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継鬼
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しおりを挟む*樹利亜side*
「ここはとても広い館ですね」
空羅寿がキョロキョロと部屋を見回す。
「そうね。私も最初は戸惑ったわ」
空羅寿が一番驚いてたのはテレビ。
過去と現在。そのギャップを埋めるのは時間。
「これからちょくちょく来るといいわ」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げる。
「真面目ねぇ」
不思議な顔をした空羅寿が優しい笑みを浮かべた。
そうだ!
あの時元気が買った下着はどうなったのかしら。こっそりと耳打ちで訊くと、
「あれは、良いですね。柔らかく付けごこちも気持ち良くて」
「ふふ。買い物にも行きましょう」
「……余り“扉”を離れたくはないので……すみません」
「そう。なら通販って手もあるから。色々教えて上げる」
同世代の(実際は見た目だけだけど)姉妹になる女性。
嬉しくて話も弾む。
「桃太郎ちゃん。本当におめでとうございます」
「ありがとう。羅刹がとても興味津々ね」
来てからほとんどをベビーベッドを覗いている。
羅刹を見遣るとライと話してた。
楽しそうにライを抱き締めて居る。
そしてまた桃太郎の所へ戻ってじっと見つめる。
「早く大きくなってね」
そう呟いた。
「羅刹? 起こしてはダメよ」
空羅寿が声を掛けると、口元に指を立て「しぃ」とする。その仕草が可愛い。
ベッドから離れ空羅寿の膝に座ると、
「私も兄弟が欲しい!」
と一際大声で言ったから、皆の注目を浴びた。
その言葉を理解した元気と空羅寿が、同時に真っ赤になり、部屋中が笑いに包まれた。
幸せで……こんな時間が長く続いて欲しいと思った。
***
*まほろばside*
始まりの場所に降り立つ。
ライを想い、眠り、泣いた場所。
崩れた昔の棲みか。そこから見える風景は今も昔とそう変わらない。
空は暮れ始めていた。
市松を一人で出て来た。
未来の家族を連れ帰った元気を見て、ほっとする自分に気付いた。
“寿”が笑っている様で安心した。
それに連なる者達にも幸せが訪れ、出逢った者達が……変な言い回しかもしれないが、俺の手から旅立って行った様な寂しい気持ちも感じられた。
この様な想いが自分に目覚めるとは、不思議でならない。
ライが居れば良かった。
昔は、ただの鬼で在った千年前はそれだけで良かった。
この気持ちはきっと人間に近い。
ライ。人間に成りたいと願った青鬼は、人間に転生し、鬼と成った。
風が流れる。
体を取り巻くその暖かさに、背後に現れた愛しい人の存在を見ずとも感じられた。
「まほろば」
その温かで柔らかいココロが、その腕と共に俺を包む。
「やっぱりここに居た」
「どこに居てもライには解ってしまうな」
「ふふ」
触れた手はそのままに右隣に立つ。
「綺麗だね」
目の前に広がる夕陽に溜め息を吐く。
「まほろばの髪と同じ色」
髪に触れるライが嬉しそうにほほ笑む。
「色んな事があったね」
「そうだな」
「大変だったね」
「いや。楽しいばかりだ」
「これからも、どんな事があるのか判らないけど……」
俺を見つめる銀色の瞳が、夕陽に輝いて綺麗だ。
今日の夕陽は赤く、ライの全身も俺色に染まって……たまらず抱き寄せ、ライの言葉を次いで言う。
「一緒に居よう」
そうして誓いの口付けをした。
*ライside*
唇が離れて行く。名残惜しくて閉じた目を開けると、まほろばの赤い色が目に飛び込んで来た。
赤い髪が夕陽の赤に照らされてキラキラ綺麗で見惚れる。
「また旅に出ようか?」
言葉が先に出た。
「どこに?」
まほろばがほほ笑む。
「二人で居られるなら何処だって良いんだけど」
今度は考えて、
「南に行こうか」
今のまま暮らす事には無理がある。
年をとらない外見で、同じ場所に長く居過ぎるのは良くない事だ。
「そうだな。ライの言う通りだ」
ボクの考えを読んだまほろばが同意する。
「皆それぞれ自分の進む道や幸せをみつけた。
今度は、二人の……二人だけの幸せを探しに行こう」
二人きりになりたいって気持ちも多少あるんだけど―――まほろばは目立ち過ぎるから、誰も居ない山奥に引っ込むとか。
「いつ旅立つ?」
何気なく訊くまほろば。でもにやついている顔で、まだココロを読まれてた事に気付く。
まあ、そんな顔をする(魅力あり過ぎる)まほろばもボクは……嫌いじゃないけど(正直嫉妬する自分も、その気持ちも心地良かったり)
「そうだね。身の回りの整理をしたらすぐにでも」
ばぁちゃんの家は、佳乃家族に譲ろう。
そうすれば、ばぁちゃんも寂しくないよね。
夕陽が名残惜しそうにまほろばの髪裾を光らせながら山に沈んで行った。
まほろば。
まほろばはボクの半身。
ボクの全て。
ボクを形作る愛そのもの。
一緒に生まれて、その腕で死んで……そして再び生まれ変わり。また共に生きていく。
永遠はそんなに遠くはなくて、普通に生きて行く事が永遠に続く道。
これからも二人で、これからが二人の始まり。
夕陽が落ちたその代わりに月が光を増す。
赤い夕陽を映した様な紅い月。
紅い満月。
今は夏だけど、旅立ったのはこんな月の秋の夜だった。
「行こうか」
月に誘われて。
何にも捕われず。
「南へ?」
「南の島。沖縄」
抱き合う。
最初に大きな身体をしたまほろばに抱えられて空を飛ぶ様に家路に着いたのを思い出した。
ただ驚いて。
……同じ夜に夢を見て。前世の自分を、前世の想いを思い出した。
“ライと礼”が交差して、“鬼と人間”が交わった。
二人は別の時間に産まれ、やがて同じ歩幅で歩きだす“まほろば”と言う結び目を辿り一つに戻った。
「ボクは“ライ”で良かった」
「あぁ。俺も“まほろば”で良かったよ」
金の瞳がボクを包む。
ボクをずっと見つめて居た温かで優しい光。
真っ直ぐで揺らぐ事のない想いを向けてくれる伴侶。
魂の片割れ。
「愛しているよ」
優しいまほろばの声がボクを抱き締める。
「ボクの方が愛してる!」
負けじと吠える。
耳元で「フッ」と笑うまほろばの声がボクに染み渡る。
しつこい様だけど、ずっと二人で生きて行こう。
「居てくれてありがとう」
ボクが言うとまほろばが笑った。
ライとまほろばはこれからも二人で。
「さぁ、行こう!」
月に向かって立つ。
手を繋ぎ、空を駆ける。
紅い月が、
笑った気がした。
鬼に成る者 ―完―
20101130
20210601修正投稿終了
※もう少しおまけが数話あります※
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