H・E・ S~せっかく桃太郎の世界に来たので逆に桃太郎を退治したいと思います~

D×H

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第一章桃チャンの世界…俺がまるっとハッピーエンドにしてやるぜ!

第14話◯ん◯異世界昔話

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◇◇◇
瞬が黄楊に話しかけるが錯乱状態で、どうする事も出来ない。

瞬は話しかけてくる羅刹を、取り敢えず無視する事にした。
何故なら、今大切なのは黄楊であって羅刹じゃ無いからだ。
物事には優先順位と言う物が存在する。
まあ、人によってその順位は大幅に異なるのだから、俺が俺の中の今一番を優先して何が悪い。
俺にとって大事なのは目の前で今壊れていきそうな黄楊だ。

だが………おかしい。
いや、俺の常識が宛になら無いのを差し引いても、おかしいと思う。
空は透き通った透明と青の間の色から、まるで灰色が掛かった、嵐が来る前の天候に変化していった。
雲は黒くなり、動きが活発になって行く。
何のフラグが立ってんだよ!?と聞きたくなってしまう。

その事だけでも一大事だけど、あろうことか、抱き留めている黄楊が、震えて唸りだしてしまったから、俺は神様を呪いたくなってきた。
あれ?神様ってチビ助の事になるのか?
何だよ、俺をこんな処まですっ飛ばしといて、まだ足りないって言うのだろうか?
思わず現実逃避したくなるが現状は待った無しだった。

抱き留めていた瞬の腕を振りほどくと瞬から少し離れ、頭を抱えてうずくまり「うあああああ」と声にならない声で叫びだしたのだ。

「おい、おい大丈夫か!?…どうしたんだよ!?黄楊!!」

側に寄ろうとした瞬だったが、恐ろしい威圧感でなかなか近付けない。
すると、一回り黄楊が大きくなった様に見えた。

「見間違いか?」

目を擦る瞬だったが、直ぐに見間違いではないことが立証されてしまった。
もう一回り、黄楊が大きくなったのだ。
それにより、避けてしまった着物。
大きさは小柄で小さかった少年が大人のサイズに見える程だった。
肌も綺麗な肌色から、浅黒いと言って良いのか?解らない色に変化していく。

「これは、何だよ?」

呟いた瞬。
続く言葉は、人間ではあり得ない、だろうか?

「この姿は………まるで……」

……鬼だ……。
何故?黄楊は人間だった筈だ。
幸の様に鬼とのハーフだとしたら話は別だが、母親は人間で、では父親は?

那由多では無い筈だ。
だが、どう見ても今の黄楊は、黄楊の肌の色は青色に変わっていっている。
瞬が慌てる感情とは裏腹に理性が分析をしていると、雄叫びを上げた黄楊は山の奥に駆け出して行ってしまった。

「おい!待てよ!!」

必死に叫び止める瞬の声は黄楊には届かなかった。
走り去った黄楊。未だ気を失ったままの桃太郎。それも僅かな時間での出来事だ。
瞬にはどうする事も出来ない。


「何だよ?何がどうなっているんだよ!?…なあ、羅刹のおっさん!!」

静観して物事の成り行きを見守っていた羅刹に、瞬は怒鳴り付けた。
初めに何かを話そうとした羅刹を無視したのは瞬の方だが、元々巻き込んだのは羅刹だ。気にしてはいられない。

「那由多の息子は、鬼化した様だな」
「は?!…何だって?」

聞き捨てならない言葉を羅刹は言った。
心なしか何時も会うときは無表情な羅刹の顔が焦りを見せていた。

「那由多が記憶とともに封じた力が、記憶が戻るのに呼応して解かれてしまったのだろう」
「……」

俺は言葉が出てこなかった。
だって、アイツはそうとも知らず殺そうとしてたんだぜ?実の父親をさ。

「その那由多って奴は何で、記憶を消したんだよ。親父なら親父で良いじゃん!!」
「鬼と人間との争い以降、幼子が鬼として生きるには辛すぎる世の中となってしまった。」
「…何でだよ?…何もしてないのに、何で…」

瞬は美景さんから聞いた昔の人間と鬼との確執を思い出していた。
悪いのは……人間。それも極一部の勝手な奴等の勝手な行いによって、生じた亀裂を当時の鬼の頭が自らの命で幕引きをした事実。

「何で…鬼だけそんな目にあうんだよ。悪いのは人間の方じゃないか…」

人である自分すら嫌悪してしまいたくなる。
いつの間にか空はどす黒い混沌から、透き通った青空に戻っていた。
黄楊が完全に鬼に変化したのだろう。
何故だか俺は、そう思ったんだ。
あいつを追いかけなくちゃいけないけれど、桃太郎をこのままにもしてはおけない。

「桃太郎の事は心配するな……お前は黄楊の側に行ってやってくれ。桃太郎は、黄楊が鬼だと解ったらきっと殺すだろう。だから、俺がここで桃太郎を押さえておく」

羅刹はまだ気を失っている桃太郎に目線を移すと、そのまま桃太郎に近付いて行く。

「真っ当な言い分だけどさ?…あんただって鬼だろう?」

瞬は、気絶し横たわる桃太郎と羅刹の間に割って入った。

「俺は…桃太郎を押さえる技がある。まだ俺が相手をしていた方がましだろう」
「桃太郎を傷付けたりしないか?」

力なら羅刹が上だ、その上桃太郎は羅刹を殺したい程憎んでいると来れば、当然の心配だった。

「ああ、瞬、お前に約束する。桃太郎は傷付けたりしない」

その言葉を聞くと、瞬は黄楊が走り去った方向に駆け出した。

だって、取り敢えずは安心だって、誰だって思うじゃないか。

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