鬼に成る者

なぁ恋

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毒鬼

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静の魂が私に交ざり、幸福感に満たされる。
だが、足りない。
弁慶。彼の心臓と血肉は私の一部に。“魂”は、違う場所に行こうとしている。
ダメだ。私は二人が欲しい。
弁慶。お前は私のものだ。


熱く、熱く燃える眼が回転し、熱が頭へ移る。それは額全体を痛い程締め付けた。
私を囲む空気が熱く外へ放出され、開放を求めた意識が、空へ飛ぶ。





*ライside*

熱風が身体を吹き抜けて行き、その中心に立ちすくむ道彩。

「何が起きてるんだ?」
龍太郎さんの不安げな声。“敵”は居なくなった。
心臓に取り憑いた鬼も今の熱風に溶けて消えた。
周りにはすべて解決した様に見えるだろう。
けど、道彩の想う事は違う。
体内から溢れ出る光りが強く輝きを増す。
“能力”の開放。




「すごい……輝いてる。黄金色に」

樹利亜の言葉は大袈裟じゃない。

「道彩の魂の色」

ボクの呟きに皆が問い掛ける視線を寄越す。

「まほろばが、以前に話してくれた魂を統べる鬼。ボクは“銀の鬼”……」

ボクが待って居たのは、これだと解る。

「そして、道彩は―――」

光りが温かく皆を包む。それは徐々に消えて行き、その光りの先に現われたのは、

「金の鬼」

ボクと対に成る鬼。

ボクと同等の金色の長髪。額に見えるは二つの角。

彼は静かにそこに佇んで居た。
瞼を閉じて、何かを待っているみたいに。
静寂に包まれた洞窟は、澄んだ風が吹き抜けて行く。
 



  
*道彩side*

気がつけば、ただ暗い空間に居た。

『弁慶!』
想い人を呼ぶと、揺れる白い珠が目の前に現われる。

『牛若丸』

弁慶。彼の魂は熱く柔らかい。
『私と共に行こう』

『俺の魂は汚れている』
揺れる弁慶が答える懺悔。
『何百何千もの犠牲の上に生きて来た。何よりも静を苦しめた』

魂が姿を成す。
弁慶の姿、美しいその角も見える。

『罪を償う為に“無”に返るのが妥当だ』

苦痛に歪む顔。
そっと顔に触れる。

『本当の罪人は私だ』


逸らした顔をこちらに向けさせ、視線を合わせる。
『ならば、私も共に無に返ろう』
『それは……ダメだ』
『どちらかだ。私の中で生きるか……共に無に返るか』

合わさった視線のその眼が微かに笑う。

『お前は意見を変えない。自分の意思は貫く。そう言う男だ』
『だから転生し、鬼に成った』

『フッ……フフ』
声を上げて笑う。
弁慶の笑顔。
『お前の中に俺は大人しく眠って居よう』

愛しい弁慶。
その姿が再び揺らぐ光りの珠に成り、私の頭上で光り、本体の待つ現世に戻る。
弁慶と共に、私も、私の躰に向かう。



私の姿。その姿に驚く。眼を瞑り、立ち尽くす金の長い髪と額に在る二本の角。

『さぁ、俺を迎え入れてくれ』

後ろに居る弁慶の声に頷き、我が身に手を伸ばすと溶け込む。
確かに自分の躰と確認し、その器に入る。

「弁慶」

今一度呼ぶと、魂が私の胸に飛び込んで来て、溶ける。

温かく満たされて行く我が魂。

静も弁慶も、私のもの。
  




*ライside*

道彩の足元から風が起こる。
長い金髪が宙になびき、瞼が動くと眼が開いた。

白に近い金に輝く瞳。
無かった“眼球”が出来た。

小さく息を吐いた道彩が、こちらを見る。

「ライ……? その姿は?」

「それは道彩も」

目を細めた彼の視線。

「見える?」
言って自分の手を眺める。

「あぁ、この姿も然り。私は、何だ?」
小さく笑んで、嬉しそうに自身を抱く。

「何であれ、想いは遂げた」

その“想い”は柔らかく温かい。

自然と近付き、彼に触れる。
痺れる感覚を覚え、すぐ離す。

「何が起きた?」
道彩も感じた様で、
「ボクにも解らない」
解らない。
けれど、
もう一度触れる。手を重ね握り合う。

「この感覚は―――」

風が、大地から吹き上がる。

上下が解らなくなり、浮遊間と“足元”が無くなる感覚。


「ダメだ!」
互いに手を放して驚いた。
離したと言うより、まほろばと龍太郎さんが引き離した。


「驚いた」
龍太郎さんが道彩を抱き留め唸る。

「地獄が、口を開けた」
まほろばがボクの後ろで言う。
地獄?

「それは故郷?」
今は場所さえ判らないとされた、生まれ故郷。





*まほろばside*

二人が手を取ると風が起きた。大地から吹いて来た風。有り得ない。

見る見る光り輝く二人は宙に浮く。

浮いた足元に穴が開き、そこから吹き抜ける風が、懐かしさを呼び起こす。

この匂い。
この懐かしさ。

故郷の匂い。

地獄の入口。


ダメだ!
そこへ、帰るつもりはない。

「龍太郎!」
呼ぶと頷き。
眩しい光へ手を伸ばす。互いに相手を掴むと引き離す。

金と銀の鬼は、故郷の入口への“鍵”なのか!

そして、この場所が入口。

無意識に、その場所をねぐらにしていたのか。
 
 
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