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夢乱鬼
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しおりを挟むココロの内に渦巻く怒り。床に額を擦りつけ謝る兄に訊く。
「何を思ってこの様な事をした?」
「……それは。」
青ざめた末将の脳裏に浮かぶは華子の姿。なる程。
「“華子”はお前の特別か?」
掴んだ手を緩め、そのまま下に落とすと、苦しい息遣いで丸く膝をつく。
「伸将!」
弟を利用した兄。心配なのは本心だろう。
「ケンカをしに来た訳ではないし、私があの女性の相手と決まった訳ではないだろう?」
燻る怒りを抑えて末将を見る。
「あの姿を見ただろう?」
少女の姿?
「あの方は相手に合わせて姿を変える。私には若過ぎる」
肩を貸し弟を立たせると、背を向ける。
「私にも若過ぎると思うが?」
「あんたは“鬼”だ。それだけで決まった様なものだ」
末将は背を向けたまま「すまなかった」と、言葉を残し部屋を出た。
「鬼だから? だが、私は彼女の子どもの敵を身に宿して居る」
独りごち、また外を見る。
子どもを亡くす辛さは私も痛い程解っている。
この手で殺しもした。
そう言う時代だったと言い訳も出来るが、事実は消せない。
正直、子を成す事が怖い。亡くす辛さを知っているから。
解っていたが先へ進む為にここへ来た。
一度過去へ戻った事でこれからの進む道が見えなくなっていたから……“から”は“空”空しさを埋める何かを求めて。
ココロの内は自分にしか解らない。ココロが読めても反対に読まれたとしても、解ったつもりにはなれない。
だから今回は信月兄弟を許そう。
二度目は……許しはしないがな。
雪がちらつき始めた。山間に沈む夕陽が綺麗に山を染める。
同じものを皆見ている。
時代を越えて、今現在も。変わらないものも確かに在る。
美苗が呼びに来た。
「皆様が揃いましたので、虎之介様は?」
「すぐに来るだろう」
テレパシーを送る。
返事は無くとも届いているだろう。
背の高い廊下を進む。幾つもある扉はそれぞれ色違いで違和感を感じる。
廊下の突き当たりの深紅の扉を美苗が開けると、長いテーブルに白いクロス、上に銀の蝋燭立てに三つの蝋燭が炎を揺らしていて、それが三つ間を開けて置かれており、その間に洋食が並んで居た。
真ん中の豪華なイスに華子が座り、左右に五名ずつ男女が別れて座って居た。左は男、右が女。と言う具合に。
華子のサイド左右のイスが空席で、左側の席を引いた執事らしき初老の男が会釈する。
こちら側が私の席か。
「僕は女の子側?」背後に現れた虎之介が面白そうに訊く。
執事は右席を引いて待って居た。
素早いな。
席に着くと、華子が立つ。
「紹介しましょう。我、月頭の一員になった、道彩。二つ角を持つ鬼です。」
私に視線が集まる。
「そして彼の弟、虎之介。能力者です」
そして月頭側の紹介に移る。男性手前側から、
金月 道重。 英語教師。
月乃江 咲夜。 国語教師。
万頭 実。 社会歴史教師。
そして、信月兄弟は警備を担当。
女性側、
一之瀬 沙弓。 保健医。
夕月 奈留。 理科教師。
夕月 奈由良。 数学教師。
二人は姉妹。
堤 洋子と、月元 静。二人は給食の担当。
初老の執事は、月と言った。
月にまつわる名前が多い。
紹介し終わり、ようやく食事が始まる。
ゆったりと座した華子がこちらを向く。
「ウチの者が迷惑をかけたみたいで申し訳ありませんでした」
自ら告白したのか? 違うな。解るのか。
「この屋敷の事はすべてお見通しですか? 歓迎されたと受け取りました」
頷いた華子が、フォークを取る。
「貴方は、鬼に成り立てですか?」
ステーキを含みながら訊いて来る。
「何でも解るのですね?」
「長く生きて居ますから」とほほ笑んだ。
「正直に答えましょう。鬼に成ったのはつい最近です。年齢は、100歳程ですが」
「100歳! 見えませんね。と言うのも変ですか?」
夕月 奈留が高い声で言った。
「奈留。失礼ですよ」
奈由良が諭す様に言う。こちらが姉か。
「良いですよ。貴女方も能力者ですね?」
「皆そうですよ。自己紹介して下さい」華子が促すと、押し黙っていた皆が順に話し出す。
静かな優男金月はあらゆる言語を理解する力。それは動物も含まれる。
男にしては小さい月乃江。強い言霊を持つ。
万頭。ゴツい体格の厳つい顔、体育も兼任している。能力は束縛。金縛りで動けなく出来る。
信月兄は人の心深くを探る。弟は写し身、あらゆる人物を真似る力。
一之瀬は物静かな大和撫子風の女性で、心を落ち着かせ癒す事が出来る。
夕月姉妹。賑やかでおしゃべりな妹の奈留は、物を変化させる力。
控え目な姉の奈由良は数式を理解し読み解く。
堤はメガネをかけひょろりと背が高く細い外見と、女性に対して失礼だが貧相な容姿。彼女の手掛ける料理はどんな材料からでも豪華に絶品に作り上げる。屋敷の料理も担当。
月元は堤と正反対でふくよかで小さい可愛らしい印象。野菜を育てる才があり、一日で育て上げる事も出来る。これは自然のものに対して有効。樹々や花々も彼女の手にかかると何でも芽吹き成長する。ここの庭も彼女作。
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