142 / 210
毒鬼
17
しおりを挟む*ライside*
事は早急に起きた。
身体中が血塗れになった道彩が自らの心臓を握り出していた。
その心臓には顔が浮かんでいて。囁いている。
“言霊”を。
彼の真後ろに居た、樹利亜が固まる。傍に居た元気が支えて居て、
「道彩!」龍太郎の呼び掛けに彼は白い眼を開けた。
「義経!」
静と弁慶が彼に駆け寄る。
まほろばも背後から手を伸ばし血液の流れ出るのを止血する。
「「アハハハハ!! 面白い! どうしようもないぞ! もう私はこの臓器の一部だ!」」
人面鴉が高らかに笑う。
「母者様。本当に欲しかったのは私でしょう?」
静の言葉にその声はまた笑う。
「「そなたの愛してる者の躰でそなたと共に生きてやろう」」
それはもう呪い。
「「静ぁ。放すものか。お前は永劫に私のものだ!」」
邪悪な魔力が道彩の中に根を広げ始める。
「カハッ! ……私は、二人を、助けに来たんだ。磯禅師。お前の、思い通りにはさせない!」
吐血し道彩が強い意思の力で“言霊”を撥ね付ける。
助けなければ。と言う気持ちとは裏腹に、このまま見守る事がボクの今の“役目”の様な気がして……。
何かを待っている自分が居る。
「嫌よ。私は“器”が欲しいんじゃない。母者。私は貴女なんて要らない!」
震える静の切なさ。
弁慶は唇を噛み、次の瞬間、おもむろに自らの胸に手を刺し貫く。
そして、唸る声と共に掴み出す。動く心臓を。
吐血し、それでも強い声色で、
「俺の、心の臓を貴方に。貴方の一部に成れるなら……」
そのまま引き千切り、身体から離れた心臓はそれでも鼓動を続けて、それを静が両手で受け取る。
*
*静side*
鬼若は、静かに眼を瞑り倒れた。
鬼若の潔さ。
貴方の気持ち、無駄にはしない。
主を失っても動く心の臓に口付け。
自分の手首を噛み切ると、滴る血を母者に見せつける。
「貴女の好きな私の“血”よ」
「「ホッ! 良い良い。最後に私の口でそれを貰おう」」
私の血は、甘い毒。
私の想い一つで薬にも毒にも成る。
土に落ちる血が微かに湯気を上げてその場に穴を開ける。
貴女は私を変えた。
人ならざる者。鬼に。
そんな私を有りのまま義経は愛してくれた。
本当はそれだけで十分だった。
あの時、鬼若を探さず私も彼も死んでいれば……
義経の手の平に在る異形の鬼。
さあ、お呑みなさい。
母者の大きく開けた口の中に落とす。
ジュウゥ……
焼ける音と湯気と悲鳴が一度に上がる。
シュルシュル と長い血管が体内から離れ岩場に落ちる。心の臓の異形の鬼が悲鳴を上げて悶え苦しむ。
それを横目にすかさず鬼若の心の臓を義経の胸へ押し込む。白い眼を見開いて動きの止まっていた義経が、大きく息を吸う。
目に見えて、心の臓が血管を繋ぎ義経と同化する。
強い心音が聞こえた。
それは鬼若の声の様で。
振り向くと彼の亡骸。見える顔は満足気で……その躰が白く光り出した。
眩い光が消えると、丸い赤い珠が一面に散らばって、まるで意思を持って居る様に転がり、義経の傷口から入りその傷を閉じた。
*
*道彩side*
力強い心音。
浸透する想い。
霞む意識の中、弁慶が呼ぶ声が聞こえた。
静の温かさを感じた。
大きく息を吸うと、意識がはっきりとして、躰にココロに、弁慶を感じる。
心音は、弁慶が私を呼ぶ声。
私が助けるつもりが助けられた。
「義経」
静の声が弱々しく耳に届く。
視ると、静の肌が、ひび割れていた。
まるで土の様に、ポロポロ と肌が崩れて行く。
「私は、鬼を喰さないと、躰が崩れるの。
鬼若を治癒する為、私は私の生命を削っていた。それを修復するのに一度治癒すると、一人喰べて補っていた。
形を成さないと、生きては行けない。
どの道、鬼若はもう貴方の中に……私は用済み」
力無く膝をつく静。倒れる前に腕に抱き留めた。
「ねぇ? 貴方。私はとても幸せだった。ほんの数年寄り添って、貴方を愛せた。
そして、鬼若。
一緒に居てくれてありがとう……数百年、私は寂しくはなかった。
二人を……愛してる」
伸びた手が、頬に触れた途端、砂になり崩れる。
「静!」
解って居た。
このまま生きて行けない事も。
だが“居なくなる”のは耐えられない。
鬼を選んで転生した。
二人を迎える為に。
「私は、迎えに来たんだ」
崩れ始めた躰を抱きかかえ、その額に額を重ねる。
「共に、永遠を生きよう」
「義……経」静の小さくなった声。
眼が熱く燃える。
見えない眼が ぐるり と回る感覚。
白く発光する静が、淡い光の珠に成り、揺れる。それは魂。
温かい熱を持った魂が、私の胸に飛び込んで来た。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる