鬼に成る者

なぁ恋

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地獄鬼

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*朱色の鬼・まほろばside*




「まほろば」


懐かしい声。
ライの、俺を呼ぶ声。

呼ばれて、その姿を見たくてそちらを見遣る。


白く輝く光を放った銀の一本角の鬼。

神々しく、眼が焼ける様に痛い。
それでも視線を放せず、この銀の鬼がライなのだと理解した。


「「ライ……」」


触れたくて、足を進め様とした。
だが、掴まれた強い力に阻まれる。


「行かせない」


同じ姿をした奴が俺の邪魔をする。


「「放せ……!」」


あぁ、“同じ姿”には語弊があるな。
奴の姿が本当の“まほろば”

焼ける眼に涙が溢れる。それ自体が“まほろば”を否定している。

ライの姿をまともに見れない。これこそが、偽物の証。


晶嶺の言った様に、俺はここでは生きていけない。

それがすんなり理解出来た。

だが、ココロはそうは納得出来ない。

ライが、
ライを求めるこの想いは、止らない。


「「―――ライ」」


奴の手を振り切り、ライに近付く。

眼が焼け、流れる涙が身体を濡らす。

闘気は消え、身体も縮まる。
雨が身体を打ち付け、足をもつれさせた。

それでも、
それでも。ライに触れたくて、大地を掴む様に足を進める。


「「ラ……イ―――」」

進む足に力が無くなる。

清い光が俺を包む様に近付いて、間近にライの気配を感じる。
頬に触れられた。


優しく撫でられる。
ライの感触。
ライのニオイ―――。

逢いたくて、
逢いたくて。

狂うかと思った。

何度も諦め、
その度にまた諦め切れなくて。


「愛してる。まほろば」


ライの声は柔らかい。
触れられた箇所が熱く熱を持つ。
違うな、これは、ライの光に耐えられなくなった俺の身体が、まるで蝋の様に溶け始めているんだ。




 
 

*まほろばside*


目の前の光景は切なく、身に詰まる。

奴は必死の形相でライへ近付く。
身体は人間サイズに戻り、血の涙を流しながら。

余りにも哀れで行く手を阻む。
だが、当然ながら、振り払われ、ひたすらにライへ向かう。
ライの光が眩しいのか、眼を細め、それでも止らない。

ライが動く。
俺と視線を合わせたライが、小さく頷いて……奴に近付いた。

そして、頬を撫でる。

幸せそうに目を細めた奴が、溶け出す。

文字通り、触れた箇所からどろりと流れる身体。

ライが、切なげに瞳を閉じた。



「まほろば、愛してる」


それを聞いた奴は、ただ、ほほ笑む。

「「待って居た。
ライ。お前を……ずっと」」







*ライside*

ほほ笑みが崩れる前に、まほろばを抱き締める。

すると、力強くまほろばが抱き返して来て、

次の瞬間、砂が流れる様に流れ、消えた。
ボクの腕を擦り抜けて風に吹かれて消えた。

ボクの手に残されたのは、まほろばの左腕。



愛しいまほろばの左腕。

何も、考えては居なかった。
これは、自分のモノだと。その独占欲は強く、躊躇等なく、歯を立てていた。

その身を、
ボクがまほろばに強要した様に、
ボクはボクの意思でその身を喰む。
身も、骨も、血も。

全てをボクの内に。

恍惚とした感覚。


まほろばは、ボクのモノだ。



だから、余計に怒りがふつふつと沸き上がる。


この“まほろば”を造った輩を。
 
許せない。 
許しはしないと。
 
 
* 
 
 
*まほろばside*


ライは躊躇なく、奴の元を、俺の左腕を喰った。

白い肌に、赤い血が細かく色をつける。
その唇から流れる血の筋……ぞくりとした。

感動とも、欲望とも言える恍惚とした感覚。

何とも言えない衝動。

ココロの安堵感。

その、ライの美しさに
鳥肌がたった。



全部を食べ尽くすと、今度は“怒り”がライを支配する。



雨はいつの間にか止み、ライの光は、強さを増した。

「許せない」
激しい怒りは、言霊になる。

足元から風が起こり、爆発する様に宙へ飛ぶ。


それは、強い怒りと能力で、俺は身動き出来なかった。





*ライside*

どす黒い嫌な空気の流れる洞窟、地獄の入口へ下り立つと、その緩んだ封印に手を添えて、印を解く。
すると、歪む空間が目に見えて来る。
ここが、地獄の入口。

テレパシーを送る。
罪を犯した憎い鬼に。

許せない。


「「……お前は、銀の鬼か?」」


滲んだ声が聞こえた。


「「消えたのか?」」


「簡単に言うんだな」

姿は現さない。


「「あの綺麗な生き物は消滅したのか? だが、いいだろう。また、あの腕をこちらに寄越せ。」」

言霊を含んだ言葉。
それに気付くがボクには利かない。
怒りが胸を焦がし、限界まで能力が表へ現れて居た。

『お前がこちらに来ればいい』

ボクの言霊が金と銀の鬼のそれを上回る。


決してこちらに来ようとはして居なかった。
金と銀の鬼をこちらに寄越す。

そう“命令”した。



こちらの空気に触れるといい。
奴は決してこちらには来ようとしていなかった。

いや、こちらに来たくはないのだ。
今なら解る。
 
 
地獄の空気に触れて、異世界の空気の中に、混ざっているモノが見える。

この銀の瞳に視えた。

形が見える訳ではなく、“在る”のが判る。
微弱な病原菌? 
ウイルス?
そう呼ばれるモノだろう。

を通る事で感染する。
人間界では良くあるモノで、人間も体内に持って共存している。
それが、こちらに来る時に感染する。
人間界で生きるには何もなくとも、一度ひとたび地獄へ戻ったならば、

ウイルスは動き出す。


それを、意味は解らずとも本能で判っているから奴は来たがらない。



歪んだ空間から現れる気配がした。

金と銀の髪が、一本角と、その容姿が現れる。


「「お前は銀の鬼。ライ―――」」

諦めた様にこちらを見る奴に、名を訊く。

「名は?」

「「晶嶺」」

赤い眼が傲慢に光る。

「晶嶺。地獄の生活は楽しい?
お前の傍に仲間は居る?」

簡単な問い掛けに、晶嶺は口をつぐむ。
当たり前。この鬼のココロは空虚感が漂っている。居ないのだ、誰も。


鬼は、

孤独を、

耐えられない。


「「もうこちら側に来たからには、地獄へ戻るつもりはない。
むしろ来たくてたまらなかったのだから、願い叶いて有難い事。
銀の鬼よ、礼を言うぞ。」」

笑みを浮かべた晶嶺。

ボクは、許さない。

例え、孤独に耐え兼ねて“まほろば”を造ったのだとしても。


『……この地を二度と踏む事を許さない。
孤独で死ぬ事も許さない。
晶嶺、お前はただ、灼熱の地で孤独に狂いながら生き続けるがいい―――』

“言霊”に“魂を統べる能力”を加えて命ずる。

『永遠に狂ったままで生きて行け』

“呪い”を。

晶嶺に、ボクが生きて居る間の死の訪れを拒否する。
 
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