鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
140 / 210
毒鬼

15

しおりを挟む
 
*弁慶side*

この者は誰だ?
いや、解っている。
この気配。


牛若丸。


姿は違えど、魂は同じと分かる。

しかし、信じられない。
あの時の哀しみに苦しみに……俺は確かに牛若丸が消滅したのを感じた。

“転生”して来た?
“鬼”に?


抗えない。
牛若丸……。
静を腕に強く抱いたまま手を伸ばす。
伸ばした手が、牛若丸の頬に触れると、痺れる感覚。
もう片方の頬に静が触れて、涙を流す。

「義経……」

震える。
喜びからか、信じられないからか?

「静。そうだ。私だ」

牛若丸が俺達の手に重ねる手の平が温かい。

「牛若丸」
「弁慶。会いたかった」

牛若丸の笑顔。
違う顔なのに重なる。俺の愛した牛若丸の笑顔に。





*道彩side*

「お前を失っては、生きて行けないと思った」
弁慶の苦痛に満ちた表情。

「私も置いて逝きたくはなかった。だが、所詮はヒト。儚い生しか持たぬ生き物」

「私達は、二人だから生きて行けた」
静御前の哀しい瞳。
「静。辛い思いをさせた。私達の息子を亡くさせた」

静の表情が変わる。

「亡くしたんじゃない。私が喰べた」

色を失くした瞳。
だが、想像はつく。

「母親のせいだろう。お前に取り憑いた悪鬼」

「そう。けれど正気を失い惑った私はそれを良しとした」

「人間の綴った歴史が正しければ、静は精一杯抵抗した。どの道、息子は死ぬ運命だったのだろう」

静の温かい頬を擦る。

「義経」
涙を流す。静の涙。
私は静を幸せにしてやりたかった。

戦乱の世の武将の息子に生まれた。それは不幸とも幸いとも思わなかった。
けれど、二人に出逢った事は、何よりも生きて来て一番の幸福だった。

永遠を願って止まなかった。
 
 
  
羽ばたきが聞こえる。
これは運命の羽音。


『手を出さないで下さい』
    
それは、に向けての言葉。

「静御前」呼んで口付け。

「弁慶」私よりも逞しい躰を撫でて、同じ様に口付ける。
牛若丸の時は触れた事は一度もなかったが。
小さく笑い、二人を視る。

会いたかった。
触れたかった。
話したかった。


ずっと共に居たかった。


二人は優しい。
それが生きる為に“鬼”に成った。
文字通りの鬼。
生きて行く為には“生”を盗らなければならなかった。
人間よりも、同族の生を。

それが本意では無くとも。
二人に触れて解った。

ただ、生きて行く事に疲れて居た。

もう、精神の限界。
狂気の中に生きて来た二人を、開放してやりたい。


魂の欠片に成って子孫に囁き続けて、もう何度ダメだと思ったろう?
だが、いざ転生すると、ゆっくりと、本当にゆっくりと“前世”の想いが剥がれ落ち、生を受けた時には、想いのすべてを母胎に落としてしまったみたいに忘れ去って居た。

「長く、待たせてしまった」

二人を抱く。

私は心底二人を愛している。



二人の狂気は、魂の欠片の時から解って居た。
もう、私から、開放してやらなければ……

上手く言葉に出来ない。


「お前達を開放してやる。私と言う呪縛から……」

どんな形であれ、私は二人を愛して止まない。



それは、元々の元凶。


もう、終わらせなければならないのだ。
 


  

*元気side*

入口から小さい塊が飛び込んで来た。
気付いた時には遅くて。それは洞窟の天井に舞い上がり、道彩達の頭上を回る。

「「カァッ! 義経。義経ぇ!!」」

人面鴉。自力で呪縛を解いて追いかけて来たのか。
しゃがれた声が洞窟を響き渡る。


「「何故? 何故ここに義経が居るのカァ?!」」

それは禍々しく形を変える。
頭に合わせて大きくなる鴉の躰。黒い人型になると、ドスリ と三人の近くに落ちる。

「久しいですね。母者様」
   
道彩がと対峙する。

「「お前は死んだ筈。それにただのヒト如きが何故この時代に居る??」」

黒い躰は膚を膨らませ、一本一本の羽根が立ち上がる。それは硬い刃の様に。

危ないんじゃないか?
ライを見遣ると、静かに事の顛末てんまつを見守っていくつもりか動かない。まほろばもその隣りで見て居て、やきもきしているのは俺だけか?

「龍太郎。助太刀するか?」
それに首を横に振り、
「道彩が手出し無用と釘をさした。考え有っての事だろう。無闇に手を出すのも危ないだろう」

俺の傍らにくっついたままの樹利亜は、大きく眼を開いて見て居た。

その瞳は黄金に輝いて、何を視てる?





*鴉side*


「磯禅師。相変わらず醜いな」

何と! この男は、逢った初めから不躾だった。

「「義経。そなたは“何”に成った?」」 

不自然に眼を閉じた義経が、口端を上げて笑う。閉じた眼で私を見ている。

「“鬼”に転生した。貴女と同等になりました。もう貴女の“言霊”に惑わされない。
みたいな最期を迎える事はありません」
         
こしゃくな物言いにが立つ。
だが、

「「ならば、静の食料に成った訳じゃの?」」

これは面白い。“言霊”を使って静に喰わすか?

「「静には弁慶が居るでな、お前にはようがない」」
 
私はまだ強い。
それを見届けて“躰”を手に要れても良い。
 
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...