H・E・ S~せっかく桃太郎の世界に来たので逆に桃太郎を退治したいと思います~

D×H

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第一章桃チャンの世界…俺がまるっとハッピーエンドにしてやるぜ!

第10話桃太郎と愉快な黄楊と時々俺

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俺と後ろの荷物(桃太郎)は、道中野宿やら、野宿やらを数回繰り返すととある村に到着した。

その村は、10軒程が建ち並んだ小さな集落の様で、村の奥、少し小高くなっている丘の上に大きめな家が一軒建っている。
感想としては、至って普通。
村人は農業で生計をたてているのだろうと伺い知る事が容易に出来る田畑がある。
ただ……おかしいのが、人が居ないのだ。
少なくとも、見つける事が出来ない。


幸との旅では、目立つのも宜しくないからと自転車を隠したが、桃太郎と一緒の旅では、そんな気にすらならなかった。
だから、なのか桃太郎と一緒だからなのか、俺の自転車の性なのか、はたまたそれら全部が悪いのか、かなり目立ったよね。

「随分と静まり返った村だな……」

俺がボソッと呟きそのまま空中捨てた言葉だったのだが、それを桃太郎がご丁寧に拾い上げた。

「大体の村がこんなに感じだよ。……荒れていないだけ、まだましな方さ」

「………」

俺は、何で……?と言う言葉を飲み込んだ。
道中桃太郎との会話で、鬼の暴徒化が進み襲われ、消えた村もひとつやふたつじゃないと聞いたからだ。
どれが真実なのだろう?
どれも、真実なのかも知れない。

実際に、鬼ヶ島も、鬼ヶ島とは名ばかりで、その実……鬼に侵略された大きな村だと桃太郎は言っていた。
それすらも、何処までが真実なのだろうか?


「取り敢えずは、誰か話ができる人を探すかな」

この旅の数日間で、桃太郎に生活能力が無いことを思い知らされた俺は、端から桃太郎を当てにするのを諦めていた。

「俺もいこうか?」

「貴方は黙ってなさい!!この、箱入り息子!」

俺が捨て台詞よろしく吐き出した後、丁度村人Aもとい、お嬢さんの出会した。

「すみません、お嬢さん。……俺達は旅の者ですが、一晩泊まれる場所を探しているのですが、何処かご存知有りませんか?」

俺が話しかけた時、このちょっと年齢を重ねたお嬢さんは、ビクッとしたのを見逃さなかった。
恐怖……が一番近い感情だろうか?

何をそんなに怯えているのだろうか?
その答えは、直ぐに解った。
女性は、俺達が怪しいものじゃ無いと知ると(8割桃太郎の顔を見た後、表情が変わった。……桃太郎は、美形なだけで、何もしてないのにやるせない)重い口を開いてくれた。

「この村は、鬼が………現れた事が有るのです。その為、皆村人以外には警戒するようになりました。……鬼は人に化ける事が出来ますから……」

それは違う!…声を大にして言いたかった。……でも、言えなかった。
化ける、は正しくない。

言えなかった俺は正しいのかも知れないけれど、俺の中で何かが壊れて行くような気がした。
鬼は人間に化けるわけじゃない。
鬼は。力を使うときだけ変化するだけだ。
俺も人間だが、人間だけが正しくて、他は存在を認めないのか?
と言いたいのに、言えない俺はとんだチキン野郎だ。
勿論、桃太郎の旅に付いていかなくれはならないから、極力話を合わせていると言う意味合いもあるけど。

「そうだったんですね、それはさぞ恐い思いをされた事でしょう。……実は、俺達はその鬼を退治しに、鬼ヶ島に行く旅の途中なのです」

桃太郎は、左手を胸元に添えて、膝をおると目線を女性にあわせた。

「!!!…それは、大変な旅の途中だったのですね。……もし宜しければ、何も無い家ですが、私の家にお泊まりください」

桃太郎のまるでホストの様な甘いマスクと口調ですっかり信じきってしまった(別に嘘はついていないが、何だか嘘っぽい)女性は、目がハートだった。

俺は、……もう、黙るしかなかったよね。

この村は静まり返っているけれど、荒れている訳ではなかった。
ただ、空気がもう余所者を受け付けないといった感じだ。

子供の姿も、他の村人の姿もまだ確認できない。
台所だろう辺りから、煙が上がっていたりするので、人の気配はある。

案内された女性の家は、先程見た小高い丘の家だった。
比較的大きい屋敷だと、遠目で見ても思ったが、実際にも裕福だろうと思われる。
どうやら、彼女は村長の縁者らしい。
そして、今日寝泊まりする家は、村長の家だ。
桃太郎の顔と鬼退治していると言う噂のお陰で、村長の家では歓迎され持て成された。

◇◇◇

その夜に事件は起こった。
家の戸をドンドンドンと強い力で叩く音が、静まり返った家の中にいた俺の耳にも入ってきたのだ。

何事だ?
事件ですか!?事故ですか?!
と聞きたくなる程の荒い叩きかたが、焦っている様子を表していた。
声からするに対応しているのは、俺達を連れてきてくれた女性のようだ。
すると、少しして声が止んだかと思いきやこちらに向かっている足音。

何故?……ここは少し生活の場から離れているからこちらに近付いてくるのは不自然だ。
隣に寝ていた桃太郎もいつの間にか目を覚ましていた。数日間一緒にいて解った事だが、桃太郎は気配に敏感なのだ。
俺ですら、近くにいると寝てはくれず、本当に、少し前だ。……寝てくれるようになったのは。
桃太郎は人懐っこい顔とは裏腹に恐ろしく警戒心が強い。まあ、気付く人間は少ないが。

「桃太郎、起きてるだろう?」

部屋は既に暗く、明かりがない部屋は夜目が効かない俺には厳しい物がある。


「起きているよ、誰か……近づいてくるね。……足音からして一人は男かな」

気配を読んだ桃太郎の分析は数秒後正しいと証明された。

「お休みのところ恐れ入ります。桃太郎様、瞬様起きていらっしゃいますか?」

障子の向こうから此方を伺う声がする。
月明かりのせいか、昼間のお姉さんじゃない、もう一人の影は恐ろしい獣の様だった。
勿論……起きてはいる。
が、俺が様子を伺っていると桃太郎が返事をした。

「起きていますが、何かご用ですか?」

用があるからここまで来ているのだろうが、何の用が有るのか?迄は解らないのだから、質問としては正しい。

「桃太郎様にどうしてもお会いしたいと言う者が訪ねてきております」

本来なら、よっぽどの急用でも無い限りは、常識として明日にすべきだろう。
仕方がないので蝋燭を付けて灯りを灯した。

桃太郎の代わりに俺が障子を開けると、そこには、年の頃、中高生といった感じの若いが見た目にも野性的な少年が立っていた。
これが、後に桃太郎のお供の猿と呼ばれた黄楊と俺達との出会いだった。
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