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花鬼
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しおりを挟む*虎之介side*
目の前に座る父の姿。
片角。青く銀に光る眼。
どこかで解ってた気がする。
「虎之介。悪かった」
頭を深く下げる父。
段々と思い出す。
父は母を愛してた。
ただ、それだけ。
瞳を閉じて、息を呑む。
「父さん。貴方は悪くない」
下げたままの頭が揺れる。
「僕だって大輝に何かあれば同じ事をする。そう言う事だから。気にしないで」
本音だから。
「ただ、気になるんだけど。僕は鬼に成る?」
「それは、龍太郎は元々角を持って生まれて来た。お前は、確かに鬼の血は濃い、だが、今時点では鬼では無い」
だが、と続ける。
「主様によると鬼に成る事は可能だ。お前が望むなら―――」
「僕は望まない」
即座に答える。
だって、
「大輝は人間だ。僕は大輝と同じ時間を歩きたい」
共に居たいのは彼。
愛してるのは大輝。
後ろに居た大輝の横に下がると、身体を預ける。
見上げると優しく変わらない笑顔が太陽の様に降って来た。
僕は大輝と、愛しい人と生きて行く。
悲しい様な寂しい様な眼を閉じた父。
「そうだな。そうだ」
納得した様に頷くと、
「これからをどうするか考えよう」
部屋に集まった皆を見渡す。
*元気side*
「こういった組織は他にもある?」
ざっと聞いて気になった事。
「君は? 初めに居なかったが」
「初めましてですね。先に居た樹利亜の弟の元気です」
「彼女は?」
「樹利亜なら俺の内に居る」
「それは。封じて居るのか?」
「事情があって共存しているんですよ」
胸に手を当て笑う。
「共存?」
「そう。俺の内に住んでるって言うのかな。たまに知らない間に樹利亜が表に出て勝手に行動してる。だから今の話もちゃんと把握出来ていなくて」
頭を掻いて、
「立場なら俺も鬼に成る者の方です」
「そして、俺の直系の子孫だ」
まほろばが―――にこやかに言う。
笑ってる。
びっくりするぐらい綺麗な笑顔。
「そうですか。身元がはっきりして居るのですね。子孫のお方ですか」
「元気の言う通り、鬼退治の組織は他にもあって仲間はもっと居るのか?」
話を戻したまほろばの問いに、頷いた片角の鬼。
昔話ですが、と話し始める。
「初めの鬼退治の時の混血の者が四名居た。
悪鬼を退治したその後、鬼の血筋の者達が悪鬼に成り得る事を一人が予知し。考えた上で自分達子孫の者で続けて鬼退治しようと口約束をした。
“組織”と分けるならば、私共を入れて四つある事になりましょう」
一息吐き、
「ただし、まず遇う事はありますまい。それぞれに取決めましたので。……縄張りと言いましょうか? 自分達の血が混ざらない様に、日本の島を四つに分けて各々にその地を守っております」
頭を下げ、
「それがこの20年余り、私の勝手でこの地の守りが手薄に成っていました。我が事で手一杯になり龍太郎への伝えを怠りました」
内に居る樹利亜が蠢く。
何か言いたいのか?
躰が熱くなる。
「樹利亜?」
『貴方がちゃんとしていれば!』
内から絞り出される声。
躰が割れる様な痛み。
躰が二つに離れて行く感覚。
「貴方が! 貴方がちゃんとしていれば」
樹利亜の声が耳元で聞こえる?
ズルリ と、躰から抜ける感覚。
「私も元気も今とは違う人生を送れてた!
母に捕り込まれ、こんなっ……こんな躰に成る事もなかった!!」
樹利亜の声を目の前に感じながら、膝をつき倒れそうになる。
離れた感覚が、全身に痺れを残す。
「……はぁ……樹利亜?」
瞬き、声の方を上向くと、長い黒髪が全身に絡んだ裸体の樹利亜の仁王立ちした後ろ姿が見えた。
全身で震えてる。
「こんな事にならなかったら……前世を思い出す事もなかった!」
前世?
横を通る風。
龍太郎がシーツを樹利亜に巻く。
虚脱感が身体を包んで、意識が遠のく。
「愛してる事を思い出さずにすんだ!!」
愛してる?
誰を?
樹利亜?
「寿を―――」
耳に残る。
名前?
ことぶき?
懐かしさがココロを一杯にする。
そんな事を考えながら落ちる。
意識が深く、深く沈んで行った。
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