トムとライラの道中記 ~挫折ヒーラーとウェアウルフ少女の物語~

矢木羽研

文字の大きさ
7 / 43
本編

都市

しおりを挟む
王国の中央都市。本来は固有の名称が存在するのだが、文字通りにほぼ中央に位置するため、現在では「中央都市」と呼ばれることが一般的だ。
街道と港に面しており、歴史は比較的新しいものの現在は王国内で最も発展している都市である。なお「首都」は別に存在する。

城門を守る衛兵にゴルド卿による書状を見せるとすぐ通してくれた。
もちろんライラのことは書いていないが問いただされることはなかった、有力領主の力はそれだけ強いということである。

「さて、まずは馬を返しに行かないとな」
駅家に馬を引き渡す。問題はなかったので保証料の金貨9枚が全額返還された。
馬との別れを名残惜しむライラの手を引いて、神殿に報告しに行くことにした。

「トムさんじゃないですか、お久しぶりです」
若い神官に挨拶された。なんだかんだ言っても俺はそれなりに高位の神官なので、ある程度の立場はある。
「急で済まないんだが、神官長殿に通してもらえないだろうか」
「それはいいのですが、その女の子は……?」
この神殿の奥は女人禁制である。逆に、男子禁制の神殿もあるのだが。
「色々事情があってな。この書状を神官長殿がお読みいただければ理解していただけると思う」
俺は、ライラに関することをまとめた書面を託した。これを読めばいかに重大なことかわかるはずだ。
「わかりました。それではお待ち下さい」

俺は礼拝堂でライラと待った。
「あれが豊穣神さまなの?」
狼の頭部と人間の体を持つ女神のレリーフを見てライラがつぶやいた。
「ああ。大地の全ての恵みを司る女神様だ。人も、獣も、草木も、石や金属さえも」
「優しいお顔……」
ライラは恍惚とした表情で見とれている。俺は何も言わずに彼女の横顔を見つめていた。

「トムさん、神官長殿がお越しです。面会室までどうぞ」
「わかった。ライラ、行くぞ」
レリーフに見とれているライラの手を引いて面会室へ向かう。
「お久しぶりです、神官長殿。こちらから出向くべきところを呼び出してしまって大変失礼いたしました」
「構わぬよ。それで、この子が例の獣人族というわけじゃな?」
興奮した様子である。神官長殿にとっても珍しい存在なのだろう。
「はい。……ライラ、フードを取ってくれないか」
俺の言葉に従い、狼の耳を付いた頭を見せる。
耳は自然に動き、それが作り物ではないということを証明する。
「なんと!!」
「ライラ、変身してみてくれ」
「うん」
そう答えると、すぐに狼の姿に変身した。一旦うずくまってから、服の下から出てくる。
神官長殿も、付き添いの若い神官も声も出せずに驚愕している。
「よし、人の姿に戻ってくれ」
ライラは服の中に潜り込み、再び人の姿になった。

「いやはや、恐れ入った。豊穣神の化身たる神狼しんろう族にまみえることができるとは……」
「神狼族、ですか?」
長年神殿で修行していた俺でも、初めて聞く言葉が飛び出した。
「神と人の仲立ちをすると言われておる。伝承も断片的で、教義上の解釈も難しいゆえに教えることが憚られてきたのじゃよ」
「神と人の仲立ち、ですか……」
先ほど、礼拝堂のレリーフに見とれていたのは神の言葉を聞いていたとでも言うのだろうか?
「神狼族からは神の声を拝聴する巫女が生まれると言われておる。かつてはどの神殿にもいたそうじゃ」
"狼の顔をした巫女"の話は知っている。ただ、それは何かの比喩であったり、仮面や毛皮のことだと思っていた。
「つまり、ライラは巫女ということですか?」
「そこまではわからん。ただ、かつて巫女と呼ばれていたのは同じ一族なのじゃろう」

「神さまの声、私聞いたことがあるかも知れない」
「ライラ、それはどういう意味だ?」
「船に跳び乗ったときも、不思議な声に導かれた気がしていたの」

彼女がこの地に導かれたのは偶然ではないようだ。やはり「異変」と関係があるのだろうか。

**

この大陸では「異変」が起きつつある。
魔物は年々と数を増しており、嵐や旱魃、地震といった災害も確実に増えている。
多くの人々は気づいていない。いや、そもそも自分が住んでいる町や村以外の情報を得られる者自体がごく限られているのだ。

災害による作物への影響をいち早く察知したのは、中央都市の西部に広がる穀倉地帯の領主であるゴルド卿である。
全体で見ればまだまだ些細な量で、飢饉に陥るほどではない。しかし総収穫量が10年近く減り続けているのは尋常ではない。
まして近年は開拓も盛んに行われるようになったので、収穫量はむしろ増えて然るべきなのである。

ゴルド卿は過去の記録を調べ上げた。
そして、大陸内の異なる地域で個別に伝承されていた「魔物の襲来」と「飢饉の発生」の時期が、やや時間差があるものの完全に重なっていることを突き止めた。
そして、記録の中で最も飢饉が多かったとされる年は、この国の誰もが知るおとぎ話である「聖剣に導かれた勇者の物語」の舞台になったと推測される年代と重なっていた。

調査が進んでいた矢先、ゴルド卿の領内において、農家に生まれた少年のアランが湖の底から不思議な剣を引き抜いた。
人々は「聖剣」の再来だと囃し立てた。少なくとも、誰も見たこともない金属で作られた、岩をも突き通す刀身は並の剣であるはずがなかった。
ゴルド卿はアランと共に自ら旅立ち、この謎を解き明かすことを決意。
神殿から遣わされた俺とエルを従え、道中でイザとエレナを仲間に加え、俺たちは一蓮托生のパーティとなった。

……もう、2年も前の話だ。まだ13歳だったアランもすっかり大人らしくなるわけだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

騎士団の繕い係

あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...