鬼に成る者

なぁ恋

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継鬼

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***




「うわっ!」

瞬きの間に島の上に居た。

「スゴい!」
「でしょう?」

真上から見る羅刹島。

空には欠けた月と満天の星。
だけど、島はほんのりと色付いていた。

命の光なのかもしれない。

「さぁ、降りるよ!」

虎之介の一声で、急降下。

ふわりと体が浮いて、素足に草の柔らかさと土の冷たさが感じられた。

「到着! さて、と。迎えは明日の夜来るからね」
「ありがとう!」虎之介の言葉に笑顔を向けると、すでにその姿は消えて居た。

俺にも虎之介みたいな能力が……頭を振る。
考えても仕方ない。

気持ちの良い草を踏み締めながら、目の前に見えて来た洞窟の入口から零れる灯りが、まるで俺を招いているみたいで嬉しくなった。
洞窟から覗かせた顔を見て笑みが浮かぶ。

「―――元気?」

空羅寿。
俺の愛する人。

「久しぶり」

言いながら堪らず抱き締める。
柔らかい体を震わせて抱き返して来た空羅寿が溜め息を溢す。

「会いたかった」

優しく甘い声が俺のココロをくすぐる。

「俺も」
重なる唇を止めようがなかった。




「元気?」

小さな幼子の声が真下から聞こえて視線を落とすと、俺達の抱擁をじっと見ている羅刹が居た。
「羅刹」名を呼ぶと優しい気持ちになれる。幼子の頭を撫でると嬉しそうに抱っこをせがむ。

「大きくなったな」

二歳になった羅刹は大きな目をぐるりと回して笑顔をくれた。

「羅刹もちゅうして~」

可愛らしい娘。
その丸くピンク色の頬っぺたにキスをしてやると首に巻きついて来た。

「大好きだよ」

二人と居ると、幸せだと感じられる。




洞窟の中は過ごしやすく整えられている。
奥の方に羅刹の寝床があって、あれから少しして眠りについた。

二人きりになって空羅寿の作った炎の灯りの下、桃太郎が産まれた事、それから医者になると決めた事を話した。

「それは素敵な事ね。誰もが出来る仕事ではないもの。元気だからやれる事だと私も思う」

誰に言われるよりも嬉しくて。

「ありがとう。頑張るよ」

隣に座る空羅寿の手にそっと口付ける。

「私も出来るだけ手伝いたいと思ってるわ」

炎に照らされた笑顔に見とれる。

 
 
茶色い髪に瞳が綺麗だ。 
そっと顔を寄せ口付けを落とす。

大好きな空羅寿。
その細い体を抱きしめる。

愛する想いが純粋で喜びに満ちたものだと教えてくれた愛しい人。

元気の人生は始まったばかり。

「空羅寿。愛してる。俺の傍にずっと居てくれるかい?」

「離れはしないわ」

抱き返してくる力強い腕が嬉しくて……堪らず震える。

ずっと一緒に居たい。
切なくて。
悲しくて。

幸せで……。






優しい鳥の鳴き声にくすぐられて目が覚める。
隣には空羅寿の寝顔が。
同じ布団で目覚める幸せを噛み締めて居ると。

「おはよおぉ!!」

と、羅刹が俺達の間に飛び込んで来た。

「んん……驚いた」

空羅寿が笑顔でおはようと続ける。

「おはよう。羅刹。空羅寿」

羅刹を抱きしめ、空羅寿に軽く口付ける。

「おはよう。元気」

愛しい人の笑顔に満たされるココロ。


離れたくない気持ちが胸を苦しくさせる。


「元気。帰っちゃうの?」

不意に掛けられた言葉に、

「うん。寂しいけど」

素直に答える。

「帰らないとダメなの?」

「帰りたくないんだけど。やらなきゃならない事があるからね」

幼い羅刹の考える顔が可愛くて笑みが零れる。

「じゃあ。羅刹が作るね」

「何を?」

にっこりと満面の笑みを浮かべた羅刹が、岩壁に両手を当てて目を瞑る。
そこから光が広がり、どこからともなく“扉”が現れた。
  
「これは?」

「元気だけの“ドア”だよ」

羅刹が自分の宝箱から絵本を取出して見せる。

“不思議なドア”ってタイトルで俺が買い与えたもの。
内容は、まあ、いわゆる“どこでもドア”的もので魔法のドアを手に入れた女の子の冒険物語。
 
 
羅刹が作ったと言ったドア。

能力の目覚めは突然だったけど、元々能力者である事は予想出来てたからそう驚きはしなかった。

ただ、岩壁に突如現れた絵本のイラストそのままのドアに、幼い羅刹の頑張りを感じて嬉しいやら感動なんかの沢山の感情が内交じって羅刹を抱き締める。

「ありがとう! それでこのドアの使い道は?」
「元気が“鍵”だよ。元気が帰らなきゃいけない場所を思って」

どうやら見た目だけ真似た訳ではなさそうだと感じてドアノブに手を掛ける。

ギイィ―――……

と音を立ててドアは開いて、生温い風が体を通り抜けた。

思い浮べたのは虎之介の顔。

そして目の前に現れた部屋には、ベッドでまだ眠っている虎之介と大輝の姿が在った。

「嘘……だろう?」

「嘘? ってなあに?」
きょとんとした羅刹が可愛らしく首を傾げる。

「いや。驚いたんだよ」
「本当に驚いたわね」

後ろから空羅寿が声を上げた。

「どうやってこんな事が?」

と考える内に思い立ったのは、羅刹の能力の形。

蛇で在った頃の迷い人を島に呼び込んで居た事実から、島への入り口を羅刹が作れるって事。

生まれ変わってもそれは受け継がれていて、羅刹は俺が“鍵”だと言った。

すぐにドアを閉めて、今度は樹利亜を思いながら開ける。

目の前に現れた部屋には大きなベッドに横たわり眠る樹利亜と龍太郎。
そして傍らにある小さなベビーベッドには桃太郎が眠っていた。

羅刹が声を上げる。
「あの小さいのは何 ?」

指差した方向にあるのは桃太郎のベッド。

「赤ちゃんだよ」
「赤ちゃん?」

言うが早いか腕から飛び降りた羅刹がベビーベッドを覗く。

「可愛いぃ」

そう言ってほほ笑んだ。





この出来事で空羅寿と羅刹との距離は縮まり、ヤル気満タンの俺は頑張れた。

どのドアでも俺が思うだけで羅刹島への入り口になったからね。
 
 
***

*ライside*

元気の報告と目の前に座る女性二人に笑顔になる。

幸せそうで、ボクも嬉しくなった。


目が覚めたら元気が居て、さらに空羅寿と羅刹が居て。
羅刹はずっと桃太郎を見ていた。

「大きくなったね」
って羅刹に声を掛けると、
「まだ小さいわ」
と膨れた。

あんまりにも可愛くて頭を撫でる。

「貴方……知ってる。私を助けてくれた」

羅刹の魂に触れた時の事を言っているのだと判った。
不思議そうに首を傾げた羅刹がじっとボクを見る。
その瞳が揺らいで定まると、大人びた表情になった。

「ボクの名前はライだよ。よろしくね。羅刹」

「ラ……イ? 今日は髪、“銀色”じゃないのね」

「うん。こっちが普通なんだ」

そっと小さな手が伸ばされる。羅刹の思う通りにさせ様と膝を床に着く。
小さな手が髪の毛に触れて、抱き締められた。

「貴方はとても綺麗……」

角を頬擦りされて、
「くすぐったい」と笑うと羅刹も笑った。

「助けてくれてありがとう」
抱き締めたまま耳元で囁かれる。
「どう致しまして」

覚えていたのか、思い出したのか。
次の瞬間には幼い笑顔に、年相応の顔に戻っていた。
 
「桃太郎のとこに行こっ! じゃあね。ライ!」

ボクの膝から降りた羅刹が真っ直ぐに桃太郎のベッドに向かった。

その側で元気と龍太郎さんが話す声が聞こえて来た。


「じゃあ、ドアの向こうには常に羅刹島が繋がっていると言う事か?」
 
開けるドアに限定されるみたいだ」

「“どこでもドア”みたいだな」

言って二人で笑いだす。

空羅寿も樹利亜と何やら話し込んで居て……笑顔がそこかしこに咲いていた。
  

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