鬼に成る者

なぁ恋

文字の大きさ
153 / 210
夢乱鬼

しおりを挟む
 
「まさか私の様な者が来るとは思わなかったのでしょうね?」

黙って目を伏せた華子が静かな声で答える。
「ただ角が有る者を寄越せと言ったのは私」

「そしてこちらに来れる鬼は私だけでしたから」

「虎之介の言う通り、どんな形であれ、退治した事に変わりありませんから……十二分に満足しています。さて、要らぬ事を話してしまいましたね。忘れて下さい。
週明けの月曜日、全校朝礼で貴方の就任式を執り行います。それから虎之介の入学も許可しましょう」

「ありがとうございます」
会釈し、もう一度華子を正面から見ると、明らかに不快な顔をしていた。

「鬼同士とは、何と不快な関係でしょう。近くに居ると、どうしても意識しなければ感情を読み取ってしまう。
貴方は私の。私は貴方の……私は、子どもと繋がっていた。」
流れ来る悲痛な想い。

「目の前に居ないのに、死んで逝くのが分かる。この気持ちは理解出来ないでしょう?」
空色の瞳が濃い青色に成り、

「私の子ども達は死んだ! 
それは揺るぎない事実。貴方が近くに居ると不快になる。申し訳ありませんが出来るだけ貴方と係わるのは避けたい」
彼女の痛みがココロに刺さる。

「貴方はこの土地の護りをして下さればそれで結構」
手渡される資料の束。

「月を一人、私と貴方の間に置きます。それで事足りるでしょう」
きっぱりと言い切って、静かに背を向けた。
後は私を完全に締め出した。

「また、何かあれば教えて下さい」
「月がすべての指示を出すでしょう」

長い黄金の髪が揺れる。もう振り向くつもりもないらしい。
何故か寂しい気持ちになった。

「失礼します」
踵を返し扉を閉める。
この扉はもう二度と私の為には開かない気がした。
 
* 
  
*華子side*

扉の閉まる音に安堵する。

子を亡くす絶望感を味わうのはもういい。
三つ子より前の子どもらは皆“角”を持たなかった。“人間”に近い超能力者が数人。
今回初めて三人まとめての角持ちの鬼が生まれ、皆喜んだ。
そして、今までで一番繋がるココロを感じた。
小さな息子達はとても素直で素敵に育った。
適齢期にそれぞれに相手も出来た。

後は、どの子を跡目にするか決めるだけ。

そんな時の襲撃。
息子達は死んだ。

死んだ。
痛みと、絶望感と、哀しみ。
生きたいと強く願う気持ちまで私に届いた。
そのすべてが聞こえなくなって、息子達は死んだと解り、身体中から力が抜けた。

“無”が私を支配した。

夫はすでに他界していて、一緒に哀しむ者は居なかった。

息子の相手に毅然と伝えると、責められた。

何故行かせたのか? と。

それは私が一番後悔して居る事で、限界だった。

母たる姿を放棄する事でココロのバランスを取った。

12歳程の少女の姿に成ると、母性が抑えられた。
哀しみを封じられた。


息子達が死んでからも平穏に時間は過ぎ行く。
彼女達も、普通の生活に戻った様に見えた。
女性は強い。彼女達の姿を見て、そう思う事で、これから進む道を考える余裕も出来て、そんな時に市松から、悪鬼を退治したと連絡が来た。

あちらには多数の角持ちの鬼が居る事を手紙を介して分かったので、一人をこちらに欲しいと願い出た。
案外とすんなり返事が来て、道彩が現れた。

彼から感じる悪鬼の気配。身震いした。
身の内に、奴等の魂を取り込んでいた。
しかも、奴等を“愛する者”と表現したのだ。

ココロが壊れるかと思った。
目の前に居るのは救世主どころか、悪鬼の魂を救った男。

虎之介の機転でココロを切り替える事が出来たが……だが、辛い。
最初よりは奴等の匂いはしなくなったが、道彩の中には紛れもなく奴等が居る。
  
「月」

「はい。華子様」
長い間傍に居る。私の息子。
「二人で居る時は母と呼んでおくれ」

小さく笑った月が、
「私の孫と言っても良いくらいの姿をしている方を“母”と呼ぶのは気が引けますな」

「お願い」懇願すると、困った方だと笑った月が、それでも「母さん」と呼んでくれて、涙が出そうになる。
月に寄り掛かると、しっかりと支えてくれた。

「道彩を、助けて上げてね。彼が悪い訳じゃないと、理性では解ってる。でも。ココロは着いて行かない」
「ええ。母さんにはまだ休養が必要です。何も心配なさらず、私に任せて下さい」

力強い言葉に安堵して、急に眠気が襲って来る。
最近は眠れない日が続いたと思ったら、急にまとめて何日かの眠りが訪れる。

「安心して眠って下さい」

月の腕に抱かれて優しく揺られながらベッドに運ばれる。
柔らかい枕に頭を深く擦りつけると、深い眠りに入る。
まどろみの中、道彩が来るまでに見た夢を思い出す。
彼を見て、私は何か言った様な気がする。

それもまた、眠りに落ちる事で忘れて行った。





*月side*

眠りに落ちる母さんの頭を撫でる。
愛しさが胸を一杯にする。このいつまでも若く生きる母を置いて私もいずれは死に逝くのだ。

頭に掲げる大きなリボンを解くと、美しい白い一本角が現れた。
そこに口付けると、哀しみが押し寄せる。

朔、上弦、下弦が母の支えになり、同じ永くを生きるのだと彼らが生まれた時は心底嬉しくて、安堵したものだ。

母は孤独と闘っている。
道彩を見た時、母を救える者がやっと現れた気がした。
これは今も揺るぎない確信として、道彩を信じる気持ちが育っている。

母は、そろそろ限界に来ているのだ。
救ってやって欲しいと、切に思いながら、布団を掛けてやる。

小さな寝息を立てて、母は子どもの様に眠りに着いた。
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...