鬼に成る者

なぁ恋

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夢乱鬼

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「沙弓を、助けないと!」
落ち着かない下弦が拳を握る。

「すでに助けに向かって居ますが、何か起こった様です。私達も向かいましょう!」
言葉を合図に三兄弟が、飛び込む。
私の手を掴んだ華子が唇を震わせて何か言いたげで……。
「護りますよ」堪らず震える唇に唇を重ね、約束を残し地下へ向かう。
 


崩れた地盤に瓦礫と大小の岩が転がる洞窟前。
ここが地獄の入口。三兄弟がそこから中を覗いて居た。
実際は強い邪悪な鬼気に足が竦んで動けないのだ。

「悪鬼の気配?」
探ると、沙弓のものとは違う鬼気。
それに、主様、まほろばの鬼気が悪鬼と混じって居た。―――悪い方向に。
そして、ライの澄んだ気配。
何にせよ、奥に行かなければならない。

先頭に立ち奥へ進む。

「無理をしてはいけない」
三兄弟は頷き、後を来る。

少し拓けた場所に出ると、暗闇に三つの影。

背の高い金銀半々の長髪の悪鬼。それに掴まれたまほろばの躰が変化していた。
肉の盛り上がった肩に身長も明らかに伸びて、赤い長髪が逆立つ様に流れ、角が小さな火花を散らす。
何より、眼が赤と金に交互に変わる。

まほろばの圧倒的な鬼気の強さ。それよりも一層強い力を感じる悪鬼は、良く見ると、胸に沙弓の顔が在った。赤子の成れの果て?
それにしてはまとう鬼気が強大。

「沙弓!」
気付いた下弦が叫ぶ。

呼び声に肩を揺らした悪鬼が主様を地面に落とし、こちらを振り向く。

赤い眼がこちらを見据えた。

「「金と銀が揃うたか。中から破れない封印も、外からならば破れるだろう?」」

嫌な予感がする。
 
  




*ライside*

目の前に居るまほろばの悲痛な叫び。
それを起こさせているのが、鬼本来の巨体を持つ金と銀を備えた朱色の鬼。

朱色の鬼の胸に見える顔で、先程の肉の塊だった朱色の鬼と判る。

何が起こっているのか?
    
目前に在るが信じられなくて身動き出来ない。

まほろばが、朱色の鬼の鬼気を発していた。
それだけじゃなく、変身しようとしている。
骨がむき出しになった傷口の肩から朱色の鬼の鬼気がまほろばを包んで狂わせて行く。

「「銀の鬼よ。お前がこやつの大事な青鬼か?」」
朱色の鬼が訊く。

思考を読んだのか?
記憶を盗まれたのか?
コイツはヤバいと感じる。


「沙弓!」


呼び声に肩を揺らした悪鬼がまほろばを地面に落とした。
振り向いた先に道彩と魂を取り戻した三兄弟。

「「金と銀が揃うたか。中から破れない封印も、外からならば破れるだろう?」」
朱色の鬼の言葉に鳥肌が立った。
“言霊”を含んだ言葉だったから。

『封印を破れ。』

そう言った言霊が籠っている。
“封印”とは、地獄への入口の事。

躰が、銀の髪がざわつく。
無意識に力を使いそうになる。
道彩も同じ様で、険しい表情でいた。

「ヴゥ―――ふうぅっ!」
まほろばの唸り声。
彼の躰が鬼本来の姿に、朱色の鬼と変わらぬ程の巨体に変化する。四つん這いになり、大きく開いた口端から覗く牙が異様に伸びていた。
瞳が、赤と金の斑に光る。まほろば! “朱色の鬼”の血がまほろばを変身させた。
彼を助けないと!

言霊の呪縛は今のボクに取っては無意味。
朱色の鬼の思惑を撥ね除ける術は、銀の力を解く事。
  
手遅れになる前にまほろばを取り戻さないと。

が身体から抜ける。

「「ほおぅ? 面白い。我の言霊を無視し、銀の力を解いたか。」」

朱色の鬼等どうでもいい。
今ボクに大事なのは、まほろば。

「「お前の愛しい赤鬼は闇の中、お前の血肉を欲しがっているぞ。
本来これがあるべき姿なのだ。お前の躰を喰うた時、お前の“言霊”が邪魔をして“本性”を出せずに居た。
生粋の鬼の浅ましき生態をとくと見るがいい」」
ククッと、喉の奥で笑った朱色の鬼。

その通りなのだと感じる。ボクのした事こそ禁忌。“言霊”を使ってまほろばを“呪縛”した。
今その付けが回って来たのだ。

どう言い訳しても、ボクの罪は無くならない。
解っていた。
けれど、目を背けていた。

「ライ?!」
道彩の声が洞窟に響く。
ボクが力を解いたから地獄の入口の封印は解かれない。

「まほろば」
呼ぶと、まほろばが後退りする。
彼の左肩の傷から赤い数本の線がうねる。血管、だろうか? それが傷口を縫い合わせ、見る見る内に治す。
再会した時の彼はやはり大きな身体で、ボクはただ驚いた。
その時より大きく邪悪な体躯をして居るまほろば。でも、不思議と怖くはない。
赤く金に光る瞳に、まほろばを感じる。
彼は自分の内で闘って居るのだ。
ちっぽけなボクは、壁際に追い込まれたまほろばに向かい足を進める。躊躇せず、彼を取り戻す為に。
まほろばの大きく裂けた口から白い湯気が立つ。身体全体から熱気を出しているまほろばが、大きくかぶりを振る。

「……来・る・な」
確かにそう口にした。
 
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