秋のソナタ

夢野とわ

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きみ恋し

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 そして僕らは、二年になった。
二年になると、少し意識がかわった。
かれんとは、ずっと一緒には、いられるわけではないのだ。
かれんと同じ高校に進めればいいのだけれど、かれんもそれを望んでいるわけではないだろう。
かれんは、女子校に、行きたいと打ち明けるのを聞いた。
僕は、地元の公立校の男子高校を志望していた。
かれんは、二年生になると、急にめきめきと、勉強ができるようになった。
クラスでも、トップの成績。あのとまどったように、ノートに色々つけている、以前のかれんではなくなった。
僕もまた、勉強ができるようになった。それは、かれんのためでもあった。
また、ゆうきも、野球部から少しずつ離れ、勉強ができるようになった。

春のある日に、ゆうきと僕で、かれんの家にまねかれた。
僕と、ゆうきは、渡された住所と、電話番号を元に、かれんの家を探して、住宅街の中を歩いていた。
「高山さんの家ってどこかな?」
「たぶんこのへんだと思う」
僕とゆうきは、ゆらゆらと、春の小道を歩いた。
しばらく歩くと、かれんの家が、見つかった。
住宅街から、少しそれたところ、庭がとても綺麗に手入れされている、清潔な家だった。
思ったよりも、かれんの家は、こぶりだった。
「チャイム、おれとゆうきどっちが鳴らす?」
「じゃあ、代表して俺が」
ゆうきが、じゃあ代表して、と言って、かれんの家のチャイムを鳴らした。
待つと、かれんが出てきた。
「来てくれてありがとう」と、かれんが、言った。
うん、と僕が言うと、かれんが、嬉しそうに、笑った。
「待った?」と、かれんが言う。
「特には」と、ゆうきが言った。
じゃあ、中に入って、と、かれんが言うので、僕らは中に入らせてもらった。

かれんの家の中も、清潔でがらんとしていた。
ところどころに、書棚があって、中には、立派な背表紙の付いた、文学の全集があった。
かれんの、お母さんが、コーヒーと紅茶を両方出してくれた。
僕はコーヒーで、ゆうきは紅茶を飲んだ。
「本が多いと思わない?」と、かれんが聞いた。
かれんのお母さんが、困ったように、笑っている。
僕らは、うなずいた。
コーヒーは、家で飲むものよりも、苦味が濃い気がした。
「かれんとおともだちになってくれてありがとう」
かれんのお母さんは、そう言って、にっこりと笑った。

僕は少し緊張していたので、うつむいた。
かれんと二人のほうが楽だった。
しかし、ゆうきもいるので、帰る訳にはいかなかった。
「三人で、ゆっくりしてね……」
そう言うと、かれんのお母さんは、着物姿で外出して行った。
それがとても意外だった。

「かれんさんのお母さん、出かけるときは、着物になるの? なんかすごいね」
「あたしはあんまり好きじゃないんだけど……」
かれんは、そう言うと、えぇ、と言った。
かれんの目がにじんでいる。
僕は時計に目を動かした。
時間はまだほとんど経っていなかった。

僕らはとりとめもない話しを何度もした。
その度に、えぇ、とかうんとか言って、何度も笑った。
「かれんさん女子校志望?」
そうよ、とかれんが言う。
じゃあ、僕らは卒業したら、はなればなれかな、と僕は聞いた。
そうかもしれない、とかれんが言う。
そうなんだ、とゆうきが言った。
「ええ」とかれんが言った。
かれんの目がまたにじんでいる。
僕らはそれから、しばらくつまらない話しを沢山した。
野球のこと、生活のこと、少しの夢のことを。
カップが空になると、かれんがポットから、お湯を注いでくれた。そして、その上に粉末の紅茶やコーヒーを入れてくれた。
「ねぇ、あたしって変じゃない?」
急に思いつめたように、かれんが言った。
どうして、と僕が聞く。
「あたし、あたしのことが嫌なのよ……。性格とか、まだ色々あるのだけれど……」
そうなのかい、と僕は意外な気持ちでそのことを聞いた。
「ええ」とかれんが言う。
かれんが、コトリとコーヒーのカップを皿の上に置いた。
コーヒーの表面が震えている。

ゆうきがそろそろ帰ります、と言うので、僕も一緒に帰ることにした。
来てくれてありがとう、とかれんが言うので、待っていると、かれんが本棚から、『季節の短歌入門初学者向け』という本を、ぼくとゆうきに持ってきた。
「お母さんが書いた本。良かったら……」
ゆうきは本にあまり興味がなさそうだったが、僕は、かれんから、本をありがたく頂いた。
かれんが何度もお辞儀をしたので、僕らも何度もお辞儀をして帰った。
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