鬼に成る者

なぁ恋

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鬼罪

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*樹利亜side*

黒髪に額から覗く一本角。

輝く青く銀に輝く瞳。
躰にまとう雷。

あの鬼は何?
聞こえた名は、龍太郎。

胸が踊る。
何故?


堪らず走り、
おじ様、虎之介と対峙する。


「貴女が私より綺麗?」

よろけながら立ち上がる虎之介。
はだけた女体を自慢気に見せつけながら笑む。
この女の名は、世衣子。

「「綺麗でしょう?」」

1メートル程の長い10本の爪を目の前に交差させる。そこから滴る彼の血液。
それを舐めとる。


虎之介は優しく包む様な愛をくれる。
同じ顔。
彼の躰なのに、その顔は違って見える。

世衣子。

貴女は“母”よりも“女”をとり“死”を恐れ“生”にしがみついた。

それが我が息子を死に追いやる事になったとしても。

私の母もそうだった。
死にたくなくて、私を蝕んだ。
どれだけ悲しいか。
どれだけ空しいか。


世衣子を囲む様にまほろば、龍太郎が、私の後ろにライと大輝が。
皆動かず、静かに時が流れ、

天を昇る朝陽が空から眩しくこの場所を照らし、目眩ます。

その光りに隠れる様に世衣子が空に飛び上がった。
逃さない。
髪を世衣子へ。


確実に捕え、引き戻す。

「「止めてよ! 放して!」」

爪で髪を切られた。それでも髪を伸ばし、その躰を巻き、締め上げる。

小さな悲鳴。
私は優しくは無いから。怒りが、痛みを生む。

虎之介。許して
貴方を取り戻したいから。
ほんの少しで良い、意識を解放して。 

「虎之介。返事をして」

  
*龍太郎side*

女。
長い黒髪がまるで生き物の様にうねり舞い、母を捕えた。
細い体躯を長めのシャツだけで包んだその姿に驚くと共に釘付けになる視線。

「虎之介」

その小さな仄かな桃色の唇が優しく呼ぶ。

女。
黄金に輝く眼。
一目でココロ囚われた。



虎之介に異変が。

「大輝……だいきぃ……」

瞳の色が、赤く黒く変わる。

「「この躰は、私のもの」」


大輝が腕を広げて呼ぶ。

「虎之介。天狗! 大丈夫だ。こちらに飛べ!!」

天狗。
そうだ。虎之介は、能力がある。

「「ダメ……ダメよ」」

母の声が揺れる。

母事態に“瞬間移動”の能力はない。
あの頃の呼び戻される感覚。
思い返せば、虎之介の能力を利用していたんだと、今なら解る。


「虎之介!」

大輝の叫ぶ様な呼び声に、虎之介の眼が黒く見開き、瞬時に“移動”した。
大輝の腕に飛び込んだ彼の身体は、少年のものに。

黒髪に締められた母のドロリ とした魂が、低く唸る。

「「私の……躰が……ジュリアァあぁ!」」

アメーバみたいなその魂にも赤い眼だけは絶えず光っていて、その眼が、女、樹利亜をにらむ。

母の考えが容易に想像出来た。

樹利亜を腕に引き寄せ、その髪の束を掴むとそこから電流を母に流す!

「「あぁ! アアァァああぁ―――!!」」

高い叫び声が苦しげに空に木霊した。
 
 

  
魂が固くなる。

このまま力を込めれば……


「印」

父の声。

魂が凝縮。
丸い5センチ程の赤い珠に成る。

畳の上で印を結んだ父の躰に赤い珠が吸い寄せられ掌を開くと、そこへ吸収され体内へと消えた。


「―――世衣子の魂は、私のものだ」

片膝を付き、その場にくずおれる。




これで解決か?



「放して」

柔らかい声。
それと同じくらいの柔らかい身体を抱いたままで居た。
それが不満だと、その顔が物語って居る。

「すまない。龍太郎だ。樹利亜?」

両手を上げ解放する。

「……」

放しはしたが、傍に居させたくて黒髪を掴んで居た。


「貴方は、鬼?」


真っ直ぐにこちらを見る黄金の瞳に吸い込まれそうになる。

「龍太郎」

父の呼ぶ声で我に返り。
彼女の髪を放すと、青い髪の少年の所へ移動した樹利亜。

俺は何をしようとしてた?


「主様。そして皆様。お手を煩わせて、申し訳なかった」

身体を伸ばして座した父が、丁寧に頭を下げる。

「虎之介は?」

「大丈夫です」

大輝の腕の中で寝息を立てて居た。


「良かった――……」

安堵の溜め息と共に、咳き込み始め、当てた手の端から血が飛び散る。
隣りに行き、背を擦る。

「もう。残された時間が無い様だ」

荒い息の下、話しておかなければ。と、ここに集った皆を屋敷へ誘う。

まほろばは無言で壁に立ち。
大輝は傍に敷いた布団に虎之介を寝かせた。


樹利亜は青い髪の少年の隣りに座る。


あの二人は、どんな関係なのだろうか?
 
 
  
*大輝side*

龍太郎の容貌に驚いた。



一本角さえ自然に見える。


元々、虎之介と瞬間移動して居る時から表には出て居なくとも特別な力はあるだろうとは思っていた。


鬼か。


苦しげに座っている市松の親父。
彼の右側の額にも一本角。
ゆっくりと語り始める。



*陽介side*

市松家は祖に鬼を持つ家系で、時折、角を持つ者が生まれる。

角を持つ者、大抵は片角。不完全な形で生まれ来た。
それが、龍太郎が生まれた時、特別だと解った。額に“角瘤”があったのだ。
元々虎之介も特別な力のある子で、二人が一緒に居ると能力が呼応した。

まだ赤子なのに影響が大きく、一緒に育てるのは難しいと考え、兄を養子に出し、龍太郎の“角”は、“真の鬼”に成る事が見て取れたから、それまで封じる事に。

市松の鬼には、特別な役目があるから。


役目“鬼退治”

人から鬼に成る者は毎年幾人か出た。
そうした悪鬼に成り果てた者を退治する家系。
最初に悪鬼を退治した混血児の中に、市松家の祖先は居た。

だから、代々その役目を担って来た。

それは、角を持つ者に限られて居て、その者達は長寿で何らかの能力があった。

自分も齢200歳を超えていて“極道”を隠れ蓑に、鬼退治を執り行って来た。

「今の時代、極道は住みにくくなってしまったのだが」

苦笑し、一息吐く。

そんな家系だから、娶る女性も限られていて“生粋の人間”を選んで居た。
私の“鬼の血”は、少しでも混血の人間に交ざると悪い影響を与え兼ねない。
何度か所帯を持ち子も授かった。だが、角を持つ者は生まれなかった。
鬼退治は、無くてはならない仕事だ。跡継ぎがどうしても必要で。

そんな時、
世衣子に出逢った。


一目で恋に堕ちた。
彼女が“鬼の末裔”だとすぐに分かったが、決まりを曲げてでも世衣子が欲しかった。
 
 
私の、人のココロが招いた不幸。悲劇が起こると予知など出来ずに。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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