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虎之介奇譚
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………………………
突然空から降って来て瞬く間に消えた天狗。
虎之介?
地面に座り込んだまま惚けて居た。どれくらい経ったのか?
少しずつセミの声やら、風の音やらが耳に聞こえて現実に戻る。
夢? だったら何てリアルな……
ズボンの土を払いながら立ち上がり、頭を振りながらやっぱり夢かも? 太陽が降り注ぐ昼間。
白昼夢を見たのだと結論付けて家路に着く。
腰に残る感触がやけにリアルだったと、天狗の事ばかり考えながら
「ここも楽しそうじゃん」
と独り言ながら仰いだ空に、また影を見た気がして立ち止まる。
ふふ……ふふふふ……
どこからか木霊する笑い声。
ゆっくりと歩いてた。次第に早足になり、最後には駆け出していた。
天狗!
天狗!
人をさらうと昔話で聞いた気がする。
慣れない道を駆け上がり新しい我が家。
古ぼけた民家をリフォームした一軒家。
引き戸を開け駆け込み、閉めてカギをかける。
「は……はぁ……ハァハァ……」
ガラス戸に背を預けて肩で息を吸う、呼吸を整えて、大きく溜め息を吐く。
「ふーん。ここが大輝んチ?」
「!?」
驚いて跳ねる体。
「この家幽霊が出るんだよ」
可愛く笑みながら、また幻の様に消えた天狗!
「う……わぁ───!!」
声の限りに叫び、俺の二階の部屋へ駆け上がる。ここは唯一の洋間で、カギも付いていた。
カギをかけ、まだ荷解いてない段ボール箱を蹴散らしながら組立てたばかりのベットへ飛び込み頭から布団をかぶる。
「幽霊? 天狗?」
どちらにしろ人外のモノで───……
「僕にカギなんか通用しないし」
布団の外から声が聞こえて来て、ビクッと再度跳ねる体。
布団を握り締め、固く目を瞑る。が、手に感触が無くなり、目を開けざる終えなくて……
「ワァ!!」
目の前で天狗が布団をかぶってにこやかにほほ笑んでた。
「大輝って面白い」
ふふふ と笑みを残し、また消えた。
俺は声にならない声で悲鳴を上げて、そのまま気を失った。
………………………
***
隣りでまどろむ虎之介が何事か夢見ながらほほ笑みを浮かべる。
「はぁ……」
小さく溜め息、タバコを出し咥える。
「ダメよ。身体に悪いんだからこれも辞めなさい」
言葉と共に手の中のタバコが消える。
本当に厄介な能力だ。
「それより、ねぇ?」
腕に顎をのせ、上目遣いで俺を見る。
ゴク……鳴る喉は、正直な気持ちを表してる。
何と言う色香!
「何回目だ? 俺の歳、解ってるよな? おじさんだから体力保たないし───」
話途中に塞がれる唇。
「大輝はおじさんじゃないでしょ? それに、我慢出来る筈がない」
細められた瞳は俺のココロを見透かす様に輝いている。
「───クソッ! どうにでもなれ!」
半分投げやりに、半分欲望で虎之介に覆いかぶさる。甘い鼻にかかる声。
汗ばむ肌が、誘う快楽。
だから、
天狗は底知らずだと言うんだ!
「あぁ……愛してる」
天狗がつぶやく。
「俺もだ!」
腕の中で小さい躰をのけ反らせる虎之介。
こいつの為なら何だって出来る。
出来るんだ!
*虎之介side*
「さて。と、行きますか?」
身支度を整え振り向くと、大輝はゆるゆるとスーツを着ていた。
「遅いわね」
「誰のせいだ」
ムスッとしながら黒ネクタイを締める。
そんな仕草がセクシーで大好き。
「何だ?」
見つめてたあたしを見て大輝が首を傾げる。
「見とれてただけよ。貴方は変わらないわね」
笑みを浮かべると、ほんのりと頬を染めた大輝が咳払いし「行くぞ!」とあたしの腕を掴む。
「行きましょう♪」
「ハッ! 待てっ……」
有無は言わせない。
心地好い風景の流れと、結構好きな大輝の低い悲鳴をBGMに飛ぶ。
瞬時に着いた“市松組”の門前。
古い木の門は、時代を感じさせる。
長い歴史のある組織。
あたしはこの家に居たのはほんの数年くらいしか無く、呑み込まれそうな……そんな威圧感がある。
「虎之介」名を呼ばれ後ろから肩を抱かれる。
置かれた手に手を重ねると安心出来た。
「さあ、行きましょうか?」
「ここからは徒歩でぇ───」
大輝の願いはむなしく聞く耳は持たない。
弟、市松 龍太郎
彼のところへ。
着いたのは、和室の大広間。
重々しい雰囲気を醸し出した室内は話し合いの最中だったみたいで、コワもての男達がズラリと顔をそろえ、一斉にこちらを見る。
「なんだ? ……虎之介?!」
龍太郎が驚いて立ち上がる。
「お久し振り」
満面の笑みを。
「龍太郎さん、会合最中にすみません」
後ろで正座し頭を下げる大輝。
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