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鬼罪
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しおりを挟む*陽介side*
「「トラノスケぇええーーー……!」」
世衣子。
目の前で見てしまった虎之介の躰を欲する気持ちの高ぶりに、抑える事が難しくなる。
世衣子。
虎之介の生気を奪う事で生き長らえて“鬼”と成りかけた母性を忘れた哀れな女。
私の中でこのまま眠って居たならば、一緒に逝けるものを。
朝になった。
なのに、力を増す世衣子。
このままでは、出てしまう。
この身に封じた世衣子の“魂”が。
「虎之介。守ってやる」
今まで何もしてやれなかった父の、最後の償いとして。
「「トラノスケぇエえぇ―――!!」」
世衣子が叫ぶ。
この声は、虎之介に届いている。
応えてはならない。
立ち上がるも身体がくの字に曲がり畳みに突っ伏した。
頭の内側から笑う声が響く。
「「あぁ……貴方。待って居て。あの子は来る、虎之介の綺麗な躰。あれは、私が作り出したモノ。
返して貰うだけ。
あの子は、私と居れば良い。
貴方がした様に。
今度は私があの子の“魂”ごとあの躰を―――」」
ダメだ。
意識を手放しては!
“封印”を胸に彫っていた。
なのに、出ようとしている。
だから躰と魂の調和が崩れ、耐えられなくなった身体が悲鳴を上げて血を吐く。
もう、私だけでは抑えきれない。
誰か、誰か!
***
助けを求める気持ちは、鬼を狩る者達に届く。
近場には熱を持ったまほろばが、
そして、ライと樹利亜に、
それはココロにストレートに届いた。
躰を持て余して居たまほろばが、瞬時に動き。
続いてライと樹利亜が飛び出す。
仲間は仲間を呼ぶ。
悲痛な助けを求めるその声は考える時間など要らず、すぐにその場所へ
***
*虎之介side*
呼ぶ声が脳内を侵す。
この感覚は、
覚えてる。
母さん
「虎之介」
痩せ衰えた身体をゆっくりと起こした母。
小さい身体、顔は本当に僕に似て居て、
「良く帰って来てくれたわね」
笑顔で、触れられた頬。
痺れる痛みが走る。
その時は互いに驚いた。それが続くと、変化が起きて来た。
母は元気になり、反対に僕は力無くなる。
その内、母は僕を放さなくなり
そして、
大輝。
僕をかばった大輝が頬をつらぬかれ、
赤い血が目の前を飛び散る。
父が僕達の前へ出て、母を、母だったモノを引き裂く。
母は、何に姿を変えた?
「「虎之介」」
入り込んだその声が、僕を捕えた。
「かあ…さん」
「「あぁ、良い子ねぇ。さあ、こちらに、おいで―――……」」
赤い眼が、
僕を見て居た。
身体を引っ張られる感覚。
遠のく意識、大輝の叫び声が聞こえた気がした。
あれは“朱色の鬼”───
*大輝side*
落としたトレイが足下で音を立てる。
虎之介が、消えた。
瞬間移動?
違う。ざわつく気持ち。心底からの不安。
そして痛む古傷。
掘り起こされる古い記憶。
***
………………………
遊びに来なくなって、心配になって市松の家に虎之介の様子を見に来た。
龍太郎に通された室内、何故か歪んで見えた。
軽い立ちくらみ。
「親父が入るなって、閉じ籠ったんだ」
「虎之介は?」
「一緒に中に居る。最近何だか疲れてて、母さんと一緒に寝てる事が多かったんだ」
心配げに眉根を寄せる龍太郎。
「帰って来ないから心配してた」
「天狗の力が弱くなってるんだ……姿も。前とは違う。母さんは回復してて、代わりに虎之介が弱ってるみたいに見える」
話しながら進んだ長い廊下の先に、古い造りの襖。
「この中に三人で居る。もう一時間は過ぎたかな」
ぼそぼそと声が聞こえる。
女性の泣き声。
諭す男性の声。
呻き声……虎之介の?
「親父入るぞ?」
龍太郎が答えを待たずに襖を開ける。
小さく開けただけ。
そこから見えた赤い光り。
「龍太郎。ダメだ!」
低い声が叫ぶ。
次の瞬間には、龍太郎は廊下の端まで飛ばされて。
何が起こったのか判らず、襖を凝視する。
襖が倒れ、室内がはっきりと見えた。
赤い光る眼を見開いた、肩より長い黒髪を持つ女性がこちらを見ていて、市松の父と向かい合い座って居た。
「う…ん……」
虎之介の声。見ると壁際に座って居て。その容姿は、髪は薄くなり、疲れた顔。二十歳だと言うのに実年齢よりも少し老けた感じだ。
「虎之介」
「大輝くんか。そのまま動くな」
言われても、虎之介が心配で
「あ……大輝」
虎之介がこちらに気付き、嬉しそうに力無い笑顔を向けた。
そして、弱々しく差し出された手に、どうしても触れずにはいられなくて……
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