秋のソナタ

夢野とわ

文字の大きさ
8 / 10

きみ恋し

しおりを挟む
 そして僕らは、二年になった。
二年になると、少し意識がかわった。
かれんとは、ずっと一緒には、いられるわけではないのだ。
かれんと同じ高校に進めればいいのだけれど、かれんもそれを望んでいるわけではないだろう。
かれんは、女子校に、行きたいと打ち明けるのを聞いた。
僕は、地元の公立校の男子高校を志望していた。
かれんは、二年生になると、急にめきめきと、勉強ができるようになった。
クラスでも、トップの成績。あのとまどったように、ノートに色々つけている、以前のかれんではなくなった。
僕もまた、勉強ができるようになった。それは、かれんのためでもあった。
また、ゆうきも、野球部から少しずつ離れ、勉強ができるようになった。

春のある日に、ゆうきと僕で、かれんの家にまねかれた。
僕と、ゆうきは、渡された住所と、電話番号を元に、かれんの家を探して、住宅街の中を歩いていた。
「高山さんの家ってどこかな?」
「たぶんこのへんだと思う」
僕とゆうきは、ゆらゆらと、春の小道を歩いた。
しばらく歩くと、かれんの家が、見つかった。
住宅街から、少しそれたところ、庭がとても綺麗に手入れされている、清潔な家だった。
思ったよりも、かれんの家は、こぶりだった。
「チャイム、おれとゆうきどっちが鳴らす?」
「じゃあ、代表して俺が」
ゆうきが、じゃあ代表して、と言って、かれんの家のチャイムを鳴らした。
待つと、かれんが出てきた。
「来てくれてありがとう」と、かれんが、言った。
うん、と僕が言うと、かれんが、嬉しそうに、笑った。
「待った?」と、かれんが言う。
「特には」と、ゆうきが言った。
じゃあ、中に入って、と、かれんが言うので、僕らは中に入らせてもらった。

かれんの家の中も、清潔でがらんとしていた。
ところどころに、書棚があって、中には、立派な背表紙の付いた、文学の全集があった。
かれんの、お母さんが、コーヒーと紅茶を両方出してくれた。
僕はコーヒーで、ゆうきは紅茶を飲んだ。
「本が多いと思わない?」と、かれんが聞いた。
かれんのお母さんが、困ったように、笑っている。
僕らは、うなずいた。
コーヒーは、家で飲むものよりも、苦味が濃い気がした。
「かれんとおともだちになってくれてありがとう」
かれんのお母さんは、そう言って、にっこりと笑った。

僕は少し緊張していたので、うつむいた。
かれんと二人のほうが楽だった。
しかし、ゆうきもいるので、帰る訳にはいかなかった。
「三人で、ゆっくりしてね……」
そう言うと、かれんのお母さんは、着物姿で外出して行った。
それがとても意外だった。

「かれんさんのお母さん、出かけるときは、着物になるの? なんかすごいね」
「あたしはあんまり好きじゃないんだけど……」
かれんは、そう言うと、えぇ、と言った。
かれんの目がにじんでいる。
僕は時計に目を動かした。
時間はまだほとんど経っていなかった。

僕らはとりとめもない話しを何度もした。
その度に、えぇ、とかうんとか言って、何度も笑った。
「かれんさん女子校志望?」
そうよ、とかれんが言う。
じゃあ、僕らは卒業したら、はなればなれかな、と僕は聞いた。
そうかもしれない、とかれんが言う。
そうなんだ、とゆうきが言った。
「ええ」とかれんが言った。
かれんの目がまたにじんでいる。
僕らはそれから、しばらくつまらない話しを沢山した。
野球のこと、生活のこと、少しの夢のことを。
カップが空になると、かれんがポットから、お湯を注いでくれた。そして、その上に粉末の紅茶やコーヒーを入れてくれた。
「ねぇ、あたしって変じゃない?」
急に思いつめたように、かれんが言った。
どうして、と僕が聞く。
「あたし、あたしのことが嫌なのよ……。性格とか、まだ色々あるのだけれど……」
そうなのかい、と僕は意外な気持ちでそのことを聞いた。
「ええ」とかれんが言う。
かれんが、コトリとコーヒーのカップを皿の上に置いた。
コーヒーの表面が震えている。

ゆうきがそろそろ帰ります、と言うので、僕も一緒に帰ることにした。
来てくれてありがとう、とかれんが言うので、待っていると、かれんが本棚から、『季節の短歌入門初学者向け』という本を、ぼくとゆうきに持ってきた。
「お母さんが書いた本。良かったら……」
ゆうきは本にあまり興味がなさそうだったが、僕は、かれんから、本をありがたく頂いた。
かれんが何度もお辞儀をしたので、僕らも何度もお辞儀をして帰った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『 ゆりかご 』 

設楽理沙
ライト文芸
  - - - - - 非公開予定でしたがもうしばらく公開します。- - - - ◉2025.7.2~……本文を少し見直ししています。 " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。 ―――― 「静かな夜のあとに」― 大人の再生を描く愛の物語 『静寂の夜を越えて、彼女はもう一度、愛を信じた――』 過去の痛み(不倫・別離)を“夜”として象徴し、 そのあとに芽吹く新しい愛を暗示。 [大人の再生と静かな愛] “嵐のような過去を静かに受け入れて、その先にある光を見つめる”  読後に“しっとりとした再生”を感じていただければ――――。 ――――            ・・・・・・・・・・ 芹 あさみ  36歳  専業主婦    娘:  ゆみ  中学2年生 13才 芹 裕輔   39歳  会社経営   息子: 拓哉   小学2年生  8才  早乙女京平  28歳  会社員  (家庭の事情があり、ホストクラブでアルバイト) 浅野エリカ   35歳  看護師 浅野マイケル  40歳  会社員 ❧イラストはAI生成画像自作  

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...