152 / 210
夢乱鬼
7
しおりを挟む静かに会話と食事が終わる。
月は実に有能な執事で、彼の能力は“分身”何人にもなり、それぞれがそつ無く幾つもの仕事をこなす。
これは、素晴らしい。
「さて、貴方の相手は男性以外なら誰を選ぼうが自由です」
こしゃくな言い方。
「華子様、心配ご無用。戯れる事は嫌いではありませんが、ちゃんと異性も愛せますから」
小さく笑った華子が「判りました」手を振って解散と皆を立たせた。
相手を選ぶ。ね。
“鬼”を作る為、この能力者の中から探す公開お見合いだったと言う訳か。
はにかんだ笑顔を浮かべた奈留がこちらを見る。
華子が楽しげに踵を返し「いつでも貴方の思う通りに」そして部屋を出た。
男女が別々に固まって話しながら部屋を出る。
これは、小さな火種の様に感じる。
「大丈夫?」
虎之介の気遣う言葉。
「何も問題ない」そっと頬を撫でると、ほほ笑んだ。
「大輝から許可貰ったから。やっぱり一年間だけって約束なんだけど。入学しても良いかな?」
「家主がそう言ったのだから問題ないだろう」
「夜は帰るけどね。だから……兄さんの部屋を使わせてね?」
兄と呼ばれて嬉しくなる。
「あの部屋は一人では広過ぎる。二人で丁度良いだろう」
「ありがとう!」
「楽しんだら良い。だが普通の学校とは違うから用心する事だ」
「ふふ……僕は天狗と呼ばれてたんだよ。ちょっとやそっとじゃめげないよ」
小柄な虎之介。だが、その中身は名前と同じ虎が潜んでいた。
****
*?side*
柔らかい黄金の短髪。滑らかな肌……確かに彼だった。
変わらない綺麗な躰。
「……朔。愛してる」
斑に光る緑と青の瞳が空ろに開き、唇に触れると綺麗な顔でほほ笑んだ。
「朔……私の名前を呼んで?」
彼はただほほ笑んで、私を見つめる。
それだけ。変わらない見姿。朔、朔。
愛してた。愛してる。
今も愛してる。
彼しか要らない。
彼だけが欲しい。
帰って来て。朔。
涙が出る。
涸れたと思って居た涙は毎夜流れる。
朔の横に寝そべり溜め息を吐く。触れる温かい肢体に安堵する。
朔は生きて居る。
朔は生きてる。
涙が止まらない。
「ねぇ? 朔。名前を呼んで……」
ただほほ笑んで傍らに同じ様に寝そべった朔。
神様。願わくば、彼を返して下さい。
その為なら何でもします。
神様が出来ないなら、悪魔でもいい。
彼を取り戻せるなら、何でもする。
「おやすみ。朔」
布団をかけてやると、静かに目を閉じた。
今の彼に出来る事は、無意味に生きて居る事。
眠り、食し、動く。
最低限生きる為に必要な事。
それでも良い。
私は朔を離すつもりはない。
居なくなった彼を写真を介して嘆き哀しむよりも、魂が無くても、触れられる温かい身体が在る方が良い。
“躰”を造れたのだから、“魂”だって戻せる筈。
まどろみの中に入り始めた時、呼ばれた気がした。
朔が、私の名前を呼んだ気がした。
深く深い眠りに着くと、彼にたどり着いた気がして「愛してる」と呟いた。
*
*道彩side*
次の朝、華子に呼び出される。
「おはよう。早くからすみません」
「いいえ。おはようございます」
「ここでの貴方の仕事を説明します。」
大きな机を隔てて、身体と不釣り合いな背の高い深く柔らかい椅子に座った華子。
洋人形の様な姿と言葉のギャップに戸惑う。
「……私の事は気になさらず。話しに集中して下さい」
ココロを読まれていた。口は開かず頷くと、解ったと頷き返した華子が、
「貴方には学園長をお願いします。
今まで私がしていましたが、若返った事で生徒の前に立つ事が出来ません。貴方は私の甥と名乗り、学園をまとめて下さい。」
「それは……やり甲斐がありそうですね」
本心から面白そうだと思った。
「私はサポートに回ります。目立たぬ様に、もう隠居しても良い歳ですから」
フッと、小さくほほ笑んで溜め息を吐く。
『あの子達が居たら……』
溜め息と共に聞こえて来た思い。犠牲になったのは華子の子ども達。と言った。
華子がこちらを見て、諦めた様に口を開く。
「三人。居ました。
朔、上弦、下弦。三つ子の息子。
息子達は初めて角の有る鬼として生まれました。
私は愛する者をじっくり選び、子を持つ。その者が一生を終えるまで共に歳をとり死水を取る。
その繰り返し」
立ち上がり、考え深げに顔を背け「もう沢山!」吐き捨てると、
「今回の不幸な出来事で私は嫌になったのです。“愛する事”に。愛した者はいつも先に逝く……貴方に思う事は多々ありますが、私は“使命”を投げ出す事も出来ない」
背を向けた華子は一呼吸起き、
「悪鬼は野放しに出来ない。それは痛い程分かるから、貴方が必要なのです」
それが“敵”を身に宿す者でも。
“鬼”が必要。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる