鬼に成る者

なぁ恋

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虎之介奇譚

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「堅苦しいあいさつは抜きで、用件のみを言うわね。もう大輝返して貰うから」

場の雰囲気は無視する。
「虎之介。今何をしているか解らないのか?」
「男達が集まって何物騒な話してるの?」
「───まったく! 相楽。お前も呼び出したんだが連絡が取れなかったからな来てくれて良かった」

あたしと似ても似つかない龍太郎。
厳つい顔にガタイもあたしのニ倍はある。
難しい顔をして、それは真剣に話してる。

ざわつく室内。

どこから現われた? とか、誰だ? とか、そんな疑問符が飛び交ってる。

「───虎之介。カツラでも買ったのか? 心無しか……以前より若返ってる様な?」
気付くの遅いわね。

「兎に角。大輝は辞めさせる!」
の言葉に、
「お嬢ちゃん。わがままはそこまでにしてお帰りなさい」

若い、いかにも極道ですって男が声をかけてくる。

「ふふふ。お嬢ちゃんか。悪くないわね。龍太郎?」
「あぁ。皆に紹介しよう。兄の虎之介だ」

ざわつきが一瞬高くなり、

「それは!……失礼しました。しかし、いやぁ、お若い。若過ぎやしませんか?」

「深く考えない事よ。褒め言葉として受け取っておくわね」
とびきりの笑顔を向けてやる。
「───っ。はぁ……女性じゃないですよね??」
顔を赤らめる男。久々に面白いじゃない♪
が出ちゃって
「「虎之介!!」」
大輝と龍太郎が仲良くハモって呼ぶから、舌を出してごまかす。
 
たちまち顔を赤くする二人。
面白いなぁと思いつつ
「何の話してたの?」
咳払いした龍太郎が、
「真柴の件だ。あれは田辺組たなべぐみがやった事だと言う情報が入ってな」
「誰から?」
顎で情報者を示す。

あたしに声をかけて来た若いの。
「どう言う経緯で?」
「経緯? 信用出来るある筋からの情報でね。それがどこからかは明かせませんが」

真っ直ぐ見るあたしの視線を明らかに目線を逸らしながら言う。

「アンタの名前は?」

たじろぐ若い男。
ふじと言います」
おどおどとして、自分一人に集中する視線に落ちつかなげで、

「藤? アンタと真柴の関係は?」
「兄貴分です」

そうか。なら、頷ける。
    
「真柴はの大輝に罪をなすり付ける事で命乞いしたそうよ」

ざわつく。

「殺った奴は、死んだわ。田辺とは何も関係ない人物が。そいつはあたしの店を大破させて消えた」
笑みを浮かべて藤を見据える。
     
「そいつのは警察に持ってかれたから確認取ってみたら? それに、真柴も言っちゃ悪いけど自業自得でしょ?」 

藤が震え出す。汗ばんで来ているのも見て分かる。

「龍太郎、詐欺をする事この組は許してるの?」
「先々代がそうしてのし上がって来た。それが元で殺されたのを見た先代が、罪滅ぼしを兼ねて真っ当な仕事を始めた。だからそんな極道業は先代から許してはいない」

知っては居たけどね。 
「なら“組”何て付けなくても良いのにねぇ。
真っ当とは言ってもは持ってるし。そう簡単に極道は抜け出せないって事ね」
 
「何言ってるんですか? 詐欺って?? 俺は知らない」
震える声で言っても納得出来る筈もなく。

「真柴が、堅気の人から多額の金を巻き上げていたのは分かっている。弟分だと言うなら知らなかったって事は無いだろう?」
大輝が詰め寄ると、
「うぅっ! 極道らしくしただけじゃないかっ!!」
胸元に手を入れる動作でピストルを出すのが分かり、その手元を見て“移動”させる。

「!? なっ無いっ??」
ピストルを構えた格好をしても握った筈のそれが無くなっていて、仰天し、崩れる様に座り込む。
「極道なのに、真っ当に生きる意味が解んねぇ……真柴さんもそう言ってた。だから、違う組がした事にすれば、極道らしく闘争始まんじゃないかって……」
涙を流しながら言う。

「……うちが“市松組”って看板掲げてんのはそう言う輩を集めて更生させる為。ひねくれた者を立ち直らせる為なんだ」
龍太郎が寂しげに呟き、
「親の心子知らず。だな」
あたしを見て言う。

「意味があったのね」
手に持ったピストルをぶら下げると、龍太郎に渡す。

「さぁ、市松組らしい後始末付けさせよう」
龍太郎の声かけに集まってた男衆が立ち上がり、藤を取り囲む。
十数人に睨まれた藤は、泣きながら命乞いをする。

なんか取らねぇよ。ちゃんと罪償って来い」
「待ってるから」

一人一人が彼の肩を叩き、声をかけ、出口に向う。

「虎之介さん、またお目にかかりたいですね」
「それじゃ、お兄さんまた」

出る前にあたしにまで一声かけて出て行く。

これは、もう“極道”何て言えない。
 
とは違う。
 
 
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