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夢乱鬼
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しおりを挟む古い洋館は森林と溶け込んで違和感なくたたずんで居た。
車はその玄関先に停められ、車外に出ると、白い息が寒さを感じさせた。
茶色の太いドアが開き、白と黒のメイド服を着たふくよかな女性が出て来た。一礼し、ゆっくりと口を開いた。
「華子様がお待ちです」
月頭 華子この地の角が有る最後の鬼。
メイドの後から室内へ入ると、立派なシャンデリアが目に入る。それに隠れる様に二階に続く階段があった。
そこから赤い靴先が覗く。ふわりとした丸みを帯びたピンクのスカート、腰まである柔らかな金髪が現れ、シャンデリアに反射された陽の光りがそのまま彼女の髪を輝かせ、ほんのりと色付いた頬が幼げな顔付きを一層幼く見せていた。
頭上には大きな赤いリボンが揺れている。
深い、空の色をした瞳がこちらを見た。
夢に視た少女だ。
「初めまして。貴方が市松から来られた鬼?」
階段を下りきった華子が、目の前で止まる。
無言のまま私に近付き、右手を胸に置き、背伸びをする。そうやってサングラスを手にして、ゆっくりと外された。
両目を瞑り、次に静かに瞼を開ける。
近くで見る華子は少女の様に見えて、それでいて女の色香も兼ね備えて居た。
「綺麗な瞳ね。眼球は白一色に見えて、薄い金の瞳をしている」
空色の瞳が額に視線を移し、
「二つ角。完璧な鬼ね」
だがその可愛らしい顔をしかめて、
「何故? 私の子どもを殺した者の気配を貴方から感じるのか?」
ここの鬼達は、静と弁慶が殺した。
静と弁慶は私に溶け込んだ。それが判るとは、流石と言うしかない。
今回の養子話は華子が提案した事。
市松の誰かをと、言われたが私が来る事が最適だと思った。
「子ども? 貴女は何歳なのですか?」
「女性に歳を訊くのは失礼だ。だが答えよう。私は見た目よりも遥かに長く生きている」
「100歳を廻った私よりも?」
「貴方の父親程に」
可愛い笑みを浮かべて、だが、口調は強く。
「質問に答えて下さい」真っ直ぐにこちらを見る瞳に溜め息が出る。誤魔化されませんか。
「あの者達は私が前世愛した者。簡単に言えば私の魂と一体と成った」
「もっと簡単に言うなら退治した。と言う事ですよ」
虎之介が落ち着いた声で言った。
「貴方は?」
「道彩の弟で虎之介って言います」
華子は名乗った虎之介を横目で見て、
「それならば、良いでしょう」
私から離れ、虎之介の側に行き顔を覗き込む。
「能力者ね?」
訊かれた虎之介がにこりと笑い消える。
「瞬間移動。かなり強い能力をお持ちね」
現われる場所を知っている様に横を見ると、虎之介が現れた。
「びっくり。僕が出る場所判るの?」
「ふふ……可愛らしい方ね。貴方なら学園に歓迎するわ」
それを聞いた虎之介が目を丸くする。
「学園って……学校に?」
「全寮制の、殆どが能力者の集まり。
“悪鬼”予備軍の学校なのだけど、ちゃんと教育もしているのよ」
「悪鬼予備軍?」
その意味は?
「鬼の血を持つ者を集めているのよ。さらに言えば、悪鬼に成りそうな者を中心にね」
「それは……未然に防ぐ為に?」
「結構効果あるのよ」
確かに、余計な鬼退治をしなくてすむ。
「この学園出身者で能力者が教師をしているの。どんなやんちゃな子でも大人しくさせる事が出来る」
ほほ笑んだ華子は踵を返し、先に出て来たメイドを指すと、
「美苗に部屋へ案内して貰って。夕食の時に皆を紹介します」
来た道を戻る様に二階へ上がる華子が、軽くこちらに視線を向ける。
「道彩。心変わりは認めませんから」
釘を指す言葉。
「私は変化を楽しんでいますから。ご心配なさらず」
口箸を上げて笑った華子は、静かに二階へ姿を消した。
「学校。かぁ」
虎之介が呟いた。
「行きたいのか?」
「うん。興味はあるかな」
学園。
未成年の悪鬼予備軍の集まり。どんな教育をして悪鬼に成るのを防いでいるのか?
案内された大きな部屋のそれに見合う大きなベッドに座った虎之介が立ち上がり、
「まるで合宿に来てるみたいだ」
はしゃぐ虎之介が決心した様に言った。
「一ヶ月。行ってみようかな!」
「お前よりも二回り以上年下の中に入って大丈夫か?」
「僕が40歳に見える?」
頭から足先まで見て、
「ふむ。確かに。16歳くらいにしか見えないな」
楽しげな虎之介は満面の笑みを浮かべ、
「大輝に会って来る」
言うが早いかその姿を消した。
「気を付けてな」
「一応、夕食時には帰って来るから」
一瞬戻ってまた消えた。
「忙しない奴だ」
あてがわれた一階の個室の窓から見える庭は市松と違って一言で言えば洋風。
綺麗に整えられている。
背後に気配を感じて、振り返る。
「義経」
静御前。
幻じゃなく、生身の静が目の前に立って居た。
「やめろ」
生身で、姿形が同じでも、彼女じゃない。
「義経? 私が嫌い?」
強く嫌悪と怒りが吹き出す。
無言で手を伸ばすと笑う静が遠のく。
静の生身は虚像? 虚像では無いが、それを見せている気配は、ドア外から感じられた。
この茶番が歓迎だと言うのなら、遠慮なく受け取るのが礼儀。
首を傾げて深く息を吸い、一気に静の背後に回る。
「覚悟は出来ているな?」
細い首を掴むと軽く力を入れる。
「グェェ。」の太い声が苦しげに唸る。構わず掴んだまま宙に持ち上げる。
静の姿は霞みと消え、信月弟が現れた。
依然苦しげに唸り足をばたつかせる。
「すみません! 離してやって下さい!」
ドアを蹴破る様に兄が慌てて室内へ入って土下座した。
それを睨みつけ、
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