H・E・ S~せっかく桃太郎の世界に来たので逆に桃太郎を退治したいと思います~

D×H

文字の大きさ
14 / 15
第一章桃チャンの世界…俺がまるっとハッピーエンドにしてやるぜ!

第13話過去から未來、交錯する感情

しおりを挟む
複雑な胸中の3人組だが、旅路は思いの外楽しかった。

鬼を退治したい桃太郎。
鬼を守りたい瞬。
鬼の敵がいる黄楊。

ちぐはぐだけれど、年齢も其ほど離れていない同姓は気心が知れて楽な部分も確かに有る。
猿(黄楊)の住んでいた村までは、後少しで着くそうだ。
着いて欲しい様な着かないで欲しい様な複雑感。…俺は本来とてもシンプルな男の子だった筈なんだが?
とは、勿論瞬の言葉だ。


目的地は、元々そんなに離れていない村だったから、非常にも直ぐにたどり着いてしまった。

これが、ロールプレイングゲームなら、片っ端から村人ABに話を聞いて廻る事になるのだが、如何せんこれはリアルだ。


それに、この村には……もう村人はいない。
村は、辛うじて人が住んでいたんだろうな、と感じるしか出来ない程に、荒れ果てていた。これを見る黄楊はどんな気持ちか?……考えるに余りある。

村の入り口に入ると、途端に桃太郎の雰囲気が変わった。

「……ここに鬼はいない…」

何の探知機なのか?……どうやら桃太郎には鬼を感じるセンサーが付いているらしい。
鬼●朗の髪の毛か!?…何て思ったりもしたけど、彼はそもそもが妖怪で人間じゃない。

「……さすが桃太郎さん。…正解だよ、ここに鬼はいない。…鬼はこの奥にいる」

そう言って猿が指を指したのは、村の奥、小高い山の上だった。
それを聞くが早いか桃太郎は走り出してしまった。

「おいおい、待てよ!!…んっとに団体行動の出来ねー奴だな!!」

勝手に走り出す桃太郎に、怒鳴るも聞きやしない。
仕方なく俺と黄楊は、桃太郎を追いかけた。
心なしか黄楊も何処かおかしい様に感じたが、今は桃太郎を追いかける事が先決だ。

「くそ!!…速えーな!!化け物かよ!」

自転車を放り出し、俺と猿は追い掛けるが中々追い付けない。
自慢じゃないが、足はそこそこ速い方だったのに、自信を無くすわ。

やっとの思いで追い付くと、寂れた木屋の前で、羅刹のおっさんが家の前で突っ立っていた。
それを黙って睨み付けている桃太郎の姿に、美景さんの時に見た景色が思い出される。

途端、更にプッツンした桃太郎がおっさん目掛けて切りつけた。
その声に、少し前の記憶を思い出していた俺は正気に戻り、止めようにも、俺の声より、桃太郎のダッシュの方が速かった。

「羅刹つっーーーーーーーー!!」

おっさんが危ない!!…俺はそう思った。
でも結果は、……………。

桃太郎が羅刹のおっさんにたどり着く事なく、何か解らない力で吹き飛ばされた。
様に俺には見えた。

桃太郎は俺達より後方に吹き飛ばされ、地面に叩き付けられた衝撃で気を失っている。

俺は桃太郎に駆け寄ったから、反応が遅れてしまったんだ。
黄楊が寂れた家にふらふらと近寄り、そして、その家の扉に付けられた刀傷を見詰めて、狂った様に心がこの場所にはいなくなって……その瞳は、今のこの景色のどれも写してはいないことに……気づけなかった。

◇◇◇

「俺は………この扉の傷を知っている?…どうして?…誰が?」

黄楊は扉に向かって話しかけるのが早いか……脳の記憶の箱が開くのが早いか、封じていた記憶がフィードバックし始めた。

この声はお母さん?
まだ辛うじて残っている黄楊の、望んだ、正気な感情が優しかった母の面影を思い出す。

「お前さえ………お前さえいなければ!!」

次に思い出したのは、優しい母とはかけ離れたおぞましい女の姿だった。

黄楊には、母にそんな顔され恨まれる覚えがない。
何で?…どうして?…幼かった黄楊の問いかけに答えてくれる者なんて誰もいなかった。
何故、母親が自分を切り殺そうとしている?理由が解らない。
なら、どうやって助かったんだ?

考え始めると、記憶の箱から次々に思い出達が飛び出してくる。
最後に箱の中に残った、もう一つの頑丈に鍵が掛けられた箱。…その箱を開けば、残ったのは、真実の記憶。
そして知った真実。…自分を助けてくれたのは……那由多。…青鬼と呼ばれ、一度は自分が父と慕った、憎き仇の鬼が自分を救ってくれたのだ。

あの時…………家に帰った自分を、母は………自分を切り殺そうとしたのだ。
幼かった自分には、理由は解らない、解らないけど、確かなのは憎んだ、那由多が助けてくれたこと。

でも………思い出したくなかった!!

黄楊は思い出した記憶に大きな衝撃を受け、膝から崩れ落ちると、大きな咆哮を上げた。
声にならない声が何処までも響く。
その姿に驚いた瞬は、桃太郎の側にいるべきか、黄楊の側にいるべきか迷ったが、桃太郎を横に寝かせると、未だ悶える黄楊の肩を揺すった。

「しっかりしろ!!…黄楊!!…どうしちまったんだよ?!正気に戻れ!!」

でも、瞬の声は黄楊には届かない。
瞬は家の前でただ立ち、そして此方を見ている羅刹を怒鳴り付けた。

「何でこうなった!?…どうしてだよ!?おっさん!!」

何で羅刹に聞いたのか、瞬にも解らないが、羅刹が全てを知っていると、そう直感したのだ。

「……」

「黙って無いで答えろよ!!…あんたが俺を巻き込んだんだろ!?なら、俺には話を聞く権利がある筈だ!!」

正確にはチビ助が大きく俺を巻き込んだのだが、この際そんな小さな事はどうでもいい。
俺が怒鳴っている間に、黄楊が気を失い、その体から力が抜けた。
そのまま、俺が黄楊のだ体を抱き止める形となった。

「おい!!…黄楊しっかりしろ!!」

瞬が、黄楊の頬を叩いて起こそうとしていると、黙りだった羅刹が話し始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~

テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。 しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。 ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。 「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」 彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ―― 目が覚めると未知の洞窟にいた。 貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。 その中から現れたモノは…… 「えっ? 女の子???」 これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...