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毒鬼
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しおりを挟む“地獄”
思い出すのは暗い空。
岩の並ぶ大地。
そこに棲む“鬼”の姿。その存在を微かに感じる。
ざわり と、鳥肌が立つ。
故郷の風に触れて、躰が反応する。
鬼の本性が顔を覗かせる。
「まほろば」
ライ。俺の鬼気は、ライに呼ばれるだけで落ち着いた。
「大丈夫だ」
寄り添うライの銀の髪が、俺に絡んで誘う。
ゆっくりと頬を撫で唇を重ねた。
「ん……」嫌がる素振り。
「皆が見てる」小さく呟き、頬を染め離れるライ。
あぁ、躰の興奮が先立って忘れていた。
小さく咳込んだ元気が、「帰るか?」と皆を見回す。
「そうですね。この場所には、余り居たくはない」
道彩の言葉は最もだ。
「早く離れよう」
立ち上がると、ライを腕に抱き跳ぶ。
「まほろば……」
ライの声は甘く俺を溶かす。
「ライ。お前は俺のすべてだ」
満面の笑みを浮かべたライが、俺の首に顔を埋める。
空は暗く、小さな月が笑っている様な弧を描いている。
「人目のない場所でなら……何をしても構わないよ」
柔らかい声が誘惑の言葉を吐く。
後ろ髪が逆立つ感覚。
“オス”が目を覚ます。
「あ?!」ライの小さな悲鳴を呑み込む様に唇を重ね、抱き包み落下する。
バキバキ と樹々を倒し地面に落ちた。
背に土の冷たさを感じる。だが、上に在るライの温かみが、俺を燃やす。
「無茶をする」
言いながらも極上の笑みを浮かべたライが、身をかがめ口付けて来た。
もう、止まらない。
「んあぁッ……まほろばッ! ボクは、まほろばとなら―――」
ライとなら、どこまでも行ける。
*
*元気side*
「あの二人、すぐに帰って来るかしら?」
樹利亜の呟きに苦笑する。
「どうかなぁ?」
車を運転している龍太郎が含み笑う。
「あの二人は恋人同士でしたか」
姿の戻った道彩が小さく笑う。
その瞳は、薄い金色。
「道彩は、見える様になったのか?」
「はっきりと、両眼で見えます」
「“金の鬼”に成ったから?」
「そうですね。どうも元の眼は、この角だったみたいですね」
指差す額の二つ角。
角が生えた事で眼が現れた?
「不思議だな。道彩も角が生えたか。しかもあの義経の生まれ変わりとは」
龍太郎の言葉に、
「道彩ですよ。義経の想いは遂げましたから、“三人”は溶けて一つに成った」
そう言った道彩の笑顔が何だか切なく見えた。
「満足して居ますよ」
十分にね。と、俺を見ると、
「これで心置きなく旅立てそうです」
謎めいた言葉。
「詳細は、市松に戻ってから話します」
益々気になる。視線を合わせた道彩が、
「手取り足取りお教えしましょうか?」
!!
「いえ。すみません。大人しくしています」
「ハッ! アハハ! 道彩。そんな冗談が言えたのか?」
龍太郎が笑って、黙る。道彩が静かに口を開く。
「至って本気ですよ」
道彩の柔らかい笑みが何だか怖い。
ウ~…
サイレンの音に窓の外を見るとパトカーが。トランクの穴を見留めて声を掛けて来たのだった。
やっぱり俺、道彩苦手だ。
想いを読んだのか、道彩が口端を上げてほほ笑んだ。
優しいんだか意地悪なんだか。俺がただ遊ばれてるだけなのかな。まぁ、嫌ではないけどさ。
「ね、元気。今度また、あそこへ行きましょうよ。二人で」
「故郷へ? そうだな。“里”が在った場所。気になるもんな」
樹利亜の手をとって約束する。
“地獄の入口”も興味深い。
謎は、多い程面白い。
*
*ライside*
空は明けて冷たい風を温かい太陽が中和する。
鬼は、暑さや寒さ、そう言った体感を無視出来る構造をしている。けど、感じたいと思えば、案外簡単に体感出来る。
まぐわった後は、特に敏感に感じやすくて身体が震えた。
「寒いか?」
「少し」
まほろばが抱き寄せてその体温を分けてくれる。
「戻ったな」
ボクの青い短髪を撫でたまほろばが満足げに溜め息を吐くと。
「銀の鬼は、良かったろう?」
その言葉に頬が赤らむのを感じながら、
「オヤジくさい言い方。でも、まぁ……」
言葉を濁すと、目で笑ったまほろばが、
「愛してるよ」と言った。
ココロを温かくさせる言葉。
黙ってキスをする。返ってくる唇に自然と笑顔になって、嬉しくて幸せで……顔を離し彼の頬を撫でる。
愛こそすべて。
それが原点。
「愛してるよ。まほろば」
ボクのすべてが彼を欲してならない。
まほろばがボクを必要としてくれている様に。それ以上に、ボクは彼が必要で。
「道彩はスゴいね。愛を貫いた」
ボクは、まほろばが見つけてくれた。
道彩みたいに待ち続けてくれた。だからこうして再会出来た。
「ライだから、探したんだ。ライだから待って居られた。
お前以外なら、待つ事もしなかったろう」
交差する記憶。
まほろばと出逢った。それは“最初”の記憶。
生まれ出て、視線を感じた。
それは同じ時刻この世に生を受けて、同時に大切な“何か”を見つけた。
視線は、赤髪の鬼の子。
俺は見つめ返した。その金の瞳を。
見つめ合った俺達は、互いに見つけたんだ。
初めから“運命”だった。
こうして二人で居る事が当然で、愛し合う事も解ってた。
「まほろばは、ボクの魂の片割れなんだよ。二人で完璧」
「二度と離れる事は無いだろう」
幸せに緩む顔。
風が樹々を撫で、森に、山に生命の目覚めを感じる。
このまま二人で生きて行けたなら、それだけで生きる価値がある。
「愛してる」
「愛してるよ」
共にどこまでも歩いて行こう。
………………………
****
地獄の入口が開いた。
それは一瞬の事。
だが、その気配は外に流れ、静かに、緩やかに、空気に混ざる。
何も変わらない様に見えた。
実際には何も変わっていないのかも知れない。
たが、地獄と地上の世界は、似ても似つかない異世界なのだ。
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