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おまけ
バレンタイン~ライ~
しおりを挟むまほろばより先に仕事に出る。
外は寒く雪雲が出ていた。
吐く息も白い。
今日は2月14日バレンタインデー。
今まではまほろばが食事出来なかったから、気にもならなかったけど。
バレンタインはチョコかぁ。
今の職場は歩いてすぐのコンビニ。
考えている内に着いた。
「おはようございます」
店内に入ると、暖かい空気が気持ち良い。
「おはよ」
店長が店内清掃していた。
作業服を頭からかぶり、すぐに仕事に取り掛かる。
「いらっしゃいませ」
女子高生が三人、にぎやかに喋りながら入って来た。
「あ―――! 良かった。あったよぉ」
と一直線にバレンタインコーナーへ駆け寄ると、物色し始める。
その様子が楽しそうでこっちまで笑顔になる。
それに、懐かしい母校の制服。
きゃあきゃあ楽しげに騒ぎながら、それぞれ数個購入し店を出て行った。
「はぁ~。元気だなぁ」
店長が溜め息混じりに苦笑する。
「そうですね」
僕も頬が緩んで笑った。
時間が経ち、ちらほらとチョコは売れて行く。
どうしよう?
悩んでいる内にチョコの数も減り、堪らず一つ手に取った。
「何? あげたい子でも居るの?」
打ってくれた店長に笑顔で誤魔化す。
チョコ一つにこんだけ悩むなんてね。
買ったチョコを握ってロッカーに入れる。
バレンタインかぁ。
毎年佳乃がくれていたのを思い出した。
嬉しかったのを覚えてる。
そうこうして居る内に昼近くになっていた。
「表掃いて来ます」
ホウキと塵取りを持って外へ出ると、たちまち冷たい空気に身体が包まれた。
目の前を白い雪が落ちて来た。
「寒い筈だ」
空を見上げた。
と、僕を見る視線を感じてそちらを見ると、一人の女性が佇んでいた。
あ……。
流れて来る“想い”に気付き、慌てて店内に入ろうとしたけど、呼び止められた。
「夏木 礼さん」
「はい」
儚い感じの短髪の女性。
見た事ある顔。
「あぁ。お客様」
そうだ。毎朝ボクがレジに立つと同時に買い物に来る方だ。
「私、来香 しおりって言うの。
貴方の名前が私の名前にも入ってるのよ」
笑顔で近付いて来て、
「店内では迷惑だと思って待ってたの」
ボクが来てから……四時間は経ってるよ!
見るからに寒さに震えて鼻先が真っ赤になってる。
「寒かったでしょう?」
「大丈夫。だって、私は貴方が好きだから!」
にっこりと微笑まれ、手提げカバンから中身はチョコレートであろう包みを差し出された。
あ……。多分、手作り。
「あのっ。貰えません」
「うん。私の気持ちごと貰って下さい」
「だから……」
聞かない様にしてたのに、余りに強すぎる想いが流れて来た。
やばい。ストーカー気質の女性……しかも“朱色の鬼”の血筋。
下手をすると変化する。
参った。
こんな昼間の往来が少ないとは言え、変化してしまったらボク一人でどうにか出来るかな?
「私と付き合って、ね?」
穏便に断るには……。
「だ……」
と、口を開いた時、目の前に小さな花束が降って来た。
「ライ」
背中に当たる温かみが、その声が愛しい人だと解る。
「まほろば」
上向くと赤い髪が顔を掠める。
「貴女には悪いが、夏木 礼は俺のモノなんだ」
そう言って降りて来た唇がボクの唇を塞いだ。
「ライは渡せないが、代わりにこれをやろう」
手に持っていた花束、それを彼女に渡した。
渡して見惚れてる内に宙に浮かぶ身体。
まほろばに担がれていた。
「ライは誰にも渡さない」
「ちょ! まほろばっ!」
家に向かって方向転換した時、女性の顔が見えた。
真っ赤になって花束を握り締めていた。
“朱色の鬼”の気配も煙りと消えていた。
ボクに告白する時よりも、ボクを想ってた黒かった気持ちよりも……喜びに満ちた気持ちが感じられた。
解らない。
女性の気持ちが全然解らない。
「まほろば! 下ろせってば!」
見える背中を軽く何度も叩く。
「まだ仕事中なんだからな!」
何を言っても歩みは止まらず、諦めに近い気持ちで思い付く限りの悪態を口にしてみる。
「ばか、あほ、まぬけ……お前のかあちゃん出べそ」
「ぷっ。」
まほろばが、吹いた。
「もうっ!」
肩に担がれて揺れる身体。
最初に出逢った時はお姫様抱っこだった。と、思い出して頬が緩む。
突然立ち留まり、家に着いたんだと判った。
家に入り、優しく下ろされた。
「まほろば、強引。助かったけどさ。まだ仕事中だったのに。電話しないと……」
その場で立ち上がると、まほろばが小さな四角い箱を目の前に差し出して来た。
綺麗な金色の包み紙。
ドキドキした。
無言で受け取って震える手でリボンを解き包みを丁寧に開ける。
出て来たのは黒い箱。それをまた開けると、指輪があった。
「まほろばっ。これ?」
「バレンタインだからな」
まほろばが指輪を掴み、ボクの左手を取った。
そして、迷いなく薬指に指輪をはめる。
正直、嬉し過ぎて身体が震えた。
「ライは俺のものだ」
そう言いながら、額に唇を落とすまほろば。
「リングは俺のものって証だ」
「どこでそんな事……」
唇は頬に移動して、唇に重なる。
「誰にも渡さない。誰にも触れさせない……ライは、俺だけのものだ」
強く抱き締められて、苦しいのに嬉しい。
でも、何だろう?
まほろばから流れて来る“想い”が、今までに感じた事のない“焦り”と、“戸惑い”をまとっていた。
「どうしたの?」
抱き締めていた手を緩めると、まほろばがその手を握る。
「ライは俺のものだ。
誰にも触れさせたくないし、触れて欲しくない」
え?
ボクを覗くまほろばの表情が、切なげに眉根を寄せる。
「……ライ。告白されていた。付き合ってと言われていた。
あの女は強引で、俺があの場にいなければ、無理にでも連れて帰ろうと考えていた」
まほろばがボクの左手を自らの唇に近付けて薬指にはめられた指輪に口付けた。
「誰が欲しがってもライは渡さない。
ライは俺のものだ」
口付けられた薬指が熱い。
まほろばのこの感情って……まさか?
嫉妬?!
えええ~!?
信じられない。
でも本当にそうなら……。
「ボクが愛してるのは、一緒に居たいと想うのは、まほろばだけだよ」
幸せで、溶けてしまいそうだ。
まほろばの綺麗な顔を見つめる。
その瞳に映るボクの姿はどんな風に見えているのかな?
「これを、この感じが“幸せ”と言うのか?」
「幸せさ」
「なら、さっきの何とも言えない胸が苦しくなった感じは?」
「ボクを想って“嫉妬”したのさ」
笑顔が零れる。
だって、まほろばのこんな顔見れるのはボクだけ。
こんな、照れて赤くなった顔をさせられるのもボクだけ。
まほろばが愛しているのはボクだけ。
ボクが愛しているのはまほろばだけ。
「ボク達はとても幸せなのさ」
そう言って抱き締め合った。
後日談。
幸せにどっぷり浸かった後我に返ってバイト先に電話をしたら、あの女性がボクが体調を悪くしてたまたま通りかかった赤い髪の男性が連れて帰った。
と、説明したらしい。
店長はまほろばの事を知っていたから(兄と言う認識)ボクの身体の事を心配してくれたけど……。
あの女性が何を考えているのか結局理解出来なかった。
何にせよ、まほろばのこんな感情を引き出してくれたのには感謝しているんだけどね。
*END*
20110225
 ̄ ̄ ̄ ̄
※バレてるでしょうけど、彼女は腐女子だったのでした(笑)
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