鬼に成る者

なぁ恋

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夢乱鬼

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「貴方が完全になるにはこの男が必要?」
一之瀬の問い掛けに理解出来て居るのか?
首を傾げて私に近付いて来た。

「かげんっ!」
母の声に一度見てまたこちらを見る。
私の手を取りその傷痕を見て笑う。それは毒々しく美しい笑顔。
手の平に唇を寄せて、歯を立てる。封じは破られ、血が流れ出た。
むしゃぶりつく様に血を舐め取る下弦の、見開いた眼が朱色に染まる。

触れた箇所から流れ来る下弦の内面。

肉体に刻まれた下弦で在った記憶はほんの少しで、魂の宿らない肉体は朱色の鬼の血が巡って居た。
生きる本能。
純粋で、獣。

元は小さな骨の欠片。
それを探させたのか、あの生徒に。利用し、記憶と朱色の血珠を抜いた。

骨の欠片から奈留が作り出した躰。それを癒し生かす一之瀬。
言霊で今までの記憶を植え付け、互いの恋人だけを確かな存在に仕立て上げた月乃江。

あぁ、でもこの気持ちは解る。


吸い取られる血潮。
意識が現実に戻ると、いつの間にか、恐らく朔と上弦だろう。金髪が三人になって居た。

「信月兄弟から訊いたわ。貴方が、貴方の愛した者が下弦達を殺した」
はらはらと涙を零す一之瀬の言葉に、その通りだから瞬きをして頭を下げた。
両手を掴まれそこから流れる生命。
それも良いかとも思った……が、下弦の眼が、朔と上弦も私の血を取る程に眼が朱色に、赤く変わる。

魂の無い獣の器が“朱色の鬼”に変化する兆候。
彼らは純粋な鬼だ。
ココロの宿る魂はそこには無い。

一之瀬の想う下弦とは、似ても似つかない。

だが、戻してやれるならそれをしてやるのが私の努めだと、罪滅ぼしだと思う。
  




*沙弓side*
 
「もう止めないとやばくないか?」
咲夜の言葉にハッとする。
奈留より自制出来てなかったのは私。

「万頭先生。三人を自由にして」
彼は私達の哀しみに共感してくれた。
彼だけじゃなく、一緒に暮らす仲間全員が私達に協力してくれた。

「下弦。止めなさい」
肩を揺らすも道彩から離れない。
「朔!」
「上弦!」
彼らも動かない。道彩を捉えてひたすらその血を呑んで居る。

「貴女達は、悪鬼を作った。」
華子様の言葉に驚く。

「何をおっしゃるのですか?!」
愛しい人は完璧に再生した。

「いいえ。しっかりと見なさい。彼らに“魂”は無い」
言われるままに、下弦をちゃんと見る。
前と変わらない美しい姿。

「下弦?」
身体を起こした彼がゆっくりとこちらを見る。

「―――何?!」
口端から流れる血液。空ろな瞳は赤く光っている。

「あの目は、悪鬼の証。」

嘘よ。嘘!!
下弦。私の愛しい人。

美しい兄弟もそれぞれに恋人を見遣る。
その瞳も赤い。

道彩は床に倒され動かない。

「下弦!!」
必死に呼ぶ。
眉根を寄せた彼が、私に近付いて来た。

身体が震える。
彼の雰囲気が冷ややかで……恐ろしい。

信じられない。彼が怖いなんて。
下弦が私の頬を手の甲で撫でる。
私を見つめるその赤い眼は光って居た。

次に、感じたのは痛み。胸元が痛い。
痛みの先を見ると、胸に、深紅の染。

「キャアァ―――!!」
奈留の叫ぶ声が耳に聞こえる。
でもどこかくぐもっていて現実味がない。

痛みは、身体を固まらせ、ゆっくりと倒れた。
月が優しく受け留めてくれて……。

皆、何か叫んでる。

下弦。
私の瞳には彼しか見えず、彼は満面の笑みで私を見て居た。
  
彼と出逢ったのは月城学園に入学した日。
暖かい風が私の髪をフワリと運んだ先に彼が居た。陽の光りに輝く金髪に、一目でココロ惹かれた。
振り向いたその紫の瞳にもう目が離せなかった。


私の愛した紫の瞳が、今は赤く薄ら笑う。



「危ない!」
奈由良の叫びに奈留が悲鳴を上げる。
彼女に飛び掛かる朔の背中が目に映る。

それが目端から消えた。

「何なんだよ!」
虎之介。彼がテレポートで奈留を救った。

上弦は万頭が束縛して居たが、パンッ! と破裂した音と共に自由になり、赤い眼は月乃江を捕らえて居た。

間に合わない。そう感じる。
胸が熱い…涙が頬を伝う。
下弦……。貴方は下弦じゃないの?
涙に霞む視界が、私は死ぬんじゃないかと思わせた。
お腹を押さえる。
赤ちゃん。下弦が死んでから妊娠が分かった。
私が死んだら、この子はどうなるの?
この子だけは救いたい。
私はいいから、この子だけは!

頭の奥、深い場所でキーン と鳴り響く金属音。

「あっ!」
お腹が蠢いた気がした。

「沙弓さん!」
月が私の名前を呼ぶ。
でもその声はどこか遠い場所から聞こえる様で現実味がなく。
次の瞬間には、胸の痛みも消えて居た。

お腹が、熱くて。そこからの熱が躰を取り囲む。

「「―――下弦」」
愛しい人の名前を呼ぶ。私の声は滲んでいて、まるで私じゃない様な感覚。

辛くて、切なくて、
私の意識は眠る様に途絶えて行った。

丸く、足を抱えて何も無い空間へ落ちて行った。
 
 
 
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