海辺の光、時の手前

夢野とわ

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深い眠り

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「そうでもないと思うけど」と、僕が言った。
「そんなことないよ」と、広人が言う。
ゆっくりと、坂を下って行くと、軽い疲労と眠気を覚え始めた。
「俺、ここら辺だから」と、広人が言い、手を振る。
「じゃあまたね」と、僕が言った。
広人は、そうして振り返りながら去って行った。

夏の夜は、やはり思ったように、暑かった。
母が夕食を作ったので、二人で、食卓を囲んで食べた。
「肉じゃが嫌い?」と、母が僕に聞いた。
「そんなことないよ。またそうめんかと思ったから、少し嬉しかった」と、僕が言った。
「良かったわ」と、母が言う。
母親の作った肉じゃがは、ほっこりして美味しかった。
「今日はずっと雨だった」と、僕が言う。
「そうねそんなお天気ね」と、母が言った。
しっとりとした時間が流れる。母は物静かなので、今日はテレビも付けてなく、ゆったりとした時間だった。
「もう寝ようかな? 観たいテレビもないし」と、僕が言った。
「ええ、ゆっくりと休んで……」と母が落ち着いた声で言う。
少し窓を開け放った。視界の外に、落ちた夕陽がにじんでいる。
僕はそのまま、上の階へと駆け上がった。

ベッドの上に横たわると、急に広人の見せてくれた、マンガのコマが浮かんだ。
広人は、野球がしたいのだろうか? マンガを描きたいのだろうか? それとも何かしたいことと言うか、希望があるのかもしれない。
僕は窓の近くに立った。そして夏の夜更けの外を見ながら、色々なことを思った。
有紀はあの十一時五十一分で止まった時計のことを、何が伝えたかったのだろうか?
僕は夏の空気を深々と吸い込んだ。夏の夜が暮れ始める。僕は深い緑の匂いに包まれながら、深い眠りに落ちた。
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