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鬼罪
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しおりを挟む「私のわがままで、仲間に迷惑をかけた」
頭を下げる。
「ココロは縛れない」
声の主は青い髪の少年。
「すまない。君は?」
「ライ。隣りの彼女は樹利亜。ボク達は鬼に成る事を選んだ者」
鬼に成る事を選ぶ?
「そう。選んだんだ」
私達鬼の祖先。
赤鬼 まほろば。
「主様。それはどう言う?」
「俺達は、悪鬼を“朱色の鬼”と呼ぶ。
確かに“鬼の血”を持つ者は、鬼に成りやすい。朱色の鬼の血を取り込む事で、この者達は鬼に成る。
角を持たない鬼だ」
「何故? わざわざその様な事を?」
「それぞれに理由はある」
苛立っているのが雰囲気で判る。
「何か気に触る事が?」
それに柔らかい声が笑う。
「違うわよ。イライラしているだけ。さっき身体を動かせなかったから発散出来なかったのよ。発情期が来てるから」
発情期?
生粋の鬼はそんな時期が。
「あぁ、でもそなたが居る。邪魔をして悪かった」
「勘違いしないで。私は相手じゃない」
樹利亜と言ったこの女性は、十分に美しく熟しているのに。
「樹利亜。要らぬ世話だ」
苛立ちが声に現われる。
「失礼しました。
私は龍太郎に戦い方を教えおく時間がありませんでした。出来れば、助けて貰えたらと」
「承知した」
その言葉を聞いて安心する。
*まほろばside*
確かに苛立って居た。
また身体が熱を持ち始めたのが分かる。
厄介だ。
話に集中し、気を落ち着ける。
「私達の寿命は大体500年程。私はまだ人間風に言えば働き盛りの年齢だが。
その寿命と引き替えに、世衣子の、悪鬼の魂を身に封じました」
「その女性は貴方にとって特別?」
ライの問い掛けに、苦笑した陽介が、
「放したくなかった。私から離れる事が、許せなかった。ただ、歴代の妻の中でこんな想いを抱いたのは世衣子にだけ」
放したくない。
離れるのは許せない?
自分の気持ちを覗き見る。
ライを
ライが
ライだから、欲しい。
熱い。
ライを見る。
その存在が自分を駆り立てる。
耐える為に拳を握る。
頭を振る。
どんな事をしても紛れそうに無い躰の疼き。
「龍太郎。そこの棚戸の中にある箱を」
陽介の頼みに軽く会釈し立ち上がり目当ての物を探り当てる。
黒い箱。赤い紐で結ってあった。
手にした陽介が丁寧に開けると、書類の束が。
「ここの権利書と、幾つか所有する土地や家屋の書類だ。
そして、ここに書き出されてある人物、お前は驚くだろうな。私の前妻達との子どもだ」
手渡され、驚いた顔。
「……古い幹部や、組員。兄弟なのか?」
「そうだ。彼らは理解している」
陽介は深く頷くと、疲れた様に溜め息を吐く。
*ライside*
視線を感じ、まほろばを見る。
難しい顔をして佇んで……拳から滴る血に気付き驚いて駆け寄る。
「まほろば! 怪我してる?!」
拳に触れ開かせる。
握った形に傷付いた手の平。
「ライ。抑えられなくなる」
考えずに触れた手がアツく熱を持っていた。
「……まほろば」
視線を上向けると、金色の瞳が光り、牙が覗く唇を噛み締めて居て。
ピリピリ と、見えない電気を身体全体にまとって居る様だ。
それはこの部屋の者を黙らせる程の鬼気となって漂って居た。
「まほろば」
このまま彼に触れられなくなるんじゃないかと気持ちが焦った。
傍に居られなくなるなんて、耐えられない。
「ライ。離れるんだ」
言われた言葉に首を振る。
「毎回この状態になった時、まほろばと離れなきゃならなくなる。
どれだけ時間が、日にちが掛かるか判らないのに……そんなのは嫌だ。
一緒に居たくて“鬼”に戻るんだ。一瞬たりとも離れたくない!
こんな事……乗り越えなきゃ!!」
まほろばに抱き着く。
どうなるか何て、考えもせずに。
失いそうで
焦りが
不安が
ボクを駆り立てた。
首筋に痛みが走る。
まほろばが牙を立てて来た。
「あ……!!」
深く食い込んだ牙が血を吸い出して行く。
頭を掌で固定され、身体を抱き締められ身動き取れない。
まほろばの唸る様な声が、頭に響く。
胸を押してもびくともしない。
「あ……あぁ!!」
魂まで流れて行く様な感覚。
「まほろば!」
樹利亜の声。
薄れる意識。でも危険を感じて踏み留まる。
まほろばの腕を掴んで、彼に身を委ねるしかなかった。
*樹利亜side*
私がからかったから?
これは、前の非じゃない。
ただならない鬼気を発して居た。
でも。
髪に力を込めてまほろばの躰に巻き付ける。
強く、キツく。
「あ!」
彼の鬼気が痛いくらい髪を通して押し寄せて来て、目眩がした。
肩に触れた手にそちらを見ると龍太郎が。まほろばに続く髪を掴み、さっきと同様に雷を流す。
まほろば自身がまとう電気と、龍太郎の雷が互いにぶつかり火花を散らす!
それはライにも流れて力無くくずおれた。
我に返ったのか眼を見開いたまほろばがライを抱える。
彼の眼に映る蒼白な顔でぐったりとしたライ。首筋から二本の血の筋が流れて居た。
まほろばの口元も彼の血に濡れて……
「あ……アアァァ―――!!」
雄叫び、ライの傷に手の平を当て癒すと、そっと畳みに寝かせ、後ずさりあっという間に空へ飛んだ。
私は荒い息で龍太郎の胸に抱かれていた。
その場が凍り付いた様に静まって、
朝陽だけが壊れた家屋の隙間から部屋の中に差し込み、眠っているライの青い髪を綺麗に輝かせて居た。
「理由を聞かせてくれ」
龍太郎が真剣な眼を向けるから、
「難しい恋人同士の話よ」
私は至って普通の事の様に話した。
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