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花鬼
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………………………
「ねぇ様」
可愛い春。精一杯小さな身体を伸ばして私に抱っこをせがむ。腹違いの弟。
抱っこしてやると満足げにほほ笑んで、頬に接吻をくれた。
「まぁ、おませな子ねぇ」
鼻をちょんとつつくと、腹から笑う。
「ねぇ様。だあい好き」
素直に愛情表現するこの幼い弟が愛しくて堪らない。
出会えた幸せを噛み締める毎日だ。
巫女の私に唯一許された贅沢。
まだ目覚めては居ないが能力ある春は、私が育てるのが妥当だと結論づけた父に初めて感謝を送る。
………………………
***
「元気!」
「あ……ライ?」
目を開けると、心配そうに眼を細めた青髮のライの顔。
「どうした?」
起き上がると、軽い目眩。
「どうしたって? 覚えて無いの?」
何を?
頭を押さえ、考える。
虚脱感。
躰が妙に軽い。
そうだ、
「樹利亜が?」
「うん。元気から飛び出したんだ。それも準備なく無理に。だから、宿主だった元気に少し負担がかかったみたいでさ」
ライの温かい手の平が額に触れる。
「熱も、あったんだ。でも落ち着いたみたいだね」
笑顔を向けられる。
釣られて笑うと、
「良かった。大丈夫みたいだね。まほろばに診て貰おう」
言って、ひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。
夢を見ていた。
違うな。視てたんだ。
あれは、事実。存在して居た者達。
でも、誰だ?
「春……」って?
声に出していた。
戸口でガタリ と音がして、振り向くと、樹利亜が立って居た。
「樹利亜」
名を呼ぶが、蒼白な顔色。
「どした? 気分悪いのか?」
俺は目の前に居る樹利亜が嬉しくて笑う。
呼んだが樹利亜は動かない。
蒼白な顔が長い黒髪に隠れて揺らがない。
怖いくらいに眼を開いた樹利亜が戸口に張り付いてこちらを見て居た。
「樹利亜? 大丈夫か?」
呼ぶと身体が跳ねる。
「ごめんなさい……」
「何を? この通り。全然大丈夫。それどころかこうやって目の前で樹利亜と対峙出来る。嬉しい事だ」
それでも、動かず震えてる。
「忘れて」
意味が解らない。
「……思い出してはいけない」
「何を言ってる?」
近付くと下がる。
「貴方には幸せで居て欲しい」
「今も幸せだ」
笑って手を伸ばす。なのに樹利亜は頭を振り戸口から走り出す。
「何なんだ!」
追い掛けようとしたけれど目眩がして身体がくずおれる。
「樹利亜!」
*樹利亜side*
ダメ。
思い出してる。
私が感情に任せて出てしまったから。
なんで!
出ちゃったんだろう。
走りながら零れる涙を止められなかった。
「樹利亜?」
低い声。呼ばれ自然と止まる足。
「どうした?」
魅力的な声。
顔を見なくても分かる。龍太郎。
「……何でもないわ!」
手の甲で目尻を擦る。
「何で泣いて居る? 父の事ならすまなかった」
大きな手の平が包む様に両肩に触れる。
「違う。自分の不甲斐無さに腹が立ってるの!」
両肩に置かれた温かい手の平。この頼もしい男性に頼りたくなる。
そんなの……ダメ。
私が愛してるのは、
「大丈夫だから、放して」
愛してるのは、元気。
言っているのに手を放そうとしない。龍太郎。
「止めて」
*龍太郎side*
涙をうっすら浮かべて震えている。
放っとける筈がない。
「放して!」
構わず抱き締める。
「樹利亜。泣くな」
「泣いてない!」
気の強い女性だ。
「放せっ!」
ばたつくが、男の力に勝てる訳がない。
上向いてこちらを見る瞳が涙に潤んで黄金に揺れて輝いて居る。
なんて……綺麗なんだ。
「素直に甘えておけ」
我慢出来ずに、唇を寄せる。
一瞬眼を見開いた樹利亜が、それでも受け入れた様に大人しく重なる唇。
腕を緩めた瞬間。
頬に痛みが。
強く叩かれていた。
「……バカッ!」
頬を真っ赤にさせた樹利亜が走り去る。
あの顔は、反則だ。
思わず手を出した自分に言い訳する。
大切なのは彼女の気持ちだと言うのに。
泣いていた樹利亜。
口の中に微かに残る涙の味。
何があったんだ?
あの口振りは、元気と関係あるのだろう。
『愛してた』
そう言って叫んだ彼女。辛そうで、苦しそうで……自分と重なる。
前世と言った樹利亜。
前世とは、何とも深い関係。
それだけ辛さも強いのだろう。
ちゃんと訊こう。
話すだけでも楽になる筈だ。
樹利亜が気になって、ちゃんと向かい合う為に跡を追った。
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