鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
74 / 210
虎之介奇譚

15

しおりを挟む
 
*大輝side* 


一年はあっと言う間だった。

あれから親同士が話し合う事になって───日下と水戸は言わなかった。手を繋いでた事が噂になり、桃井のおじいさんが虎之介の告白を聞いて驚いたから───両家で本気の話し合いになったんだ。

何度も
何度も、
何度も。

しつこく二人の気持ちを訊かれて、

答えは同じで……

桃井家の大人は気の迷いだと言って、会う事自体を止めさせようと言った。

黙って聞いて居たうちの両親が口を開いた。


「そんなに世間体が気になるなら、虎之介くんはうちが預かります」

と、父が言い、
静かに笑みを浮かべた母が、

「二人共、初恋、おめでとう」

本当に嬉しそうに笑った。

絶句する桃井家の人達。

本当に預かるつもりで居たと両親は言った。けれど、そう言う訳にはいかず、妥協案が出された。

俺はちゃんと近くの都立高校目指して勉強する。

虎之介は、我慢を覚える。今更だけど、人前で力を使わない。


そして、告白。
俺は知って居たけれど、

虎之介は、子どもが生まれない伯父夫婦の養子である事。

不思議と静かだった桃井の母親が、一言つぶやいた。


「私に子どもさえ授かれば問題なかったんです」
と、泣き始めた。

虎之介は、無表情でそれを見て居て、妙に不自然だった。

母さんが側に行き、何やら小声で慰めると、その胸を借りて嗚咽して

こればかりはどうしようも無い事だと、皆で慰めた。


後で聞いた事。
上辺だけの優しさで接して居た彼女を母親と思えなかったと、虎之介が寂しげに言った。




何と人の心は複雑で、難しいのだろう。

色んな事を覚えた16歳の時。


もう一つ、虎之介にとって出逢いがあった。
父さんの古いカメラ、それを手にした彼は生き生きとした瞳で撮り始めた。

始めの一枚は二人のツーショット。

笑顔の二人。
二度と来ない瞬間。
 
  
……………………… 
***

 
*龍太郎side* 


懐かしい
初めて見た兄の姿。

兄が居る事は聞いていた。
その兄が小柄な可愛らしい姿をしている何て思いもしなかった。

昔の記憶。
驚いた。
その姿をまた拝めるなんてな。


「龍太郎?」


考えてた。
その顔が目の前にあって、夢から出て来たみたいで触れていた。

頬から唇に弧を描く様に指を這わす。


「龍太郎!」


ハッ とする。

「あぁ、すまん。親父は?」
「うん。寝るって」


ほほ笑む虎之介。

そうだ。
色あせない、初恋。

天狗。
虎之介。

「大輝は?」

あの頃からいつも近くに居た、大輝。

「用足しに行ったよ」

最初から実る事のない想い。
一緒に育っていればそれはなかったのだろうか?

くすぶる想いに火が点いた様な。
そんなココロの情景。


「虎之介。大輝と居て幸せか?」

キョトン とした、次の瞬間には、花の様な笑顔。

言葉にしなくても解る。

虎之介は、彼に守られて彼を守って、幸せなのだろう。



あの時の約束は、現在いまも続いて居るんだ。
 
 
 
 

俺は天狗に恋をした
 
 
 
 
 
***  
……………………… 


好ましい事ではなかった。
これは母の為、そう自分に言い聞かせて会いに来た。


夏。
暑い夏休み。

初めて会う兄に、親戚に、それなりに楽しみや、不安を抱えてバスを降りた。
日に二回しか無いバス。
高く続く山並みに、溜め息。これからどれだけ歩くのか?


「龍太郎?」

背後から高めの声。
振り向くと、

可愛い少女。

「え? 何で俺の名前……」
「虎之介だよ」

可愛く笑う少女は、俺の兄の名前を名乗った。


「兄さん?」
「照れるな。虎之介で良いよ」




うそだ。
 
 
 
  
*虎之介side* 


可愛い龍太郎。
僕の弟。

背丈は僕より―――少し高いくらいかな?
顔は、男の子の勇ましさがある。

3歳下か。
まだ14歳。

驚いた顔。聞いてるのかな?
僕の異名。能力。

「龍太郎?」

声をかけてみる。
固まってる?

「兄さん?」
「そうだよ。初めまして、龍太郎」
「女の子じゃなく?」

あら?
僕を女の子だと思ったの?

「可愛くてごめんね」

図星だったのかな?
真っ赤になっちゃって

「僕達兄弟だって言わないと判らないくらい似てるとこないね」

話題を変えると、まじまじとこちらを見る。

「貴方は、母に似てる」
「なら、龍太郎は父親似?」

無言で頷く。
父に似てるのか。
僕は両親の写真さえ持っていない。

ジリジリ と暑い日差しに首元が熱くなる。
僕の事を聞いて居ようが居まいが、もう良いや。早いとこ連れて行こう。

「ね? 暑いし、行こうか?」
「ここから随分歩かないといけないんだろ?」
「歩けばまあ、30分くらいかな?」
「そんな遠くもないんだな」
「ん~。瞬きする間に着くよ」

龍太郎の手を取ると、大輝が好きだって言う笑みを向ける。
思った通り。真っ赤になって体から力が抜けた。

“移動”する。
 
  
 
 

 
 
 
 
 
  
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...