鬼に成る者

なぁ恋

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羅刹鬼

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*樹利亜side*

白い光りが視界を塞いだ。

驚いて目をしばたたせる。

落ち着いて見えたのは、何も無い元の背の高い草むら。

「何が起きたの?」
「判らん」


倒しても倒しても向かって来たゾンビの群れが、一瞬にして居なくなった。

千里眼で探る。
白い光りの正体。

捕らえたのは、銀色の人影。
さらに探ると、一本角。
この気配は……「ライ?」掛けた声に反応する様に銀の眼がこちらを見る。

『城で落ち合おう』

瞳は、声はライに違いない。
けど、長い銀髪。
白く光る肌。

傍にはまほろばが居て、銀の鬼と共に城へ歩き出す。


「はぁ……」
「どうした?」

龍太郎の問いに首を振る。

「解らない。ライが、倒したみたいよ。奴等を一掃した。彼らは私の視た城へ向かってる。
行きましょう」

「すべての謎は合流してから解る。か?」
鼻を鳴らし、頭を掻く。

戦いで汚れた彼の顔の土を擦り落としてやり、手を取る。
私が先立って歩く。
主導権は私に有るのだから。
龍太郎が小さく笑った。

「樹利亜の仰せのままに」

私の好きにさせてくれる。彼は大人の男性。
それが丁度良い。

彼となら何があっても大丈夫。
守って守られて、私は成長する。
そう有りたい。 

「さぁ、元気。貴方はどこに隠れて居るのかしら?」
 
待って居て。
必ず、助け出すから。
 
  
 



*空羅寿side*

「「ギャアァアァァ―――!!」」

羅刹姫が悲鳴を上げる。大量の“兵士”が一度に返って来たから。

姫の周りを巡る亡者の群れは、顔を歪め、大きく口を開け、悲鳴、怒号、諸々の恨みつらみを吐き出して居る。

使役していた姫に、肉体の無くなった亡者が群がる。

大蛇の長い躰の尻尾から頭まで無数の魂が抱き着き、姫を苦しめる。

悲鳴を上げ続ける姫の上半身が人型に戻り、耳を塞いで カッ と見開いた赤い眼から血の涙を流す。

信じられない。
こんな姿、今までで初めて見た。

「「ああぁぁ……」」

高く低くなった声。
やがて、静かになる。

「「ふ……ふふふ……」」

こうべを垂れた姫が、笑う。

「「―――黙れぃ―――」」

その言霊で“兵士達”が止まる。

「「お主らを統べるは妾ぞ……」」

長い爪を振り指差す先には、脱皮した姫の抜け殻。その皮は、姫そのものの形のまま残っていた。

「「あれに乗り移るがよい」」


今度は兵士が悲鳴を上げながら、言霊通りに一つの形を成す。
大蛇の皮に、何千何万の魂が集合体と成し宿る。

大蛇が二匹。

兵士の宿る大蛇は、皮とは思えぬ艶やかな滑る躰を持ち、赤く色付いた眼に大きく開く口から覗く長い舌先が揺れる。
姫が上半身を人型のまま、膨らんだ腹を擦った。
         
「「もうすぐぞ……ちゃんと生まれ来るがよい」」


この言葉の意味は深く、姫の哀しみを含んでいた。

何度目かの出産。その度に、姫は辛そうな顔をする。生まれ来た我が子を呑み込みながら、涙を流し「「違う」」と連呼しながら、


姫が、笑う。
そして、泣く。 
 
姫と長く共に居て、人の姿のままで過ごす数百年の年月。

姫の眠りと目覚めで、島が活動する。
姫の眠りは冬眠に近い。なので、姫の眠りの年月を私は留守役としてただ島で生きて居た。

島。
羅刹島と呼ばれるこの島は、私と共に姫に連れ去られた私の里を含む山々から成る島。
この城が建つ谷は、かつて私の里があった“霧の谷”


姫は、私のすべてを奪い、私を支配する。

けれど、けれども、私にも多少の能力の目覚めがあった。

揺れる炎の点いた皿を持ち、暗い石の階段を登る。
着いた先は城の最上階。
そこにはただの石壁があるだけ。見た目には。

「母様。空羅寿です」

石壁を撫でるとそこに現れた石色の顔。

『空羅寿か。今度の者は何者か? ワシは何度も叩かれ痛くてかなわん』
「申し訳ありません。ちゃんと言って聞かす故お許し下さい」

『ふむ。お入り』
「ありがとう」


意識を集中させる。
私の好きだった霧の谷の朝霧。
私は躰を霧に変化させて母の胸に飛び込む。

この石壁は、母と弟妹が塗り込められて居る。
共にさらわれた者達は、男以外は、丁重に扱われた。私の弟は特別に難を逃れて、数年は一緒に過ごす事が出来た。
しかし、私の他は百年を生きる事は出来なかった。
死んだ者は姫が使役する。それは忍びなく、遺体を石壁に塗り込めた。
そうしていつの間にか母を兄弟を使役して居る自分に気付き、母達を隠れ蓑に、姫の気付かぬ空間、部屋を作った。

そして、姫の周期で繰り返される誘拐で、間接的に迷い込んで来た者を匿い、その者の寿命が尽きるまでを共に過ごした。
 
今度の男性は、私と共に永くを生きれる者?
自分を鬼と言った彼は、とても美しい夕陽の様な色の髪を持つ青年。

「元気。何をしているの?」

婿を―――
姫の言葉が頭を掠めた。 
 
 
 
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