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毒鬼
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しおりを挟む*元気side*
何と浅ましき鬼の成り立ちよ。
いつもの通りに“夢”で発揮された千里眼。
うまく見つからずにすんだ。
“静”のココロの内側までを垣間見る事が出来た満足感で息を吐く。
「“千里眼”とは素晴らしい能力ですね」
身体に掛かる重みに、一瞬樹利亜かと思ったが、俺の上に寝そべる人物を確認し、固まる。
「道彩……」
気怠げに上半身を上げた道彩が、瞑ったままの目が面白げに動き、口端で笑う。
「忘れたんですか?」
何をですかぁッ?!
冷汗が吹き出し、目が泳ぐ。
だって、着物が乱れて肌が露出してるっ!
俺の上でそのまま馬乗りに座り直した道彩がまた、怪しい笑みを浮かべる。
「元気様自身も元気でいらっしゃる」
頭真っ白。
朝だから。
だよな?
別に〇〇〇で〇〇〇だからじゃないよな。
「冗談ですよ」
くすくす笑いながら上からどいた道彩が、
「自身が元気なのは……“朝立ち”でしょう?」
さらりと言って着物を直して居た。
脱力感で身体の力が抜ける。
だよな。正常だよな?
俺。
「何なら、お手伝いしましょうか?」
その言葉に脱兎の如く飛び起きて、部屋を飛び出した。
耳には道彩の高らかな笑い声だけが聞こえていた。
最初の印象と余りにもかけ離れた道彩。
あれじゃぁ、セクハラ親父じゃんっ!
涙目でひたすら走る家は余りにも広くて、走る事で思う存分発散出来た。
ナニを?
いや。弄ばれた気持ちを。
*
*ライside*
翌朝。千里眼で視た敵の詳細を話す元気。
何だかスッキリした感のある元気の話し振りに安堵と、何があったのか訊きたい衝動でウズウズする。
緊張感ある話なのに、安心して聞く事が出来た。
「また喰う方の鬼か?」
龍太郎さんが訊くと、
「俺を喰いたいらしい」
元気がさらりと言った。
「よくよく狙われる奴だな」
「本当に。自分でも飽きれるよ」
冷静に受け答えられて、苦笑する元気に、やっと安心出来た。
「なんだ? ライ。ニヤニヤしてさ」
元気の問いに緩んだ顔。
「元に戻ったなって思ってさ」
「ああ! いつまでもくよくよしてられない」
元気は元気でなくちゃね!
ボクの横に座るまほろばが、
「“鴉”は女の母親で、女はその鴉が作りあげた“鬼”と?」
「その様ですね」
背後から答えが。
部屋に静かに入って来た道彩は、人数分のお茶を持ちそれぞれの前にきちんと並べた。
見えているのかと錯覚を起こす程に完璧。
「貴方が元気と?」
樹利亜が眉根を寄せる。
「はい。視ました」
頭を下げ、きちりとスーツを着た道彩が壁に立つ。
「“鬼若”とは、弁慶の幼少の時の名前ですね」
「それに、静は“静御前”じゃないかな?」
ボクが言うと、道彩が頷いた。
「弁慶が生粋の鬼?」
「弁慶は謎に包まれた歴史上の人物。
元気の話しに角を切り取られたと下りがあったろう? しかもバラバラにされたと。それでも死なないってのは?」
龍太郎さんが訊くのは最もで、
「心臓さえ動いて居れば数日は生きて居られるだろう」
鬼の弱点は、兎に角“心臓”なのだと? 胸を掴む。
簡単に貫かれた俺の心臓。
「“朱色の鬼”は鬼気を宿した石を使ったんだ」
気遣う様なまほろばに寄り掛かる。
それだけで安心出来る。
「“護り”に触れた感触はありましたが、この場所はまだ知られてはいません」
話の流れを道彩が戻す。
「解るんですね?」
「私はいわゆる“アンテナ”の役割を果たして居ますから」
「あの女にはそれも破る力が有りそうだ」
龍太郎さんが唸ると、
「今は眠ってる。“癒し”を施すと疲れるみたいだな。一昼夜眠りに落ちるらしい」
元気が答えた。
「そうか。なら、考える時間は少しはありそうだ」
龍太郎さんが眉根を寄せ、お茶を飲む。
「知らせをくれた仲間達はどうしたの?」
「それは、受け継ぐ者、殆どが居なくなりましたので……まぁ、それも考え所です」
道彩が、それ以上は突っ込めない雰囲気を醸し出していて、口を継ぐんだ。
「さぁ、どうする? 動き出す前に何とか出来ないか?」
龍太郎さんの言う事に一理ある。
「“鴉”を利用するか?」
まほろばが簡単そうに言った。
「“餌”をちらつかせる」
「餌?」
「樹利亜だ。鴉の欲しいモノは、その躰」
樹利亜がきょとんとして、
「良いわよぉ。でも安売りしないからね!」
何とかしないと。強敵としか解らない相手をどうすれば良いのか?
「呼び寄せて連れて行かせる?」
ボクの問いにまほろばが頷いた。
「なら、俺の出番か?」
元気が両手を上げて伸びをする。
「やりましょうか?」
「手伝います」
樹利亜が元気の正面に座り、互いの手を取り眼を瞑る。
イメージする。
人面鴉を、その気配を辿り、そのモノを捕らえる。
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