107 / 210
羅刹鬼
5
しおりを挟む*樹利亜side*
「元気!?」
目の前に居た筈の彼が霧と消えた。
霧に呑まれてしまった。
「まほろば!!」
「“空羅寿”に連れて行かれたらしい」
眉間にシワを寄せたまほろば「ただ朱色の鬼の気配は、なかった」
でも、
「あれ程立ち込めて居た霧が、元気と共に消えたのは“超能力者”って事?」
「そうだな。霧を操って居た」
「そんな事も出来るのか?」
まほろばに龍太郎が不思議そうに訊く。
「超能力は無限の可能性がある。その者の状況下において必要な能力が目覚める。」
「例えば私?」
髪を操れる。母がそうだった様に。
「俺の雷もか?」
「そうだな」まほろばが頷く。
「鬼に成ったから目覚めた能力。じゃなく、超能力は別物って考えられる?」
「鬼の能力の基本は長寿と怪力。そして繋がりであるテレパシー。
他の能力となると、個人で違い目覚めるかは……判らない」
まほろばの言葉にライが静かにほほ笑むと、
「これからどうする?」
最もな疑問符を出す。
「闇雲に歩くのも何だからな。
二手に別れて島を探ろう。そうすれば元気も見つかるだろう」
提案した龍太郎が、私の手を取る。
「カップル同士で別れよう」
私の好きな笑顔で言った。
「元気を捜す為にね」
*元気side*
リ――ン 鈴の音が耳につき、目覚める。
「大丈夫?」綺麗な声。
「空羅寿?」
「そうです。貴方の名は?」
「元気」
額に冷たい感触を感じて目を開ける。
彼女の手の平が額に触れて居た。そこから続く衣服は時代錯誤な日本的着物で。
「ここは?」
「解っているでしょう? 島。入る事は出来るけれど、出る事の叶わない島。羅刹島」
眉下で切り揃えられた前髪の先に、左右真ん中と間を開けて小振りの青い珠が揺れていて、長い後ろ髪は腰辺りで軽く束ねられてある。
見事な艶のある黒髪。
茶色い瞳が大きく開いて、続く小さな鼻。薄い唇が小さな輪郭に収まって居た。
しゃなりと、踵を返し、長い裾を擦りながら、石壁に並ぶ蝋燭に火を灯して歩く。
「いつからここに?」
「遠い昔から」
リ――ン……リン……リ――ンと、彼女が動く度に、首元を飾る三つの鈴が鳴る。
「来るなと警告したのに来てしまった」
仄かに炎の光りが幻想的な部屋を映し出す。
「この場所は私の部屋。ここならば姫も来ない」
身体を起こしながら訊く。
「姫とは?」
「この島の統率者。絶対の支配者。私は、囚われ人。
羅刹姫の世話人。貴方は私の花婿」
震える睫毛がふせる。
「私は……鬼に成りとうない!」
強く吐き出す様に言った。
「来て欲しくはなかった」
哀しい色を浮かべた茶色い瞳と視線が合った。
「来るなと、言ったのに」
苦痛を含む物言いに、何も返す言葉が見つからなかった。
石造りの部屋に溜め息が響く。
「ここに居れば、姫にはみつからない。
私だけが入れる空間だから」
「空間?」
言われて四方の壁に目をやる。
先程点けて周った二個ずつの炎の光りが揺れているのが見える。
が、扉も窓も無い。
本当に空間。
「赤い月の晩が過ぎるまでここから出なければ、一年を静かに過ごせる」
柔らかい笑みを浮かべた空羅寿が、
「そうすればここの生活も悪くない」
ここの生活?
「……花婿とは?」
空羅寿がそう言った。
「姫は私にそうさせたがっている……花婿を、と。貴方は私の視界に入って来た」
「確かにそれは、その時に聞いた」
花婿。
姫が子を成し、男を喰べる。
「私は。姫の様には成らない。でも、貴方は来てしまった」
しゃなりと、側に寄って来た。
「何をしに来たの?」
「……鬼を倒しに」
空羅寿が眼を見開いた。
「鬼を倒す? 羅刹姫を?」
「その他の鬼達も」
空羅寿が横に座る。何の匂いだろう?
仄かに香る。良い匂いがして。
「その他は、居ない」
茶色い瞳が細まる。
「私と姫しかこの島には存在しない」
目の前に手の平を翳されて。
匂い。匂いが、鼻をつき、目眩がする。
「今は」
空羅寿の姿がぼやけて、また、ゆっくりと意識を失って行く。
冷たい手が頬に触れるのを感じながら……
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる