門が流れ着くと聞いた。

愛情も、想いもすれ違ったら、意味がない。

「赤ちゃん。付けるならなんて名前にしてた?」

ライが訊くと、

「それは……話し合って決めたろうな」

泣き笑う男。

潮風が強く吹き抜ける。

「次の世では幸せに」

ライが静かに男に言うと、また肩を震わせてむせび泣く。哀れな男。

花束を海に投げ、男に背を向け家路に着く。
 
“次の世”でライにとっては重い言葉。

何故だろう?
とっても“来世”は特別な気がする。

何故だろう?

まほろば
ライ……
俺にとってお前達は特別。

胸を掴む、二つの鼓動。
特別な樹利亜……
 
大事なモノは沢山あっても良いよな。

太陽が空を照らし潮風が吹き抜けるこの場所は、とても綺麗で……何だか飛びたくなった。

「ライ、用事あるから先に家に帰る」

返事を待たずに跳躍する。太陽の光りは暖かくて、暑いくらいかな?
それを身体全体に受けて空を飛ぶ。
実際には跳んでるだけだけど、この高さとスピードは鬼に成ったから出来た事。

人に見られない様太陽を背にしてひたすら走る。

鬼に成るなら前向き成れば良いのに
“朱色の鬼”に成る者の気持ちが解らない。

高いビルの上に立ち止まると地上を見下ろす。

頭上を見る事もなく忙しく歩く人並みに、何とも言えない物悲しさを感じた。

ビルの端に爪先立つと、何も考えず眼を閉じて。
静かに、静かに風を受けて、爪先からくうへ踏み出す。

落ちる、落ちる。
空を飛ぶ。空を泳ぐ。

瞳に“千里眼”の能力を、
今の俺には視えないモノなんてないんだ。

バサバサッ
街路樹に落ち「キャッ!」近くに居た女性が悲鳴を上げた。

止まるタイミングを見誤った。
「はっ! あはは……」

周りの人達が驚いてこちらを見るが、気付かれない内に跳躍する。

何て開放された気分。
閉じ込められて居た。そこから飛び出した俺は何て自由なんだ!
 
ふと思い立って、ケータイショップの前に降り立つ。

目を丸くした小さな男の子がこちらを見ていて、ウィンクし、人差し指を唇に当て、シー としたら、うんうん 頷いて、母親に「あのお兄ちゃん空から降って来た!」と報告している。その声に笑みが零れ、それを背に店に入る。

「いらっしゃいませ」
柔らかい物腰の女性店員の説明を受け、適当なケータイを契約。
そこで出した身分証明は、世帯主 馬破 美夜子と書かれた保険証。

扶養家族。

甘えて生きて来た証し。
バイト先も彼女の会社。

22にもなって、とも思うし、今までの自分の不安定なココロを思えば仕方ない。と思う気持ちもあって……
買ったばかりのケータイで、指が覚えてしまっている番号を押す。
何回目かのコールの後、いつもの声。

『どなた?』
「美夜子さん。知らない番号に出ちゃいけないだろう?」

少しの間。

『元気!!』
ケータイが震えるくらいの大きな声が返って来た。

「ごめん……心配かけて」

素直に謝ると、何か言いかけた彼女の声を遮り
「また! ……また落ち着いたら連絡する。それから、樹利亜が見つかった」

言って切り、電源も落とす。
もう少しだけ、を味わっていたい。
心配される事も、何も思う事なく。
壊れない程度にケータイを握り、空を見る。

懐かしさと、悲しさを感じる空。
青い髪のライを思わせる空。

勢い良く跳躍すると……空に溶けて行く様な錯覚。

“自由”の意味が解らないまま、飛び続けた。
空はどこまでも青く、どこまでも続いて居るのだから。
 
 
  
 
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