25 / 28
卒業までは
しおりを挟む
僕がそっと、有紀の側に近寄る。
「戻って来たんだ」と、僕が言った。
「ええ」と、有紀が俯いて言う。
それから、沈黙が続いた。廊下の周りでは、夏の賑やかな音がする。夏は、盛りだった。僕は、静かに有紀の横に立っていた。
「体調は大丈夫? 音楽室で倒れたみたいって聞いたけど」と、有紀が言う。
「大丈夫だよ。すぐに、何ともない」と、僕が言って笑った。
「へえ。それは良かったわ」と、有紀が言う。
そして、例の様に、「フフン」と一笑して笑みを浮かべた。
「札幌のこと、どうなった?」と、僕が有紀に聞く。僕の握った右手が、震えている。
「札幌……? 何のことかしら」と、有紀が言う。その言い方は、本当の様だった。
「いや」と、僕が言った。
「何のことか、分からないわ」と、有紀が言う。
僕は、静かに立ち尽くしていた。そして、有紀は長い髪をなびかせて、そのままその場を立ち去って行った。
放課後になった。僕は、昨日と同じく、花壇の前に腰掛けて、野球部の練習の様子を見ていた。と言うよりも、見ているのは、広人の練習をする様子だった。カンカンという、ボールを打つ、小気味良い音がする。意識をすることがなかったが、僕もあと二年で、この高校を卒業なのだ。受験勉強のこともある。息を吐く。夏の香りがした。
こんなに戸惑ってばかりは、いられないだろう。僕は、広人が部活動を終わるまで、もう少しだったので、このまま待っていることにした。
有紀――。僕が「札幌のこと」と、言った時に、静かに目の中に、光を放っていた。有紀は、分かっているはずなのだ。
広人が、僕の方へといつの間にか、近付いて来ていた。
「広人」と、僕が言った。
「身体大丈夫か? 何か倒れたみたいって聞いたけど」と、言って広人が笑う。
「大丈夫だよ。少し話をしよう」と、僕が言った。
広人が真剣な顔をしてうなずいた。僕らは二人で帰り道を歩き出した。
「マンガの方はどう。色々練習頑張っていたけど」と、僕が聞いた。
「全然駄目。俺には才能ないみたい。難しすぎる」と、広人が言った。
「そうなのか」と、僕が言った。
うんそうだよ、と広人が言うので、そのまま二人で歩く。僕は、この次どう話しを切り出すか迷っていた。
「広人って、長谷川さんのことどう思う。長谷川有紀のことだけど」と、僕が言った。
「綺麗な人だと思うけど。最近、戻って来たよね。いなくなったってどういうことだったんだろう。意味がわからない」と、広人が言った。
「そうだ」と、僕が言った。
広人は、僕の様子がいつもと違うからか、居心地が悪そうな表情をしている。
「暑い。本当に暑い。俺、急いで帰るわ。じゃ!」と、言って、そのまま広人が走って行ってしまった。
どうやら僕は、タイミングを逃してしまったらしい。こうなったら――自分で問題を解決するしかないだろう。
問題? そもそも僕は何を悩んでいたのだろうか。いま僕は、普段の町にいて、いつも通り学校に通っている。長谷川有紀も戻って来た。としたら――。僕はいつの間にか家に着いていた。
「戻って来たんだ」と、僕が言った。
「ええ」と、有紀が俯いて言う。
それから、沈黙が続いた。廊下の周りでは、夏の賑やかな音がする。夏は、盛りだった。僕は、静かに有紀の横に立っていた。
「体調は大丈夫? 音楽室で倒れたみたいって聞いたけど」と、有紀が言う。
「大丈夫だよ。すぐに、何ともない」と、僕が言って笑った。
「へえ。それは良かったわ」と、有紀が言う。
そして、例の様に、「フフン」と一笑して笑みを浮かべた。
「札幌のこと、どうなった?」と、僕が有紀に聞く。僕の握った右手が、震えている。
「札幌……? 何のことかしら」と、有紀が言う。その言い方は、本当の様だった。
「いや」と、僕が言った。
「何のことか、分からないわ」と、有紀が言う。
僕は、静かに立ち尽くしていた。そして、有紀は長い髪をなびかせて、そのままその場を立ち去って行った。
放課後になった。僕は、昨日と同じく、花壇の前に腰掛けて、野球部の練習の様子を見ていた。と言うよりも、見ているのは、広人の練習をする様子だった。カンカンという、ボールを打つ、小気味良い音がする。意識をすることがなかったが、僕もあと二年で、この高校を卒業なのだ。受験勉強のこともある。息を吐く。夏の香りがした。
こんなに戸惑ってばかりは、いられないだろう。僕は、広人が部活動を終わるまで、もう少しだったので、このまま待っていることにした。
有紀――。僕が「札幌のこと」と、言った時に、静かに目の中に、光を放っていた。有紀は、分かっているはずなのだ。
広人が、僕の方へといつの間にか、近付いて来ていた。
「広人」と、僕が言った。
「身体大丈夫か? 何か倒れたみたいって聞いたけど」と、言って広人が笑う。
「大丈夫だよ。少し話をしよう」と、僕が言った。
広人が真剣な顔をしてうなずいた。僕らは二人で帰り道を歩き出した。
「マンガの方はどう。色々練習頑張っていたけど」と、僕が聞いた。
「全然駄目。俺には才能ないみたい。難しすぎる」と、広人が言った。
「そうなのか」と、僕が言った。
うんそうだよ、と広人が言うので、そのまま二人で歩く。僕は、この次どう話しを切り出すか迷っていた。
「広人って、長谷川さんのことどう思う。長谷川有紀のことだけど」と、僕が言った。
「綺麗な人だと思うけど。最近、戻って来たよね。いなくなったってどういうことだったんだろう。意味がわからない」と、広人が言った。
「そうだ」と、僕が言った。
広人は、僕の様子がいつもと違うからか、居心地が悪そうな表情をしている。
「暑い。本当に暑い。俺、急いで帰るわ。じゃ!」と、言って、そのまま広人が走って行ってしまった。
どうやら僕は、タイミングを逃してしまったらしい。こうなったら――自分で問題を解決するしかないだろう。
問題? そもそも僕は何を悩んでいたのだろうか。いま僕は、普段の町にいて、いつも通り学校に通っている。長谷川有紀も戻って来た。としたら――。僕はいつの間にか家に着いていた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる