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羅刹鬼
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しおりを挟む*空羅寿side*
城の中、姫が座する場所は暗く、幾つもの失われた命でよどんで居た。
「「空羅寿……侵入者がおるのぉ」」
やはり、気付かれていた。
「姫……どうされますか?」
「「明日が誕生の日じゃ。それまでの余興として、兵士達が相手をするが適任」」
赤い眼が笑みで細まる。
そして、右手を挙げると、見えない場所でそれらが動き始める。
私には解る。
これは何回目だろう。
兵士の群れは、確実に生者を蝕む。
あれは、地獄の情景。
「「クク……ククククク」」
赤い唇が大きく横に伸び、笑い声を上げる。
ザワザワ と、うねり出す姫の黒髪。着物は緩み、どこまでも白い肌があらわになる。その白い躰に巻き付く黒髪が、まるで模様の様に全身に張り付いて伸びる。
伸びるのは白い肌。
躰が長く伸びる。
それは長く長い胴体へと変化し、伸びる伸びる。
伸びる。
滑った白い肌。
姫の顔が、唇が、伸びる。すべてが一本の長く、大きな生き物に変わる。
それが本性。
羅刹姫の正体。
私を連れ去ったモノ。
白く大きな森の主。
主は、私を連れ去った。
「「そなたの帰る場所は私。私の傍で、そなたは生き続けるが良い」」
それは呪詛。
私に突き付けられた生きた屍に成る呪い。
羅刹姫。
頭に黒い炎を掲げ、白い肌横に長く黒い流れる炎の筋を持つ白い大蛇。
千年を生きる。蛇の鬼女。
赤く光る眼がまるで炎の様に燃える。
生き生きと、楽しげに……
***
*ライside*
緩い地震が長く地面を揺する。
髪が逆立つ。
首の後ろに悪寒が走った。
「まほろば!」
視線を合わせたまほろばが頷く。
何かがおかしい。
朽ち果てた家が建ち並ぶ小さな村に居た。
かつては賑わいのあったであろう村並。
そこに広がる不穏な空気。
ピリピリ とした緊張感が漂う。
まほろばと背中合わせで立ちすくむ。
パキッ
―――バキッ
何の音?
無数の乾いた音。
音が響く。
音。
島が大地が揺れる。
実際に地割れが起き初め、そこから無数の蠢くモノ達が這い出して来た。
それはかつて人で在ったモノ達。
乾いた皮膚が張り付いた皮と骨だけの亡者。
茶色く色付いた薄い身体。まばらに残った白や黒の髪の毛。頭骸骨の形に張り付いた皮膚が、所々剥れ白い骨そのものが見えている。
共通するのはその眼。
顔面にくぼんだ二つの穴から赤く仄かに光る眼がギョロリ と動いて、意思が有るのか無いのか定かではないが、そこに見えるのは、飢え。
飢え。
生者に対する死者の妬み。
生への執着。
生への希望。
そして、
生への絶望。
永劫に囚われた亡者達。叶う事のない輪廻。
それ故に目覚めさせられたその一時を、暴れ、すべての生者達を仲間に引き摺り落とすまで眠りにつく事はない。
***
*樹利亜side*
「何?」
龍太郎の腕に抱きしめれたまま、大地の揺れを感じた。
それは大きいものではなく、言うなれば、島があくびをした感じ。
「地震?」
龍太郎も首を傾げる。
が、すぐに険しい顔付きになった。
瞬間、私も視えた。
亡者の叫び。
呪われた島に、呪われた亡者が朱色の鬼に成った。
死んでも死に切れない人の成れの果て。
『樹利亜!』
元気?
元気の声が聞こえる。
『逃げろ……羅せ……ひ……が』
何だかくぐもったはっきりとしない声。
どこかに閉じ込められている?
生暖かい風が吹いて来た。
パキッ
―――バキッ
風と共に乾いた音が聞こえて来た。
草むらの外から、幾つもの重なって鳴る音が耳に届く。
「龍太郎。無数の朱色の鬼が……身体を持った呪われた霊魂の群れが来るよ」
「厄介か?」
「とても。
もうすでに死んでいる亡者の群れなのだから、どう倒す?」
感じる。
生者を憎む憎悪の塊。
その魂の叫び。
囚われた魂の悲痛の声。
死んで尚囚われて居る苦痛は、計り知れない。
千里眼で探る。
魂を捕らえてるのは……空を仰ぐ。
この森の先を抜けた山間の場所に在る……黒い城。
そこに居る蛇。
大蛇。
そこに元気も居る?
取りあえずは、ここをどう切り抜けるか?
目の前に現われた赤い光りを放つ群れを睨む。
沢山のゾンビの群れ。
「さあ、樹利亜。行くぞ」
引き締まった口元。
私の好きな彼の笑顔。
「ええ。貴方とならどこへでも」
「洒落た事を言う」
極限まで鬼気を燃やす。
龍太郎も角から、全身に雷をまとう。
ただ、
乾いた無数の音が、島中を響き渡って居た。
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