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毒鬼
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しおりを挟む義経が死んだのは解った。
彼の気配が消えたから。
戦乱の世の武将だもの。
人間だから、彼が死ぬのは分かってた。
ココロが張り裂けるかと思った。
私も死ねたら。と。
でも、本能は生きたいと言って叫ぶ。
だから、探した。
“鴉”を引き連れ、私と生きて行ける者を、
義経が私にくれると言った。弁慶を。
これは愛だろうか?
それとも慰め合い?
弁慶が好き。
長く一緒に過ごして“愛”に変わった。
義経。
私は貴方を変わらず愛してる。
「義経は、死んだわ」
「牛若丸は死んだ」
知らず私も震えていた。
早く、早く喰べて、躰を頭をまともにしないと、何百年も前の亡霊に……おかしくなる。
義経の牛若丸と名前を聞いただけでこんなにも私達は動揺する。
でも、何故?
銀色の鬼が、予知した事?
嫌だ。身体の震えが止まらない。
指先まで震えて、拳を握る。
「鬼若……」
手を出すと、強い力で引き寄せられて、厚い胸板に頭を寄せる。
弁慶も、震えている。
私達は同じ人を愛して、同時に私達自身も愛し合ってた。
「義経は「牛若丸は……居ない」
いつの間にか、唇を重ねていた。
これまで一度も感情で口付けはしなかった。
情熱的に貪る様に重ねては離す。
息が苦しい程に。
愛してる。
愛してるの……弁慶。
「鬼若……弁慶!」
「静御前。静……愛している」
長い年月を共に居た。
幾人の生命を奪ったのか分からない。
生きる為に、私達が生きる為に。
ただ、生きて居る為に。
義経は、居ないのに―――……
*
*元気side*
頭が痛い。
胸が痛い。
衝撃は、身体全体に一気に落ちて来た。
息が苦しい。
肺が痛い。
「く……」
うつぶせに冷たい岩の上に居た。
顔を上げると二つの影が朧気に見えても、視界がはっきりしない。
頭を軽く振る。
―――……!
気配を感じた。
これは、道彩?
「―――どう……あん?」
霞んだ眼に見えて来た影が、静かに近付いて来て俺の頭を撫でる。
「良い子だ」
優しい声色。
「道彩?」
「すぐに助けが来ます」
笑顔が見えた気がした。
そして、
リンクする。
誰に?
この空間の三人が、想うココロ。
愛してる。
愛している。
深い愛。
それが解る。
互いを想う気持ちが、切ない。
切なくて苦しい。
愛は甘いだけかと思ってた。
意識がはっきりして来て、視界も冴えて来た。
「元気!」
「樹利亜」
抱き締められ起こされる。
「大丈夫か?」
「龍太郎? 道彩が来てる」
龍太郎の肩を借りて立ち上がる。
「元気」
まほろばが呼び身体に触れるとたちまち楽になる。
俺の右腕に入り込み身体を預けて来た樹利亜が言う。
「道彩が止めてくれる。そうよね? ライ?」
樹利亜の視線の先を見ると、銀色の長髪。変身したライが佇む。
「道彩は責任を取りに来た。或いは、望みを叶えに来た」
意味深な言い方。
でも、あの互いを想う気持ちの大本は、目の前に居る、弁慶、静御前、それに道彩。三人のココロの共鳴。
視線を向けると、抱き合う弁慶と静御前。そこに近付いて行く道彩が居た。
道彩?
彼は何者だ?
****
*鴉side*
カァッ!
カァ!
ここはどこだ?
暗くて硬い鉄の箱。
動きを奪われて閉じ込められた。
身体の自由が戻って暴れる。身体を叩き付け、やがて、大きな音と共に外へ飛び出す。
暗い空。
小さい月が見える空へ飛び上がり、風に乗る。
憎い。
憎いぃ!
奴等許さない―――!
カアァッ!
憎い相手はどこに!?
どこに?
風に漂って来る匂い。
匂いがする。
憎かった相手の、匂い。
これは?
この匂いは……まさか? いや。嘘だ。
獣の鼻は敏感に匂いを嗅ぎ分ける。
信じられない。
義経。
そうだ。奴の匂い。
奴は死んだ。
追い込んで自害し果てた。
そうし向けたのは私だ。
カァッ
人間で在った義経が、何故奴の匂いが今するのだ?
何故?
匂いの先は、静の居る洞窟。他の匂いも在る。
私を閉じ込めた輩の、“女”の匂いも。
私も行こう。
もう、この“躰”にはうんざりしているのだ。
カァア!
****
*道彩side*
見えない眼で“視る”これは“義経”の魂の為した事なのか?
目の前に視える二人の、恍惚とした抱擁と接吻。
これは夢じゃない。
愛しい弁慶と静御前。
「弁慶。静御前」
呼ぶと、動きの止まった二人がこちらを見る。
はっきりと視える変わらぬ姿。
だが、代償に何を失くしたのか?
その瞳は濁っていた。
哀しみに。
憎しみに……。
「嘘だ。」
「信じない」
二人の言葉は私を刺す。
当たり前だ。
だが、私は私。
道彩で、義経だ。
「どうしても、お前達に会いたくて……転生して来た」
魂の気配や匂いは消せない。
解っている筈だ。
「“鬼”と成って」
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