鬼に成る者

なぁ恋

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鬼罪

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注意された言葉は無視して、虎之介に駆け寄る。

部屋の前で見えない壁にぶつかったみたいに一度跳ね、それを押してゆっくりと身体が沈む様に中に入る。

生温い何か液体の中に居る様な感覚。


「封印を破ったな」

怒りの籠った低い声の主は、虎之介の父親。

「「ありがとう。ボウヤ」」

にじんだ声。赤い眼の母親がこちらを見る。




「「虎之介ぇ……貴方は私のもの」」




上にした腕。爪が有り得ない程長く伸びていて、
嫌な予感がした。


だから、
名を呼ばれた虎之介が危ないと、彼を背にかばう。


次に来た右頬の痛み。

長い爪が貫いて、抜き取られる。



血飛沫が散る。


「大輝ぃ!」


虎之介の悲痛な弱々しい叫びに、気が遠のくのを必死で堪え、後ろに居る虎之介に手を伸ばす。
温かい手が握り返して来て安心した。


「世衣子。お前はもう戻れない……愛しているよ」

哀しげな声が、
静かに響くと

肩が、腕が、盛り上がる。

“世衣子”の両肩を掴むと、まるで紙の様に引き裂いた。


「「ギャアァアアァァ!!」」


地底から響く様な断末魔の叫び。

その声の凄まじさと、傷の痛みとで意識が遠のく。

手にある虎之介の温もりに彼の安全を確信して意識を手放した。
 
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
*** 
  
*ライside*


辿り着いたのは大きな日本屋敷。
そこをまとう鬼気に、鳥肌が立つ。
屋敷の真ん中に大きな日本庭園があった。そこに降り立つと、先に着いて居たまほろばの背中を見つける。

「呼ばれたわね?」

樹利亜が訊くと、
 
に呼ばれた」

静かに前を見据えたまほろばの答えに顔を見合わせる。

「仲間?」
「“朱色の鬼”の鬼気が強いが、呼び声の主は“鬼”だ」

鬼?
超能力者でも、鬼に成る者でも無く、

まほろばの仲間の鬼?

「ライ、正解だ。俺側の鬼の鬼気を感じる。弱々しいが、確かに、この部屋から」

まほろばの見据えた視線の先、中庭に面したガラス戸の廊下を挟んだ障子戸が閉まった部屋。

「“鬼”はもう居ないものと思っていた」

つぶやく様に言うと、カギがかかった戸に両手を差し込み、無理にこじ開けた。
衝撃でガラスが割れる。

「――封印が施してある」

しかめた顔が不快感を表していた。

「鬼を封ずる印を結んである」

確かに、さっきから全身がピリピリ と痺れていた。

「だが、呼んだからには、入らせて貰う」

赤い髪がうねり、白い角が光る。
一度眼を閉じて見開くと金の瞳が光りを放ち、
両腕を水平に開き下にした手の平を上に、そして音がなるほどに手を打つ。
音がまほろばの全身に広がり響き渡ると、両手を“封印”へかざす。


パンッ


と、渇いた音。

まほろばがそのまま廊下に入り込み、障子を開け放った。
 
 
 
  
そこには、背を向けた和服の男性が。

足下に転がる人影。あれは

「桃井さん?」

ぐったりと薄目を開けた少年は、確かに桃井さん。

「「だぁれ?」」

にじんだ朱色の鬼の声。
それは和服の男性から発せられた。

女の様な男の様な。
どちらともつかない声色。

「お前こそ、誰だ?」
まほろばが問う。

こちらを振り向いた右顔。
少し禿げた頭、その額には角。
その角の生え際からグレーの髪が首辺りまで伸びていた。

左手で桃井さんを掴んでいて、彼を引き摺る様にして、正面を向く。




右だけに角。
左には角が無い。

鬼は一本か二本の角を持つ。一本角なら、位置は真ん中。

不自然な鬼。
奴は“朱色の鬼”の鬼気と“鬼”の鬼気を合わせ持って居た。


「主は“鬼”か?」
「「“鬼”?」」


二つの声で話す。

「桃井とは。虎之介を知って居るのか?」
「「虎之介を?」」


「お前は誰だ?」
動じないまほろばがさらに訊くと、

「市松 陽介。鬼の血を継ぐ者。鬼を狩る者」
「「あぁああ……陽介ぇ。ねぇ、邪魔しないでよぉ」」

「私の内に居るは妻、世衣子の御霊みたま鬼に堕ちた魂」
「「虎之介を、虎之介にぃ―――」」

「虎之介は、私達の子」
「「私のものぉ―――」」

二つの鬼気がぶつかって声が重なり、どちらかと言うと“朱色の鬼”が強大に成って行く。
 
 
 
 「「私のものぉおぉ」」 
 
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