166 / 210
夢乱鬼
21
しおりを挟む「封印を!」
道彩の叫びに、ライが答えた。
二人が大岩に向かい手を繋ぐ。
隙間とは言え、地獄の入口が開いて居るのは良くない。また奴みたいなやからが現れるとも限らないのだ。
二人が白い光りを放つと、ガコン と鈍い音を響かせて静かに光りが消えて行く。
再び見えた二人の姿は、それぞれの姿に戻っていた。
「主様、大丈夫ですか?」
ライと側に来た道彩が腕を見て訊く。
「大丈夫だ。」
「まほろば……」
涙を浮かべたライが身を寄せて来る。
「沙弓!」
高い声色、それは愛する者を呼ぶ悲痛な叫び声。
「診よう」
側に寄ると、横たわる青白い顔をした母体。
右手で身体を撫で、ゆっくり流れていた血流に熱を与える。
血流に目覚めた朱色の血は無い。すべてを赤子が持ち去った。
鼓動が元の早さに戻る。
瞼が震え、ゆっくりと眼が開いた。
「沙弓!」
何度も瞬きをした沙弓が、下弦を見留め笑顔を作る。
「下弦?」
呼ばれた男は優しく女を抱いた。
「夢見てるみたい……」そう言った沙弓がハッとした顔をする。
「赤ちゃんが?」触れて解ったが、沙弓も“癒し”の持ち主。普通の者よりも自分の身体が解っているのだ。
「赤ちゃん?」繰り返す様に訊く下弦に、沙弓が涙を零す。
「私達の赤ちゃん。居たのよ。確かに」
弱々しく言う沙弓に、道彩が答える。
「ここに居る」
手の平に浮かぶ小さな光る珠。魂の珠。
「残念ながら助けられなかった。だが、またいずれ生まれる時がきっと来る」
断言した道彩が、二人の前に珠を掲げ、珠に小さく息を吹き掛けると、揺らいだ珠が、まるで元に戻る様に真っ直ぐと沙弓の腹部に消えた。
*
*ライside*
穏やかな顔をしたまほろばに対して、ボクは落ち着かない。
片腕がない。
戦いと身体の変化で衣服は殆ど千切れ無くなっていた。むき出しの身体に無くした腕が、その部分がどうしても目に映る。
「ライ、気にやむ事はない。お前の傍に居られる。それに比べれば腕等どうでもいい事だ」
まほろばは偽らない。本心だと判っても、その代償は重い。
「ありがとうございます」
沙弓がおずおずと声をかけて来た。
「こうして生きて居られるのは貴方方のお陰です」
並ぶ仲間の顔も穏やかだ。やるせなくて、背を向ける。
「すべては道彩が居たから治まったんです。感謝なら彼に。」
意識せず、口調がきつくなっていた。
「その腕、もしかしたら取り戻せるかもしれません」
沙弓の言葉に思わず振り向く。
「下弦達を取り戻せた、同じやり方で」
「出来るなら何でもするよ!」
必死だった。
「ともかく地上へ戻ろう」道彩の提案に皆頷く。
身体が浮いた感覚に驚いた。まほろばが右手でボクを抱えて地上目掛けて飛んだ。
「ライ、落ち着くんだ」
まほろばの声色はどこまでも穏やかで、ボクは堪らずまほろばに抱き付いて居た。
*
*道彩side*
屋敷は殆ど壊滅状態であった。
中庭に集まった月頭の皆に主様とライを紹介する。
「ありがとうございます」華子が主様に深々と頭を下げる。
「私達のせいで負傷された。それ以上に腕を無くされた。申し訳なく思います」
「取り戻せると聞きました!」ライが必死に訊く。
「出来ると思います」
奈留が進み出た。
「私の能力で、数日内に出来ます。」
それを聞いたライが、力抜けた様に座り込み、そのまま土下座する。
「よろしく、お願いします」
主様がライの肩を抱き立ち上がらせる。
「この腕の事は感謝します。だが、皆が気に病む事は無い」
そう言った主様は優しくほほ笑んで居た。
数日後、地獄の入口をコンクリートで完全に埋めてしまってから、屋敷の建て直しが始まった。
あの日の終業式は、“地震により老朽化していた屋敷が大破した”事により、昼過ぎからとなった。
“老朽化”で壊れたにしてはもう形も残らぬ程の大破の仕方だったが、月乃江の“言霊”で嘘も本当になる。
月頭三兄弟も、亡くなった事は始めから生徒達にはふせて居たので、難なく元の生活に戻る事が出来た。
主様も奈留の言葉通り、なくした腕形はすぐに出来上がり、今は自由に使いこなせる様にリハビリ中で、ライはココロ落ち着いて彼に寄り添って居る。
落ち着かないのは、華子と私の関係。
屋敷が出来上がるまで、少し山奥に入った所にある別荘で皆生活していた。
二週間の冬休みの間、別荘内は“春”だった。
戻って来た三兄弟とその恋人達は、至る所でそれぞれ愛を語り合う。
一度離れた事でさらに燃え上がった関係はもう揺るぎないだろう。
それに当てられた様に華子がそわそわしていた。いや、理由は解って居る。
あの時、私は確かに彼女に口付けた。
在る筈のないと思っていた関係が始まろうとしていた。
昼下りの温かい太陽の元、玄関先にぶら下がるベンチ状のブランコに座った華子が金髪を陽の光に輝かせながらこちらを見る。
「道彩。あの子達が返って来ました。残念ながら“角”は元には戻りませんでしたが、跡継ぎが戻ったので、貴方は自由です。」
やんわりとした口調で華子が私を拒絶しようとしている。
「そうは行きません。私は彼等を“使役”する形で生き返らせた。だから離れては暮らせませんよ」
隣りへ座りながら、そっと彼女の頬を擦る。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる