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新たなる龍
風の子の悩み
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風の渓谷。鏡の間。
バージルは、道中の謎解きをクリアし、最奥の空間まで到達していた。
最初のよりは小さめだが、キューブが二個のパターンや、浮かす必要はないが、途轍もなく重いキューブを、壁画の順番を考えて合わせていくパターンなど、繊細な龍力を維持したり、シンプルに強さを求められたたりする謎解き(課題と言うべきか?)が多かった。
故に、体力消費がえげつない。
何の下準備もないままに鏡を綺麗にしてしまったため、自発的にハンデを背負って戦闘に入っている。
「クソ……」
『それ』の戦闘力は、自分と同等か、やや上。体力消費した直後では、勝ち目は薄い。
が、彼は「ある発見」をしていた。
それは、幸か不幸か、鏡の間から去れば、『それ』は鏡の中に戻っていくことだ。
戦闘開始と同時に入り口の通路は何かしらのトラップで閉ざされると思っていたが、何も変化はなかった。
実際、「聞いてねぇって!!」と叫びながら撤退すると、『それ』の動きは止まり、鏡の前に戻っていったのだ。
ただ、姿は消えない。即ち、倒さなければ、先に進めない。
ソルは、これも想定して提案してきたのだろう。
「ふぅ……休ませてもらうぜ」
『それ』は敵だが、対立している相手ではなく、課題の一つ。
だから、疲労困憊で戦う必要もない。実際は連戦を強いられることもあるが、誰も来ないこの場で律儀にそれをする必要はない。
撤退し、回復、突撃のサイクルで、いくらでも挑むことができる。
(回数制限もない。いざとなりゃあ、ここに逃げれる。けど……)
敗北を重ねたこと、王を奪われたことで弱気になっているバージル。
その上試練でも勝てないとなると、本当に心が折れてしまう。
ある意味、この発見はバージルの生命線だった。
とはいえ、回復手段も無限ではない。
ひと眠りするにも環境が悪すぎるし、消耗品も無駄にできない。
(……ちげぇよな)
最初はともかくとして、ピンチになったら逃げて、回復して挑んで……って、それは何か違う気がした。
ソルが許したとしても、それすら「試されている」と考えただろう。
「死ぬこと以外は掠り傷」だが、自分たちが置かれている状況的にも、撤退を繰り返すのに前向きにはなれない。
課せられた訳でもなく、バージル次の戦闘で決める気でいた。当然、撤退の選択肢はない。
撤退するくらいなら、ここで散る覚悟もある。
休憩中、バージルは壁の端から『それ』を眺めている。
そこで気付いたが、休む時のポーズでさえ一緒だった。
「同じ力……同じ技……クソ、やりにくい……」
クラストに言われた『クセ』までソックリだ。修正できている所、まだの所も。
(あぁ、他の奴らは行けてんだろうか……)
真っ先に浮かんだのは、レイズの顔。
(あいつは……ギリ行ってそうだな……)
何だかんだ、彼は見違えるほど強くなった。
粗さはあるが、這ってでも先へと進みそうな粘り強さはある。
次に、リゼルとレイラ。
(あいつらは……大丈夫だろ)
あの二人が、ここで躓くとは思えない。
同じように驚き、苦戦はしただろうが、きっと活路を見つける。そして、必要なレベルまで進化する。
地位があっても、最前線で戦う二人。経験も、覚悟も違うだろう。
(マリナ……ミーネ……お前らは……)
彼女たちと自分は、一度も「龍の声が聞こえていない組」だ。
幾度となく味わった敗北と、置いていかれている事実。彼女たちに、自分に、それを乗り越えるだけの原動力があるのだろうか。
正直、騎士団に入ったのは、知りたかった真実に近づくため。信念に惹かれた訳でも、人助けがしたかった訳でもない。
過程の話で、ゴールではなかった。
そんな自分が、王とその盾と同じチームとなり、龍魂の最前線を行くなど、想像もしていなかった。
真実には近付いていると思う反面、自分の限界にも近づいている。最近、それを強く感じている。
エラー龍力者に実力を追い抜かれ、力の差はひっくり返った。
属性贔屓する気はないが、太陽龍は希少価値が高い。どうしても、ドラゴン側の火力差に目が行ってしまう。
情けない言葉を使うと、シンプルに嫉妬だ。
風龍に不満はない。が、周囲の努力により、太陽龍を得た彼が羨ましく感じてしまう時もある。
彼が出す火力も、太陽龍があってこそなのでは?と白い目で見てしまう。
(あぁ……クソ。止めだ止めだ)
バージルは、分かりやすく頭を抱えた。
こう考えるのは、決まって自分の精神面が不安定になっている時だ。
(お前らも、挑んでんだよな)
力が伸びていない『こちら側』のエラー龍力者も世にはいるにはいるが、彼女たちは例外な部分もある。
彼女たちは、最近まで龍の支配下にいたのだ。再び呑まれるかもしれないその恐怖に打ち勝ち、ここまで着いてきてくれただけでもありがたい。
その点で言えば、バージルは正式な龍力者である。
(ちィ……だったら、俺もクリアしないとな)
歩みを止めてはいけない。
分かっている。
心が折れてはいけない。
分かっている。
立ち上がれ。戦え。
分かっている。
人には、向き不向きがある。
仕事だし、自分が選んだ道だ。限られた選択肢で否応なく選んだ道ではない。
だから、向いている・向いていないで進退を決めたくない。
だから、せめて……出来る出来ないで進退を決めよう。
だから。
「出来るまでやりゃぁ、出来んだよ……覚悟決めやがれ。日和クソ野郎が」
バージルは剣を手に、立ち上がった。
バージルは、道中の謎解きをクリアし、最奥の空間まで到達していた。
最初のよりは小さめだが、キューブが二個のパターンや、浮かす必要はないが、途轍もなく重いキューブを、壁画の順番を考えて合わせていくパターンなど、繊細な龍力を維持したり、シンプルに強さを求められたたりする謎解き(課題と言うべきか?)が多かった。
故に、体力消費がえげつない。
何の下準備もないままに鏡を綺麗にしてしまったため、自発的にハンデを背負って戦闘に入っている。
「クソ……」
『それ』の戦闘力は、自分と同等か、やや上。体力消費した直後では、勝ち目は薄い。
が、彼は「ある発見」をしていた。
それは、幸か不幸か、鏡の間から去れば、『それ』は鏡の中に戻っていくことだ。
戦闘開始と同時に入り口の通路は何かしらのトラップで閉ざされると思っていたが、何も変化はなかった。
実際、「聞いてねぇって!!」と叫びながら撤退すると、『それ』の動きは止まり、鏡の前に戻っていったのだ。
ただ、姿は消えない。即ち、倒さなければ、先に進めない。
ソルは、これも想定して提案してきたのだろう。
「ふぅ……休ませてもらうぜ」
『それ』は敵だが、対立している相手ではなく、課題の一つ。
だから、疲労困憊で戦う必要もない。実際は連戦を強いられることもあるが、誰も来ないこの場で律儀にそれをする必要はない。
撤退し、回復、突撃のサイクルで、いくらでも挑むことができる。
(回数制限もない。いざとなりゃあ、ここに逃げれる。けど……)
敗北を重ねたこと、王を奪われたことで弱気になっているバージル。
その上試練でも勝てないとなると、本当に心が折れてしまう。
ある意味、この発見はバージルの生命線だった。
とはいえ、回復手段も無限ではない。
ひと眠りするにも環境が悪すぎるし、消耗品も無駄にできない。
(……ちげぇよな)
最初はともかくとして、ピンチになったら逃げて、回復して挑んで……って、それは何か違う気がした。
ソルが許したとしても、それすら「試されている」と考えただろう。
「死ぬこと以外は掠り傷」だが、自分たちが置かれている状況的にも、撤退を繰り返すのに前向きにはなれない。
課せられた訳でもなく、バージル次の戦闘で決める気でいた。当然、撤退の選択肢はない。
撤退するくらいなら、ここで散る覚悟もある。
休憩中、バージルは壁の端から『それ』を眺めている。
そこで気付いたが、休む時のポーズでさえ一緒だった。
「同じ力……同じ技……クソ、やりにくい……」
クラストに言われた『クセ』までソックリだ。修正できている所、まだの所も。
(あぁ、他の奴らは行けてんだろうか……)
真っ先に浮かんだのは、レイズの顔。
(あいつは……ギリ行ってそうだな……)
何だかんだ、彼は見違えるほど強くなった。
粗さはあるが、這ってでも先へと進みそうな粘り強さはある。
次に、リゼルとレイラ。
(あいつらは……大丈夫だろ)
あの二人が、ここで躓くとは思えない。
同じように驚き、苦戦はしただろうが、きっと活路を見つける。そして、必要なレベルまで進化する。
地位があっても、最前線で戦う二人。経験も、覚悟も違うだろう。
(マリナ……ミーネ……お前らは……)
彼女たちと自分は、一度も「龍の声が聞こえていない組」だ。
幾度となく味わった敗北と、置いていかれている事実。彼女たちに、自分に、それを乗り越えるだけの原動力があるのだろうか。
正直、騎士団に入ったのは、知りたかった真実に近づくため。信念に惹かれた訳でも、人助けがしたかった訳でもない。
過程の話で、ゴールではなかった。
そんな自分が、王とその盾と同じチームとなり、龍魂の最前線を行くなど、想像もしていなかった。
真実には近付いていると思う反面、自分の限界にも近づいている。最近、それを強く感じている。
エラー龍力者に実力を追い抜かれ、力の差はひっくり返った。
属性贔屓する気はないが、太陽龍は希少価値が高い。どうしても、ドラゴン側の火力差に目が行ってしまう。
情けない言葉を使うと、シンプルに嫉妬だ。
風龍に不満はない。が、周囲の努力により、太陽龍を得た彼が羨ましく感じてしまう時もある。
彼が出す火力も、太陽龍があってこそなのでは?と白い目で見てしまう。
(あぁ……クソ。止めだ止めだ)
バージルは、分かりやすく頭を抱えた。
こう考えるのは、決まって自分の精神面が不安定になっている時だ。
(お前らも、挑んでんだよな)
力が伸びていない『こちら側』のエラー龍力者も世にはいるにはいるが、彼女たちは例外な部分もある。
彼女たちは、最近まで龍の支配下にいたのだ。再び呑まれるかもしれないその恐怖に打ち勝ち、ここまで着いてきてくれただけでもありがたい。
その点で言えば、バージルは正式な龍力者である。
(ちィ……だったら、俺もクリアしないとな)
歩みを止めてはいけない。
分かっている。
心が折れてはいけない。
分かっている。
立ち上がれ。戦え。
分かっている。
人には、向き不向きがある。
仕事だし、自分が選んだ道だ。限られた選択肢で否応なく選んだ道ではない。
だから、向いている・向いていないで進退を決めたくない。
だから、せめて……出来る出来ないで進退を決めよう。
だから。
「出来るまでやりゃぁ、出来んだよ……覚悟決めやがれ。日和クソ野郎が」
バージルは剣を手に、立ち上がった。
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