日曜の昼は後輩女子にパスタを作る

矢木羽研

文字の大きさ
15 / 95
本編

王道海鮮!あさりのボンゴレ

しおりを挟む
「おはようございます、砂は抜けましたか?」
「ああ、一晩経ったからな。もう食べられると思う」

昨日、新鮮な活アサリを買ったことを伝えている。今日のパスタはもちろんボンゴレだ。殻付きで250グラムあるので、2人分にはちょうどいいだろう。

「貝の砂抜き、失敗することが多いんですけど先輩はどうしてます?」
「俺はこれを使ってる。ザル付きのボウルだな」
「野菜の水切りに使うやつですね」
「そう。あとはフタをして暗くするのもポイントだ」

テーブルの上に取り出して説明する。ザルを持ち上げると、ボウルの底にはまだ少し砂があった。

「貝が呼吸できるように、水は浅めに張るんだ。ただし水の量が少なくてもいけないから、ザルで底上げしておく」
「なるほど、これなら砂も下に落ちてきれいになりますからね」
「ボウルに入れただけだと、せっかく吐いた砂をまた吸い込むからな」
「確かに!」

「あと水はこまめに取り替えること。昨夜寝る前と、今朝起きた後に替えておいた」
「塩の加減はどうしてます?」
「海水と同じ約3%だな。1カップの水に小さじ1杯の塩がわかりやすい目安だ」
「200ml、つまり200グラムの水に対して6グラムの塩ってことですね」

算数のテストでよく見るパターンだが、これだと実際の濃度は3%より少し低くなる。もっとも海水の塩分だって環境によって異なるし、長期的に飼育するわけでもないので大雑把でいいだろう。

*

「さて、さっそく作るか。今回はワンパン方式でいく」
アサリを軽く洗って、火を入れたフライパンの中に入れていく。同時に日本酒を注ぎ込んでフタをする。

「酒蒸しにするんですね」
「ああ、そのままおかずとしても食べられるぞ」

このレシピは、実家で多めに作った酒蒸しをパスタにアレンジしたのが始まりである。

*

「わかってはいるんですけど、ちょっとかわいそうですよね」
「まあ、これが生き物を食べるってことだからな」

貝の料理というのは、家庭において「生き物を殺して食べる」というのを実感する数少ない機会である。塩抜きの過程で、元気に管を伸ばしている姿を見ているとなおさらだ。

「殻が開いてきたら、なるべく早く取り上げていくぞ」

大きさが不揃いだと、殻が開くまでの時間に差が出やすい。火が通り過ぎると硬くなるので、順次取り上げていくのが望ましい。

「あ、手伝います」
次々に殻が開いていく。幸い、死んでいた貝はないようだ。

「それじゃ、パスタを茹でていくか」
「フライパン、そのまま使うんですね」
「ああ、貝の旨味が出ているからな」
200グラムのパスタに対し、2倍+150である550mlのお湯を量り、フライパンの中に入れる。沸騰したら半分に折ったスパゲッティを入れる。

「今のうちに貝の身を取っておくぞ」
「あ、殻付きのまま使うんじゃないですね」
「もう一度炒め合わせるし、単純に食べづらいからな」

店でボンゴレを頼むと殻付きのまま出てきたりするが、食べやすさを考えるのならば身取っておくべきだろう。

「貝柱が美味いからな。スプーンで全部こそげとっていくんだ」
「結構、大変ですね」
「まあパスタが茹だるまでに時間はある。俺がやっとくから、パスタのほうをかき混ぜておいてくれるか?」
「はーい!」

こういう時、手がもう一つあるのは助かる。一人だと同時進行するのが難しい。俺は身取りを終えると、唐辛子とニンニクを刻んでおいた。

*

「先輩、そろそろいいんじゃないですか?」
すでにパスタは規定の茹で時間を過ぎた。お湯も煮詰まって少なくなっている。

「そうだな。そろそろ仕上げるか」
フライパンの中にオリーブオイルを注ぎ、アサリの身と薬味を入れる。

「味付けはどうします?」
「基本的には貝の塩気だけでも十分だけど……少し醤油入れるか」
味見をして、やや物足りなかったので醤油を足す。鍋肌から入れて香りを付ける。

「最後に、これを少し入れる」
「出ました、味の素!」
「貝の旨味を引き立てるには、余計な風味のない純粋なアミノ酸が一番だからな」

味の素は妥協でも手抜きでもない。今回のように単一の食材を使うような場合、余計な風味を足さずに純粋に旨味を補える調味料こそがベストな選択肢となるのである。

「最後にもう少し煮詰めて……こんなところか」
火を止めて、二つの皿に均等に盛り付ける。

「最後に、これを散らそうか」
俺はベランダに出してあったバジルの鉢植えから葉っぱを少し摘み取って、軽く水で洗うと細かく刻んで振りかけた。

「いい香りですね」
「ああ、今はまだ小さいけど、大きくなったらジェノベーゼでも作りたいな」
先々週に苗を買ってきたバジル。すくすくと育ってきた。

*

「お酒と醤油、和風ボンゴレって感じですね」
「まあベースは酒蒸しだからそうなるな。白ワインとか使ってもいいかも知れない」

いつものように、まずは半分ほど平らげてから彼女が言う。

「そういえば本格的な海鮮パスタって初めてですね」
「確かにな。コスパを考えるとあんまり海産物は買わないからなぁ」

「先輩の実家、確か海の近くでしたよね」
「ああ。この季節になると近所の漁師さんにハマグリ分けてもらったりしてたな」
ハマグリはアサリよりもさらに高価なのでまず買わないが、このレシピは本来はハマグリで作っていたものだ。

「海、いいですね。ちょっと気が早いですけど、夏休みに行ってみたいなぁ」

**

「それじゃ先輩、また明日!」
「ああ、気をつけて帰れよ」

あれから夏休みの計画について少し話をした。同じ講義で仲良くなったグループで行こうか、泊まるならどこにしようか等。3年生はそろそろ就職活動で忙しくなるので、うまく予定を合わせられるかはわからないが。

大学生活はモラトリアムとも言われて、いくらでも時間があるように錯覚してしまうのだが、決してそんなことはない。今できること……いや、今しかできないことを全力でやっていきたいと改めて思うのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~

root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。 そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。 すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。 それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。 やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」 美人生徒会長の頼み、断れるわけがない! でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。 ※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。 ※他のサイトにも投稿しています。 イラスト:siroma様

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...