龍魂

ぐらんじーた

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崩壊龍

成仏

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イクサスの「闇龍は、力を使い果たして、死んだ」の言葉。
レイラはそれの意味を十分に理解する前に、闇色の球体の正体に思考が向いた。
なるほど。さっき見た闇色の球体が、龍魂-ドラゴン・ソウル-か。だから、闇色で、実態がない球体だったのか。
あれだけ長い間扱ってきたし、触れてきた龍魂-ドラゴン・ソウル-だが、実物は初めて見た。

腑に落ちる一方で、引っかかる言葉があるのを、ようやく理解した。

「え……今……」

今、死んだと言ったか?

「死んだ!?」

勢いよくイクサスの方向へ振り返る。
その勢いに乗り、サラサラの髪が流れ、頬を打つ。

「嘘を言わ「……『闇龍が』な。正確には、成仏したっつう方が正しいかもな」

レイラの言葉を遮り、そう言うと、イクサスは屈んだ。そして、ゼルの様子を確認する。
脈はある。呼吸も。人間としての生命活動は続いている。が、問題なのは、龍魂。

「…………」

しばらくして、彼は「完全に龍が抜けている」と彼は呟いた。

「え……それって……」

レイラの問いに答えず、思考を続ける。

(と、言うことは……つまり……)

タブーを犯した人間は、基本的には宿してある龍に意識を支配される。
基本的には『完全に』支配され、人間の時の記憶は精神世界の奥深くに封印される。つまり、記憶がなくなった状態となる。
日常生活動作は問題なく行うことができるため、「その人間特有の記憶が失われる」とイクサスは認識している。

だが、彼はレイラの前で激しく躊躇し、動揺したり、『敵』を認識して牙を向いたり、人間時代の関係性を残している様子だった。
これは勝手な想像になるが、思いの強さが何らかの影響を与えているのではないか。
だから、守護対象のレイラに躊躇し、敵対関係にあり、かつ、戦った経験のあるスゼイやフリア、フランバーレには牙を向いていた。

話が脱線したが、そんなタブーを犯した龍力者の『龍』が力を使い果たし、完全に死んだ。
龍魂-ドラゴン・ソウル-は、既に死んでいる状態のため、「死んだ」という表現は適切ではない。
『成仏』した。が正しいのかもしれない。

ただ、これは前例がない。まさか、肉体を手に入れた矢先に魂の終わりを迎えるとは。
いくつかパターンが思いつくが、こちらにとって最悪な予想が的中するなら、彼女の完全勝利だ。

(全く……恐ろしい……)

がく、と頭を垂れ、イクサスは長く息を吹く。
宿主の魂が深い闇の底とは言え、根底にある強い想いには勝てなかったのだ。
また一つ勉強になった。龍魂は、知っているようで知らないことが多い。

不安そうに『リゼル』を見つめるレイラ。
彼の手を握り、光の力を送っている。

「……アンタは、試合にも勝負にも勝った。完全に予想外だ」
「どういう意味です……?」
「いや、いい。俺の独り言だ」

イクサスはそう言い、立ち上がった。そして、腰に携えていた古そうな剣を撫でる。
撫でながら、これの出る幕はなかったな、と呟いた。

「それ……は……?」

先日見た刀とは別の剣だ。そして、そこからは、すごく嫌な感じがする。
絶望とか恐怖とかではなく、もっと嫌な感じだ。その剣から距離を取りたい。本能的にそう感じる。
そんな剣を腰に携えて、イクサスは平気なのだろうか。まぁ、彼の涼しい顔を見ている限り、平気なのだろう。

「何です?それは……」

重ねて彼に聞くが、レイラの質問にイクサスは答えない。
そのまま、次の話へ進んでしまった。

「約束だったな。コイツは置いていく」
「……えぇ」
「面白いものを見せてくれた礼に、一つ教えておくか」

レイラは、腰の剣からイクサスへと視線を移す。

「一刻も早く、フリーの龍魂を用意しろ。少しでも早くに、だ」
「そんなことは、言われなくとも……」

言われなくとも分かっている。
闇龍が消えてしまった今、彼は生身だ。今後も共に戦うには、新しい龍魂がいる。

「いや……アンタは多分、分かっていない」

彼女の頭の中を読んだのか、そういうことじゃない、とイクサスは続ける。

「ま、全てに勝ったアンタだ。いつか分かる」

そう言うと、イクサスは背を向けて去っていく。
レイラは、その背中を黙って見ていることしかできなかった。
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