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毒鬼
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しおりを挟む「身体の大きさが分かる?」
不思議に思い訊くと、顔に触れて来た手に、近付いて来た顔に―――驚いた。
「まとっているオーラと、話す声で分かるのです」
細い指が、顔を撫で下り、肩から胸に両手を乗せられる。
「こうして触れるとその体温から、魂の清さも、人格も解ります」
いやに密着していてドギマギして来た。
手の平は胸に置いたまま、顔が近付く。息が触れる程に。
「ふふふ……可愛い方ですね」
優しくほほ笑み、額をくっつけて離れる。
瞬き出来なかった。
目は閉じているのに、視線が合わさったみたいで……
「道彩。は、男だよね?」
「さぁ? どうでしょう?」
口端がついと上がった笑顔。
何てミステリアス。
「休みましょう」
素直に頷いた。
*
*静side*
指先に傷を付ける。
玉状の小さな血液が出てゆっくりと垂れ落ちる。
それは水晶で作られた器に溜まり、
こねる。
こねる。
こねて創り上げる。
鬼若の、命を繋ぐ団子。
血液の付いた指先を舐める。
その血液は甘い。
私の血は、麻薬。
私は造られた毒人形。
この美しい躰は、男を惑わせ夢中にさせる。
体内を流れる血液は、一度口にすると、生命を燃やす“糧”になる。
“死人”さえ。生き返らせる事が出来る。
死人と成った者。
“人間”に使えば、ただの亡者。
“鬼”に使えば、それは生前の姿を世に留まらせる事が出来る。
一度口にすれば定期的に取り込まなければならない。
生きて居たければ、私から離れる事は出来ない。
「お帰りなさい。母者様」
音も立てず肩に降り立つ鴉。鴉と成った母。
「「途中、護りに阻まれた」」
「良いわ。大体の場所が判ればどうとでもなりましょう」
指でこねた血珠を手の平に乗せると、母者がそこに飛び移りついばむ。
「「ふむ。やはりそなたの血は濃い」」
満足げに長い舌で唇を舐め回す。
私は作りもの。
貴女の思惑通り、私は強くなった。
「「静。私に見合う躰を見つけた。いい加減、この躰に飽きた。獣臭くてかなわん」」
「その姿が似合って居るのに?」
カァっ!
一鳴きし、飛び上がる。
「「カラダが見つかった。私のカラダ。カラダ、カラダ―――!!」」
うるさい。
睨み、呪縛。
母者の動きが止まり、ゆっくりと地面に落ちる。
私は確かに貴女から生まれた。
けれど、
床に転がる動かない鴉。
貴女にはその躰がお似合いよ。
“静。
ここを出たければ、兄弟達を喰いなさい”
母の声はいつもうるさい。
嫌な事を思い出し、溜め息が零れた。
水晶の器を持ち、愛しい鬼若の元へ。
彼だけが、私の真実。
人間は容赦なく鬼若をいたぶった。
仁王立ちした彼に無数の矢印が突き刺さり、それでも息絶えない彼を、彼の躰を八つ裂きにした。
力の源である角を丁寧に切り取り、砕きまでした。
バラバラにされた躰は別々の場所に埋められた。
頭を掘り起こした時、貴方はまだ息をしていて私をしっかりと見据えたわね。
「鬼若」
暗闇に佇む黒い影が振り向く。
私の姿を一瞥して静かに衣を脱ぐ。
一糸まとわぬ姿で私を待つ。
私は近付いてその肌に触れ、たくましい胸を撫でて横に、腕の付け根を擦る。器から血珠を掬い、その部分に撫で付ける。
血珠はすぐに吸収され彼が溜め息を吐く。
それを繰り返す。
もう片方の腕、足の付け根、そして、首。
彼の躰中を撫でる。
額の疵にも念入りに撫で付け、
最後に唇に触れ、その内に血珠を含ませる。
無言で呑み込む鬼若の瞳が、赤く色付く。
この瞬間が堪らなく好き。
彼は私なしでは生きて行けないと解るから。
赤い瞳に黒が混じり、鬼若の意識が戻る。
「静。大丈夫か?」
心配?
違うわね。私が倒れては彼が立ち行かない。
「平気。とは言い難いわね。でも、あの坊やを頂けば、心配いらない」
鬼若の裸体に躰を預ける。何時も彼は私を支え、抱き留めてくれるから。
例え、憎んで居たとしても。
私に頂戴。
貴方のココロを。
私を見て、
私だけを求めて欲しい。
その素肌を撫でる。
いつまでも維持出来るとは限らない。
でも、手放したくないから、私は“鬼”となる。
ねぇ? 母者。こんな時は貴女に感謝するのよ。
この躰のお陰で鬼若を繋ぎ留めておけるのだから。
“濃い力を持つには、同胞を喰い、その力を我ものとするのが一番”
母者は取り憑かれた様にそればかりを繰り返し言い、父親の違う兄弟を何人も産み、その皆を私に喰べさせた。
そして、私の赤子。玉の様な義経との男児まで、私に……
最後には、自らの躰を。
母者の言葉は絶対で、その“言霊”で私を操った。
貴女には、鴉がお似合いよ。
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