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地獄鬼
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しおりを挟む*朱色の鬼・まほろばside*
あれは何だ?
あの姿は俺の過去の姿。
自分が朱色に染まって居るのを判っている。
何故自分がもう一人居るのか?
幻じゃない。
奴は答えた。
「俺はまほろば」
違う。俺が“まほろば”だ!
―――だが、理解出来た。
ライが一緒に居る。と言っていた。
それが、奴なのか?
そして唐突に思い出す。
晶嶺が言った言葉。
俺を造った。と……。
なら、俺は、まほろばじゃないのか?
ライを待って、ひたすら待ち続けて、結果、朱色の鬼に成ったのだと思って居た。
解るのは、この世界にライが居ると言う事。
ライを手に入れるには、奴が邪魔だ。
降り出した雨が身体を打ち付ける。
この雨は、俺達が起こした。
“水を操れる能力”
全てが同じ能力で、もしかしたら俺は奴の分身かもしれない。
ココロが黒く染まる。
俺が“まほろば”だ。
他の誰でもない。
そしてライは俺のモノ。
俺だけのライ……。
ならば、
奴を倒せばいい。
“まほろば”は一人。
一人だけでいい!
黒く渦巻くココロの闇が、身体を支配し、咆哮する。
みなぎる力、
本能に任せて、俺は俺に向かって行く。
雨粒は益々強くなり、だがそれは俺の闘気に触れた端から蒸発する。
両眼がこちらに向かって来る奴の姿をはっきりと捕えた。
空中で互いの拳を握りそのまま地上に落ちる。
樹々が音を立て折れ、地面に着地する。
握った拳は放さないまま、爪を食い込ませ肉をえぐる。
*
*まほろばside*
互いの指先から流れ飛び散る血液。
素早く離れ、視線を合わせたまま走る。
樹々が少ない崖を背景にした広い野原に出た。
立ち止まり、絡む視線で互いを探る。
右に行けば、右に進み。左に戻れば、左に帰る。
意識せず共、解ってしまう。
一部。自分の一部。
それを意識する。
俺そのもの。
ライを求めて止まない。
飢えて居る自分。
手に入れた俺よりも、遥かに飢えた奴の鬼気が強くなり、赤い長髪と朱色の肌が、炎の様に素早く動く。
気付いた時には俺の上に馬乗りになっていた。
両手両足を己のそれで押さえ付け、大きく口を開く。
覗く牙が奴にもあった。
次には喉元に牙を立てられ、喰い破られていた。
流れ出る血潮。
危機感から、身体に変化が起こる。
鬼本来の姿へ。
奴を押し退け、傷を塞ぎながら肉が盛り上がる。
それを見た奴も長く息を吐き、身体を揺する。
同様に大きく変化した身体。
雨は二人の周りで蒸発し、水蒸気になる。
雨の音だけが聞こえる世界で、二人で一人の己との戦い。
意識ははっきりとしている。
戦いは、どちらかの存在の消滅で決着するだろう。
ライを、渡す訳にはいかない。
手放すつもりは毛頭ないが、ビリビリと肌に感じる奴の鬼気は、強くなる。
奴の口端から垂れる俺の血を、長い舌が舐め取る。
左の金の瞳と右の赤い瞳が爛々と光を発して、咆哮しながら向かって来た。
それを正面から抱き留めると、ドオンッ! と響く音と身体に響く痺れ。
長い捩じれた右角が左肩を刺し貫いていた。
ギュッと筋肉を締めつけ、抜こうとする角を傷を塞ぎながら身に捕え、
そのまま奴の身体を抱え、崖に走り当てる。
鈍い音がし、振動で崩れる土が二人に降り注いだ。
土塊が頭上から落ちて来た。
重なったままの奴を強く足蹴にし、その場に残して野原に飛び出る。
土塊は土砂となり、奴を呑み込む様に、崖は崩れた。
痛む左肩に刺さったものを意識する。
捩じれた角。根元から折れていた。
肩の肉がそれをくわえ込む。痛みは感じない。
雨は豪雨となり、更に土を流す。
土砂に埋まった奴の鬼気がオーラが目に見えて膨張して行くのが解る。
そして、爆発した。
土塊が飛び散り、赤い光を纏う奴が出て来て、
「「俺が、まほろばだ」」
滲んだ声が宣言する。
「まほろばは、今も昔も俺一人だ」
会話等出来る筈もない。
ただ己が取り戻す為の、ただ一人の大事な人を護る為の戦い。
身体が動く。
互いに互いを目掛けて飛び込む。
腕、足、全てが武器になる。
空中で交差する。長い爪痕が交互に肌につく。
地面に着くとすぐ身体を廻し力任せに拳を振る。
同じその拳が鈍い音を立て当たると、皮膚が破れ、血飛沫が飛ぶ。
互いの顔に掛かるとそれも蒸発した。
熱く燃える身体は互いを焦がし、盛り上がった筋肉は衝撃で波打つ。
互いの息遣いと激しい鼓動の音しか耳に入らず。
鏡に映った己と戦っているみたいに動きが同じで、決着がつかない。
空は灰色から黒く暗い色に染まり、朝だとは判らない程、闇に変わる。
****
*ライside*
元気が掛けてくれた布を身体に巻き付け外に目をやる。
空を見て鬼神山に向かい集まる雨雲の意味を知った。
戦いが始まったんだ。
「ライ。俺も行くよ」
元気の心遣いがありがたく、まだ身体に触れたままの彼の手を握り、そっと離れる。
「ありがとう。でも、やっぱりボクらの問題だから……」
庭へ出て、目を閉じる。
力を“開放”した。
途端にボクの足元から巻き上がる風。
風を操れる能力。
それは風を起こす事も出来る。
気付く事は多い。
元気の癒しにも驚いた。
確かに彼はまほろばの血族。
まほろば。
まほろば……彼を中心にボクは回ってる。
ここに生きて居る意味。生きて居る証。
自身を抱きしめ、身体が宙に浮かぶに任せる。
走るより早くまほろばの下へ!
空を飛び、目的地へ向かう。
雨雲に入ると激しく降り注ぐ雨粒が身体を掠め地上へと落ちて行く。
洞窟?
そこよりも少し行った所に存在を感じる。
見えたのは崩れた崖―――ボクがまほろばと出逢った場所。
その下にある拓けた野原にまほろばが居た。
二人のまほろばが、対峙したまま動かずに居た。
二人共に鬼本来の姿に変化してその肌に生々しく残る傷跡。
落ちる雨粒は、彼らの周りで蒸発し湯気立っていた。
無言で近くに下り立つ。素足に感じる土の、水の、冷たさが現実味を感じさせる。
目の前の光景は、決して夢幻じゃないと解らせてくれた。
「まほろば―――」
呼ぶ事が最善だと思った。
それしか自分に出来る事はないのだとも。
始まった事を終わらせるには、どうしたら良いのか、ボクにはまだ分からなくて……。
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