Hな短編集・ファンタジー編

矢木羽研

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《獣使い》と呼ばれる俺は今日も相棒の狼っ娘とともに冒険と夜の戦いに精を出す

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 俺はウェアウルフ(人狼)の少女とともに冒険をする。戦闘でもセックスでもタフな彼女は撫でられるのが大好きな甘えん坊。

 ※ノクターンノベルズに完全版を掲載しています

 ***

「奴らは気付いていないようだな、奇襲を仕掛けるぞ」

 俺は相棒のウェアウルフ―今は狼の姿をしている――に話しかけた。

「りょーかいっ、ご主人さま!」

 彼女は俺の意図を汲んで人の姿に変容してそう返した。

「みんなあたしの獲物なんだから!」

 静かに叫びながらオーガの群れに向かって疾走し、相手が反応する隙も与えず鋭い爪で頸動脈を切り裂いていった。人間の体術と野獣の肉体を兼ね備えた種族だからこそ可能な身のこなしで、オーガ達は反撃する間もなく倒れ伏していく。

「いいぞ、流石だ!」

 俺は彼女を褒めながら奴らの注意を惹きつける。同時に治癒の呪文をいつでも唱えられるように構える。しかし、その必要はなさそうだった。無傷で3体のオーガを屠ると、残りは退散していった。

「えへへー!もっと誉めてもいいんだよ?」

 嬉しそうに尻尾を振りながら俺のもとに駆け寄ってきた彼女の首筋を撫でてやる。一糸まとわぬ姿をした彼女は恍惚とした表情で、はぁはぁと息を荒げている。

 無論、彼女も街の中で人の姿をしている時は服を着る。しかし狼の姿では服を身につけることはできないので、変身すると裸になってしまう。臨機応変に姿を変える必要のあるダンジョンの探索では常に裸の状態こそが合理的というわけだ。

 幸い、彼女の身のこなしに加えて獣人族特有の頑強な肉体があるので防具は必要としていない。試しに革鎧を着せてみたことがあるが、動きの邪魔になるようでかえって傷を増やすだけの結果に終わった。

「さてと、オーガどもが相手じゃ戦利品も期待できないが……お?」

 俺は死んだオーガの1体が握っている棍棒に目をつけた。間違いない、化石木だ。長い年月を経て化石化した樹木には魔力が宿り、魔法具の原料として高値で取引されている。まして棍棒として振り回せるほどに大きなものはめったに見つからない。

「大収穫だ、今日はもう引き上げるぞ」
「えー、もう終わり?」

 既に息を整えていた彼女は寂しそうな顔をした。まだ暴れ足りないのだろう。

「言うことを聞かないなら置いていくぞ」
「ちぇー、わかったよ」

 彼女は渋々、俺の後をついてくる。一見すると気ままなようでいて、主人として認めた者には従順なのだ。

 *

「ねえ、その木って重いんじゃない?あたしが持ってあげてもいいのに」

 確かに彼女のほうが力は強い。化石木を重そうに担いでいる俺を気遣ってくれるのは嬉しいのだが……。

「駄目だ。お前の仕事は哨戒と戦闘だ。それにもうすぐ出口だぞ」

 彼女は俺のことを「ご主人さま」と呼ぶが、それは役割であって主従関係とは少し違う。あくまでも対等な相棒であり、冒険ではそれぞれの役割を忠実に果たすのだ。そうでなければ生き残れない。

「は~い」

 彼女は狼の姿になった。ダンジョンから拠点までの道中では行きも帰りも狼になる。そうすれば余計な服などを持ち歩く必要もない。

「お、《獣使い》の旦那、今日は凄いのを見つけてきたな」

 やっとのことで冒険者ギルドまで戻ってくるとマスターは開口一番にそう言った。

「まあな、さっそく換金したいから魔術ギルドに使いを出してくれないか」

 俺は上機嫌でチップを用意しながらそう答えた。彼女を相棒にしてから、もっぱら俺は《獣使い》と呼ばれるようになった。しかし本来は神官上がりの戦士であり、その手の技能を持ち合わせてはいない。 とはいえ、彼女の正体が明らかになると余計な厄介事に巻き込まれそうなので特に否定はせずに通している。

「いやぁ、これほどの化石木がまだこの地に残っていたとはのぅ」

 魔術ギルドの鑑定人である老ドワーフは目を輝かせてそう言った。

「あんたが持って帰ってくれなければオーガどもの武器になってバラバラにされていたじゃろうて」

 鑑定人は化石木を愛おしそうに撫でながら、心の底から嬉しそうにそう言った。俺はかなり強気の価格交渉を仕掛けたつもりだったが、最初の言い値で買い取ってもらえることになった。

「これは手付金じゃ。残りは後ほど冒険者ギルドを通じて引き落とせるようにしておこう」

 ずっしりとした金貨袋と証文を渡された。

 *

「すごーい!こんなたくさん金貨を見たのは初めてかも!しかもまだあるんでしょ?」

 宿屋に戻った俺たちは、思いもよらぬ収穫の余韻を噛み締めていた。これだけあれば装備を完全に新調できる。あるいは家を買ってもいい。冒険者稼業を引退してスローライフも悪くない。いっそ農場や商店でも開いてみようか。

「あの化石を手に入れたのもお前のおかげだからな」

 実際、その通りだ。化石木を振り下ろす隙さえ与えずに仕留めてくれたからこそ無傷で手に入ったのだ。そう言って彼女を撫でてやると嬉しそうに体を擦り寄せてきた。

「ねぇご主人さま、ご褒美ちょうだい?」

 上目遣いでこちらを見つめてくる。この場合の「ご褒美」は一つしか無い。俺は無言で彼女の顔を引き寄せて唇を重ねて押し倒すと、彼女の両手の指に俺の指を絡ませる。彼女は強く、しかし爪は立てずに握り返してきた。

 ***

 ウェアウルフという種族は、相手が人間であっても狼であっても子を成すことができるらしい。そして、どちらと交わった場合でも生まれてくるのはウェアウルフとなる。実際、彼女の父親も人間だという。ただし同じウェアウルフ同士で交わる場合と比べると子を宿すのは難しいようだ。

「ねえご主人さま、あたし達にも赤ちゃんできるかなぁ?」

 行為の後、いつも彼女はそう問いかけてくる。明日をも知れないその日暮らし、いつもなら適当にあしらうところだが今日は違う。
「ああ、できるといいな」

 もし子供が出来たらこの稼業は引退だ。第二の人生のための資金はできた。

「ねえ、何人欲しい?」
「そうだな、たくさんだ」
「えー、欲張りさんだなぁ」
「俺とお前の子なんだ、きっと強い子になるだろう」
「そっかぁ、じゃあ頑張らないとね」

 そう言って抱きついてくる彼女の頭を、眠りにつくまで優しく撫でてやるのであった。
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