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羅刹鬼
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しおりを挟む*ライside*
現われたゾンビ。
干涸びた身体。赤い眼が不気味に光る群れ。
沢山の憎しみや妬みやそんなもろもろの負の感情を背負った亡者の群れ。それは強い鬼気をまとった“朱色の鬼の群れ”で有った。
「ライ。離れるな」
まほろばと背中合わせのまま、群れを睨む。
朽ちた家に乗り上げ、地を這う輩、普通に歩き、ひょこひょこと身体を曲げながら歩く者。
それらがゆっくりとボクらを取り囲む。
浅く呼吸していた。
堪らず息を呑む。
途端にゾンビ達の動きが早くなり、数体が飛び付いて来た。
まほろばは払いのけ次に来たモノと対峙し鬼気を放つ。
ボクに飛び掛かって来たゾンビは、異様に細長い手で抱きしめて来た。
目の前に見える赤い眼がぐるりと動き回る。
その眼光に深い闇を感じて……実際に憎悪が溢れ零れている。
自分の意思とは関係無く、死ぬに死ねないこの鬼達。
哀れだ。
妙に冷静で居られた。
額の角が熱を持つ。
その熱が躰を熱く燃やす。
「「ギャッ!!」」
悲鳴を上げて、ゾンビが蒸発した。
何?
掌を見ると、白く発光していた。
握ると消えた。
それを皮切りに数体のゾンビが一度に飛び付いて来た。
さっきの感覚。
角から流れる力。
そして、
爆発―――
*まほろばside*
爆音と共に煙立つ。
何が起こった?
すべての亡者達が、その存在が……消えた。
「ライ!!」
周りを見る。
廃屋はそのままに、誰も居ない。
「ライッ!!」
不安が胸を締め付ける。
ライはどこだ!
煙が落ち着いて、視界が開ける。
目に映るは流れ光る銀糸。
糸の様に細く輝く銀の長髪をなびかせた一本角の……銀の瞳の……
「ライ?」
その瞳が揺れて、こちらを見る。
月光に照らされて髪が輝く。
全身が白く光り、透き通った裸体が、こちらに近付く。
唇から吐息と共に零れた「まほろば……」俺の名前。
ライが躰を寄せ、もたれ掛かって来た。
見目麗しいその姿。
“銀の鬼”
ライが変化した姿は、魂に近い存在で在る証。
金と銀を持つ鬼は、そうは居ない。
かつて鬼族の中で神秘的力を持った者が希に金か、銀の鬼と成る事があった。
“癒しの力”よりもはるかに希な存在。
その躰を抱きしめる。
柔らかい肢体。俺の腕に絡む銀の髪。
そっと上向いたライが、首を傾げる。
「……彼らの魂は囚われた場所へ行った」
「ライ。何を感じてる?」
「何を? まほろばの激しく鳴る心音以外?」
声も顔もライに違いない。
「お前。自分の今の姿を分かってるか?」
キョトン としたライの表情に笑顔が浮かぶ。
ライは、ライだ。
ただ、目のやり場に困るな。
上着を脱ぎ、頭からかぶせる。
「まほろば?」
「裸で居られると困る」
苦笑し、頭を撫でる。
「裸?」
言われて気付いたらしく自身の姿を見て驚く。
「何? 銀の髪?」
*ライside*
髪を掴む。
銀の長髪。引っ張ると痛い。
確かにボクの髪。
「どうして?」
まほろばを見ると、
「変化したんだ」
上着から長い髪を抜き出しながら笑みを向けられる。
「金と銀の鬼は、霊的能力が強い者が成る。
変化するんだ。
霊魂を理解し、操り、浄化させる。
鬼長は、そういった者が成っていた」
霊魂を統べる者?
「長って……群れの長?」
「覚えているか? あの時、長老が国へ帰ると言った時、ライはその言葉を振り切った」
ただ、言葉に従わなかっただけ。
「長は、家族の決め事には常に“言霊”を使っていた。
今思えば、その強力な言霊を撥ね除けるなど、普通出来ぬ事だ」
「まほろばだってボクに着いて来た……あ!」
それって、ボクが……
「銀の鬼の素質が有ったなら、お前に惚れていた俺は、長老の言霊よりもライの言霊に支配されて居たのだろう」
笑顔で頬を擦られる。
「ライに支配されるのなら本望だ」
胸が、キュン。となった。こんな状況でこんな感じは変だと思う。
けど、高鳴る鼓動は止まらない。
堪らず、赤い髪を引っ張り唇を重ね、素早く離れる。
「ライ……」
まほろばが、赤くなってた。
「まほろばを支配出来るなら、そうしたくて変化したのかもしれない」
ココロから笑みが出る。
風が吹いて、匂いが漂って来た。
甘い、匂い。
それと共に、元気の気配を感じた。
「まほろば、このまま先に進もう。すべてがこの先の谷に在る」
囚われた魂の悲鳴もそこから聞こえて来る。
朽ちて尚動く身体が無くなった今、魂だけが“捕えた主”に返った。
仰ぐ空には雲がかかった白い月。
あれは明日の晩には赤い満月に成る。
それまでに解決しないと。
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