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夢乱鬼
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しおりを挟む愛し合ったからといって罪が無くなった訳じゃない。
拒絶の言葉を発したまほろばの傍に寄ると、二回りは大きくなったその顔に触れる。ビクリ と小さく震えたまほろばに囁く。
「愛しているよ。どんな姿でも、例えまほろばがボクを……殺したとしても、愛してる」
ココロからの想いを。
手に落ちて来た温かい液体。まほろばが涙を流していた。
顔を寄せ、ボクが映る彼の瞳を覗く。
涙を流した瞳とは裏腹に表情は厳つく、息は荒い。
頬を合わせて、抱き締めた。全然怖くない。
「ライ!」
道彩の叫びに、まほろばも途切れ途切れに言葉にする。
「ラ……イ……ライ」
ボクの名を呼ぶ。
前世も今世も同じ名前。
「愛してる」
何度言ったか分からない。
でも、きっとこれからも変わらない。
「ウアァアアア!!!」
まほろばが吠えた。
ボクを優しく抱き締め、そして大きく腕を振り上げ、朱色の鬼に攻撃した。
「「あがくか。ククッ。面白い、面白いよのぉ」」
ひらりと避けた朱色の鬼が不気味に笑う。
「「“鬼”が愛を語る。面白い! やはり、連れて帰ろう。
“赤鬼まほろば”よ。里帰りだ!」」
朱色の鬼の背後から風が起こる。吹き付けるのではなく、地獄の入口に向かって風が吸い込まれて行く。
ダメだ! まほろばは渡さない。
意思を持って能力を使う。“風”を使う。
風がぶつかり、小岩が宙に浮く。大小の擦れぶつかる音。
目端に映る金髪に意識が行く。
「沙弓!」
朱色の鬼に飛び掛かる三兄弟。
母体を解放しないといけない。出来るなら赤子も助けたい。その魂だけでも。
風になびく様に銀の髪が流れ伸びる。
「道彩!」考えを送る。
頷いた道彩が、封じを朱色の鬼にかける。
三兄弟が動きの止まった朱色の鬼の躰から沙弓を掴み肉を崩す様に引っ張り出すと、出来るだけ入口から遠くに離れた。
「「ククッ! アハハハハハ!!」」
高らかに笑う朱色の鬼。その躰が崩れ肉の欠片となり入口に吸い込まれて行く。
「「赤鬼よ。さあ、共に行こう」」
まほろばに向けて崩れ掛けた右手を伸ばすと、まほろばの身体が震えて光り出した。
朱色の鬼の力は半端なく強い。まほろばの身体ごと“珠”にしようとしている。
地獄に、連れて行こうとしている。
嫌だ!
眼が熱くなる。
熱く力を持った目で朱色の鬼を視ると、その額に呑み込まれ掴まって居る魂の存在を確認する。
赤子の魂。地獄に連れて行かれては輪廻もままならない。
まほろばの肩から跳び、朱色の鬼の前へ立つ。対峙した事で力の違う風が二人を囲んで、ボク達の周りだけ無風の空間になった。
左半身が崩れた状態の朱色の鬼が面白そうにほほ笑む。
「「欲しいのは、赤鬼か? それとも、ここに居る魂か? どちらかを選べ」」
選ぶ?
「選べない。選んでも約束を守らないだろう?」ボクの言葉に笑った朱色の鬼が「「その通りさ」」答えると同時に、力を強めた。
背後からまほろばの叫びが響く。彼の光りが強さを増していた。
横から空間に飛び込んで来た道彩が、粘土の様に柔らかく成って居た朱色の鬼の額に腕を差し込み、まだ小さな魂の珠を救い出した。
崩れ掛けた躰では、全体に気が回らないだろう事を見越して道彩にテレパシーで伝えたのだ。
そこから崩れがさらに進行し、残るは赤く光る片目と、右手。
「「……さすがは金と銀。だが、赤鬼は連れて行く―――」」
頭に響く声。
地獄の風は容赦なく周りの物を吸い込んで行く。ボクの風で抵抗するも、まほろばの光りは、止まらない。
*
*まほろばside*
身体が思い通りにならない。
束縛され引っ張られる感覚にかろうじて耐えて居た。
“愛してる”
ライの言葉が闇に堕ち行く俺を引き留めた。
“まほろば!”
ライが俺の名を呼ぶ。
身体は鬼本来の姿、それ以上かもしれない。
ふつふつと沸き上がる暗い欲望。
ライが俺の要。
ほんの少し残った理性で自らの躰内部を視る。
血管をそこに流れる血液、その中の朱色の鬼の一粒の血液。
その一粒がこうも俺を狂わせた。それを追い出さなければ……残った力を振り絞り、体内を巡る朱色の血を入った場所まで追い込む。
ココロの底からの雄叫びを上げる。左腕を掴み引き千切って朱色の血の混じる腕を、崩れ始めた血の持ち主に投げる。
崩れた躰に腕が当たり、そこからさらに粉々の肉片になる。朱色の鬼は残らず岩に吸い込まれて行く。
俺の腕もその後を追う様に岩に消えた。
「「また会おう。まほろばよ……」」
耳に聞こえた朱色の鬼の最後の言葉。だが、その本体は岩の奥底、地獄に在るのだ。
身体から空気が抜ける様に“闇”が消えて行く。必要の無い鬼の力を放出し終えると、膝を着いて頭を下げる。体中の力が抜けて息をするのも苦しい。
「まほろば! ……腕が!?」
駆け寄って来たライを右腕で抱き締める強く。強く。
身体は元に戻った。意識もはっきりとしている。
ライの柔らかい銀の髪に顔を埋めた。
またライをこの腕に抱ける。それだけで幸せで満足の溜め息を吐く。
「ライ……すまない。お前のお陰で助かった」
「まほろば! この手―――!」
ライが眉根を寄せて左肩を撫でる。
肩から下を朱色の鬼にくれてやった。
傷口の流れ出る血流を意識して閉じる。
痛みは生きて居る証。
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